【第3回】変革型イノベーション創出に向けた日本企業の課題
第2回は、変革型イノベーションを生み出す組織の要件について確認しました。調査結果から、変革型イノベーション創出企業は「両利きの経営」を実践できており、その担い手である多様な人材を確保するために、あの手この手を尽くしていることが明らかになりました。
最終回は、変革型イノベーション創出に向けた日本企業の課題について考えてみたいと思います。
変革型は、メンバーシップ型人的資源ポリシーから脱却しつつある
前回、変革型イノベーション創出企業は、多様な人材を組織にとどめて能力を最大限に引き出すために、採用や評価、育成といった人材マネジメントを一貫して組織だって取り組んでいることが確認できました。そこで今回は、その根幹となる人的資源ポリシーについて確認してみましょう(グラフ)。
ここでは、人的資源ポリシーを構成する9つについて、【A】と【B】どちらの考え方に近いと考えるかを、イノベーション創出の型別に比較しました。グラフ上の数値は、「Bに近い」という回答の割合から、「Aに近い」という回答の割合を減じたものです。
まず、“1.調達”についてみてみると、いずれの型も「新卒採用が中心である」との回答が多く、特に変革型がその傾向が強いことがわかります。“2.異動・配置”については、どの型も「単一職務で専門性を磨かせることを重視している」ものの、変革型は他の型よりも低くなっています。こうしたことから、どちらかというと、旧来より多くの日本企業が採用してきた、長期雇用を前提としたメンバーシップ型の人的資源ポリシー(社員は会社という共同体の一員であるという前提に立った人材マネジメント上の方針や考え方)を採用しているものと思われます。しかし、“7.教育投資”および“8.教育形態”についてみてみると、開発・改善型は「底上げ型の育成を重視している」「一律型が中心である」であるのに対して、変革型は「選抜型の育成を重視している」「選択型が中心である」です。こうしたことから、少なくとも教育に関しては、長期雇用を前提とした一律・底上げ型の教育ではない、すなわちメンバーシップ型の人的資源ポリシーからは脱却しつつある様子がうかがえます。
人材マネジメント・人的資源ポリシーと、風土的側面の変革
また、本調査では、日本企業がイノベーションを創出するために、今後どのようなことが課題になるかを自由記述方式でたずねました。得られた回答160件を分類して上位5つを整理したものが表になります。
それを見ますと、最も多かったのは、“挑戦やリスクテイク、迅速な意思決定ができるしくみ、風土への改革”で、「失敗を許容しない」「意思決定に時間がかかる」「権限委譲がなされていない」などの意見が多く見られました。
次いで多かったのは、“今までの「日本的経営」の特徴であった年功序列・終身雇用を変えていくこと”で、 「横並び主義からの脱却」「中途採用の強化」「積極的な人事異動」などの意見が多く見られました。
また、“メンバー間、上司と部下、部門間でのコミュニケーションの質と量を高めていくこと”も多く、「人間関係の向上」「相互理解」「コミュニケーションの活発化」との意見が散見されました。
こうした定性情報から、変革型イノベーションを創出するためには、旧来型の人材マネジメントや人的資源ポリシーとあわせて、敏捷性やコミュニケーションを向上させるなど、風土的な側面についても変革する必要があることが明らかになりました。
終わりに
これまで見てきたとおり、変革型イノベーション創出企業は、「知の活用・深化」活動と、「知の探索」活動という、質の異なる活動をバランスよく同時に行っており、それを可能にするために、多様な人材を組織に擁していることが明らかになりました。こうした事実からうかがえるのは、世の中や社会に多大なインパクトを与えるような変革型イノベーションは、たった一人の天才から生まれるのではなく、多様な人材が能力を最大限発揮してはじめて可能になるということです。これは、“集合天才(Collective Genius)”に近い考え方といえるでしょう。
また、こうした多様な人材を組織にとどめ、能力を最大限に発揮してもらうために、採用、評価、育成を首尾一貫して組織的に行っていることが明らかになりました。そして、そのためには、従来型のメンバーシップ型の人的資源ポリシーから脱却したり、敏捷性やコミュニケーションを向上したりと、これまでの日本企業のイメージとは大きく異なる、新しいタイプの組織への転換が必要であるようです。