人事業務におけるクラスター分析の活用(2)

人事業務におけるクラスター分析の活用(2)

前回は、クラスター分析の概要について触れた。今回は、クラスター分析を用いた分析事例と人事業務におけるクラスター分析の活用可能性について述べていきたい。

診断データを用いたマネジャーの分類

人事業務においてクラスター分析が貢献できるのは、社員を分類してタイプを把握することで、採用・育成・評価・異動・労務管理等の意思決定に役立てることであろう。

社員を分類するデータは、社員を能力で分類することも有益な判断基準を見いだせる可能性がある。
今回ご紹介する事例では、産業能率大学が提供している、マネジメントの特性を診断するツール「マネジメント特性診断PASCAL Basic」を能力項目として用いている※1。
マネジメント特性診断PASCAL Basic

このツールは、マネジャーに対する質問形式で得た回答から、必要な特性を診断するものであり、以下の事例では某企業で実施した結果を用いた。

  • 1マネジメント特性診断PASCAL」は、マネジャーに必要な下記4つの能力を測定するもの。
    1.基盤となる能力、2.変革・改革推進に必要な能力、3.効率的・確実な職場運営に必要な能力、4.促進・抑制要因についての個人の能力
    調査は質問票に記載された質問への回答結果から、22項目[図表1]の能力得点を得る。
図表1:マネジメント特性(PASCAL Basic)の構成概念
1 対人的感受性
2 対人関係の広さ
3 自己開発意欲
4 知的好奇心
5 仕事への自信
6 チャレンジ精神
7 決断力
8 状況対応性
9 知的柔軟性
10 熟慮性
11 達成意欲
12 職場運営力
13 上昇意欲
14 仕事意欲
15 対人適応性
16 対人的柔軟性
17 情緒安定性
18 組織適合性
19 職場適合性
20 上司適応
21 同僚適応
22 部下適応

課長クラスのクラスター分析の実施

今回は、某企業における課長クラスの社員について、先述の22項目に「年齢」「性別」「部下の人数」のデータを加え、事前にクラスターの数を指定する非階層型クラスター分析を用いて分析を実施した。
クラスターの数を6(「クラスター1-1」~「クラスター1-6」)として実施した結果を[図表2]に示した。

図表2 クラスター分析の結果(マネジメント特性診断 課長クラス)

※クリックすると各クラスターに対する考察がご覧いただけます

クラスター 1-1

「性別」の値が高く、主に女性マネジャーによって形成されている。 大部分の項目についてはほかのクラスターと比較しても平均的で特別目立った項目はないが、「達成意欲」が高く、仕事をやり遂げようとする姿勢が高い。

クラスター 1-2

「熟慮性」と「組織適合性」が低く、計画性の低さや会社に対して好ましくない印象を持っている特徴がある一方、それ以外のほとんどの項目で高い値を示していた。マネジャーに必要な基礎的な力、変革に必要な力、職場運営に必要な力のすべてが高く総合的に能力が高いことから、高いパフォーマンスが期待される。

クラスター 1-3

「熟慮性」が高く、マネジャーとして業務を遂行する上での能力は平均的であるが、「職場適合性」や「部下適応」が低いことから、じっくりと個人で業務に取り組みがちで、誤ると職場での孤立が危惧される。

クラスター 1-4

総じてマネジャーとしての能力が低く、「仕事意欲」「上司適応」の高さが目立つ。仕事の中で“上司への対応”に関する意思決定がウエートを大きく占め、本来のマネジャーの役割が担えていないことも危惧される。

クラスター 1-5

マネジャーとして業務遂行能力は平均的である一方、「組織適合性」が高いことから、会社に対して良いイメージを持ち、組織の中でバランスをとりながら求められる業務を無難にこなしている様子が見てとれる。

クラスター 1-6

「年齢」が高く、総じてマネジャーの能力は低いクラスターである。特に「達成意欲」「上昇意欲」「仕事意欲」といった意欲の低さが目立つことから、定年が近づきマネジャーとしての意欲を失ってしまっていることが危惧される。

上記の各クラスターにおいて、それぞれのクラスターに所属するマネジャーのパフォーマンスや、マネジャーが管理する職場のパフォーマンスをクラスター間で比較することで、マネジャーの異動や昇格、長期的な組織体制の見直し等の意思決定をする際の参考となるだろう。

組織として、どのようなタイプのマネジャーを増やしたいのか、また減らしたいのかを踏まえ、人事業務における意思決定に活かすことができる。

人事業務におけるクラスター分析の活用法

人事業務におけるクラスター分析の活用では、この他にも社員に関するさまざまなデータを用いることが可能である。例えば、以下のようなデータからも、人事業務の目的に応じた社員の分類基準を作成できる。

  • 採用試験の成績、適性検査の結果、面接の評価
  • 出勤時間、退勤時間等の勤怠記録(残業時間)
  • 昇給、昇格、賞与に関わる評価結果
  • 上司との面談の記録(回数、面談内容)
  • 360度フィードバックの結果
  • 研修の参加記録
  • 異動・配置転換の記録
  • 異動希望や転勤願などの自己申告
  • 健康診断、ストレスチェックの結果
  • 通勤経路
  • 自社で管理・契約している保養施設の利用記録
  • 扶養家族の状況

そして、人事業務におけるクラスター分析の活用法を、主な目的別に整理すると、以下のようになる。

※クリックすると各項目の活用法をご覧いただけます

1.採 用

「採用時の試験結果」「年齢等の個人属性」等のデータでクラスター分析を実施し、タイプごとに「入社後の活躍」 や「離職の有無」を測定することで、採用時の判断基準に用いる。

例えば、採用時において「入社後に活躍するタイプ」「離職しやすいタイプ」等の基準をつくり、意思決定の支援 材料にすることができる。

2.育 成

「社員の能力」「経験年数」「勤務態度」等のデータでクラスター分析を実施し、タイプごとに「個人のパフォーマンス」を測定することで、育成施策の検討や育成対象の基準として用いる。また、これまでに認識されていなかったクラスターの発見があれば人材育成の施策検討や育成対象の基準として利用することもできる。

例えば、営業部門の社員で「顧客との接触回数は少ないが、1回当たりの接触時間が多く、対人コミュニケーション能力は高くはないが、文章力が優れている社員のクラスターは、営業成績が良い傾向にある」等の発見があると、育成の重点施策を検討する判断基準として活用できる。

3.昇給・昇格・賞与

「経験年数」「面談時の評価」「能力の評価結果」等のデータでクラスター分析を実施し、タイプごとに「事前・事後のパフォーマンス」を測定することで昇給・昇格・賞与の判断基準に用いる。

例えば、マネジャーへの昇格の判断において、「マネジャーになればパフォーマンスを発揮するタイプ」「プレーヤーとしては優秀だが、マネジャーとしては苦労するタイプ」等の基準を設けることで昇格の判断基準として活用できる。

4.異動・組織体制の見直し

「経験年数」「能力の評価結果」「勤務態度」等のデータでクラスター分析を実施し、社員のタイプごとに「異動前後のパフォーマンス」を測定することで、社員の異動や組織体制構築の判断基準に用いる。
また、異動や組織体制の構築などの施策を検討する時には、社員の分類だけでなく、組織診断等による「職場の属性」データを使ってクラスター分析を実施し、“職場のタイプ”を把握しておくことも有効であろう。

職場のタイプを明らかにできると、「職場のダイバーシティと業績との関係」等の分析手法としても用いることが可能である。

おわりに

クラスター分析は、社員や職場のタイプを定量的に把握することで、人事業務における合理的かつ合目的な意思決定を支援することができる分析手法である。

また、クラスター分析は、新たにデータを入手しなくても、企業内でこれまでに蓄積してきたさまざまなデータに使える可能性がある。

今後、人事業務領域において、ウエアラブルセンサー等、今まで得られなかったデータが手に入る可能性が増えてくると考えられる。

人事業務におけるクラスター分析の活用は、今後新たな活用方法を生み出していくことができる可能性を秘めている。

執筆者プロフィール

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所 研究員
福岡 宜行

  • 筆者は主にデータ解析、マーケティング(価格設定)
    に関する研修や研究開発を担当
  • 所属・肩書は掲載当時のものです

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福岡 宜行