第3回 変革型イノベーション創出の鍵

第3回は、変革型イノベーション創出の鍵について、紹介します。

調査から明らかになった、変革型イノベーション創出に向けての7つの課題

2018年度のアンケート調査、および2019年度のアンケート調査・インタビュー調査の結果から、変革型イノベーション創出に向けた課題として、以下の7つが浮かび上がってきました。

鍵のイメージ写真

課題1から課題5までは、2018年度のアンケート調査から抽出された課題であり、2019年度のインタビュー調査で検証しています。
その結果、変革型イノベーション創出企業が確かにこれらの課題にしっかりと取り組んでいること、また、その取り組み内容についても明らかにすることができました。そして、課題6および課題7は、2019年度のインタビュー調査の結果、変革型イノベーション創出企業が取り組んでいる、新たに見えた課題です。

課題1:人材マネジメントに首尾一貫性を持たせる
課題2:内外ネットワークを通じたオープンイノベーションの強化
課題3:人的資源ポリシーの再構築
課題4:チームで取り組むイノベーション創出
課題5:求心力と遠心力のバランスをとる
課題6:失敗を組織資産化する
課題7:トップの意思決定力・牽引力を強化する

「トップの意思決定力・牽引力を強化する」の解決は、重要な鍵のひとつ

7つの課題は、人材マネジメントにかかわる事項から組織の制度にかかわる事項、風土やトップ・マネジメントにかかわる事項と実に多岐にわたることが明らかになりました。ここでは、多くの日本企業が取り組むべきであろう「トップの意思決定力・牽引力を強化する」について考えたいと思います。
7つある課題のうち、「トップの意思決定力・牽引力を強化する」に着目する理由は、その解決が、他の6つの課題解決に向けてのエネルギーの源泉になるからです。また、他の6つの課題よりも、日本企業にとって、最も改革の余地があると考えるためです。

日本企業のトップ・マネジメントの状況

日本企業のトップ・マネジメントの状況を見てみると、以下のような問題点が見えてきます。

第一に、“在任期間の短さ”が挙げられます。日本企業のCEOの任期は平均4~5年で、米国企業の13~14年に比べて在任期間がかなり短いといわれています。
よく引き合いに出されるGEのジャック・ウェルチのCEO在任期間は20年。後継者のジェフリー・イメルトも16年もの間CEOを務めました。
こうした事実からも、日本企業のCEO在任期間がいかに短いかがわかるかと思います。
CEOの在任期間が短いと、長期的な視野に立っての意思決定が極めて困難になるといえます。変革型イノベーション創出に向けた活動は、長期的には大きなリターン獲得につながるかもしれませんが、短期的にはかなりのリスクを伴います。在任期間の短い日本企業のCEOが、変革型イノベーション創出になかなか前向きになれないのも無理はありません。

第二に、多くの日本企業が採用している、新卒一括採用、企業内長期教育といった、メンバーシップ型人的資源ポリシーを前提とした“垂直型のキャリア形成”が挙げられます。
日本企業のCEOは、生え抜きが多いといわれています。つまり、新卒で入社して、管理職、役員、CEOと登りつめてきた人材です。別の表現をすると、あまり環境変化がない中、管理スパンの幅を徐々に拡大することでキャリア形成してきた、ということになります。
しかしながら、CEOは管理職の延長線上にあるものではありません。管理職とCEOとでは、機能そのものが全く異なりますし、求められる能力・スキルもまったく異なります。そのための教育も受けておらず経験も十分にはない中で、CEO就任と同時に、会社の代表として変革型イノベーション創出に向けた意思決定を的確に行うことは、極めて困難であるといえます。
さらに、生え抜き人材は、他社を渡り歩いてきた人材に比べ、一人内多様性(イントラパーソナル・ダイバーシティ)の幅が狭くなりがちです。そうした人材ばかりでボードメンバーが固められていると、経営チームとしての多様性の幅も狭まります。変革型イノベーション創出という文脈において、やはりトップ・マネジメント改革は急務といえるでしょう。

“CEO候補者の早期選抜”“計画的・水平型キャリア形成”による改革

そこで、“CEO候補者の早期選抜”と、“計画的・水平型キャリア形成”によるトップ・マネジメント改革を提案したいと思います。

CEO選抜のイメージ写真

CEO候補者選抜を早期化することで、CEO就任年齢自体を下げることになり、じっくり腰を据えてCEOの役割を全うできるようになります。また、若いうちから、国内外の子会社のトップをはじめとした、より高い視座、広い視野が求められる仕事や、重要な意思決定の機会を付与するなどの、計画的かつ水平型のタフアサインメントを通じたキャリア形成をすることで、豊富な経営経験・能力が蓄積されることになります。

折しも、2018年6月コーポレートガバナンス・コード改訂により、サクセッション・プラン(後継者育成計画)の議論が活発化してきています。こうした追い風にのって、CEO候補者の早期選抜と、計画的・水平型キャリア形成によるトップ・マネジメント改革を進め、日本企業のトップの意思決定力・牽引力の強化、ひいては変革型イノベーション創出につながることを期待します。

本コラムを以って「データで読み解く~イノベーションを生み出す人材と組織の要件」は最終回となります。
全3回に渡り本コラムをお読みいただき、ありがとうございました。
本調査、および本コラムが皆さまの属する企業のイノベーション創出にお力添えできましたら幸いです。

イノベーション創出に向けた人材マネジメント調査報告書

2018年度「イノベーション創出に向けた人材マネジメント1(現状と課題)」および、今回の調査結果をまとめた2019年度「イノベーション創出に向けた人材マネジメント2」を用意しております。
より充実した内容をお届けします。

「イノベーション創出に向けた人材マネジメント調査」ダウンロードはこちら
「イノベーション創出に向けた人材マネジメント調査II」ダウンロードはこちら