【第2回】変革型イノベーションを生み出す組織の要件

第1回は、日本企業のイノベーション創出の実態と傾向について確認しました。調査結果から、多くの日本企業は、改善型や開発型イノベーションへの取り組みに注力するも、世の中や市場、業界構造を大きく変えるような変革型イノベーションへの取り組みは手薄であることが明らかになりました。とはいえ、変革型イノベーションを創出できている企業の中には、いわゆる老舗企業や重たい企業も含まれている可能性があることがうかがえました。

第2回は、変革型イノベーションを創出するための組織の要件について考えてみたいと思います。

変革型イノベーション創出企業は、「両利きの経営」を実践できている

最近注目を集めているイノベーションのキーワードに、「両利きの経営」があります。これは、組織が保有している既存の強みをより深めるための「知の活用・深化」活動と、組織の新たな強みを創造するための「知の探索」活動という、異なる2つの活動を同じ組織内で行うことを指しています。こうすることではじめて、世の中や市場、業界構造に大きなインパクトを与えるような、変革型イノベーションが生まれるという考え方です。

本調査では、実際に、変革型イノベーション創出企業が、こうした「両利きの経営」ができているかを確認しました。「知の活用・深化」活動に関する7項目(「事業全体の目標の達成に向けて、一致団結している」「業務の標準化・効率化を追求している」「費用対効果が強く意識されている」など)と、「知の探索」活動に関する9項目(「社外の専門家や有識者とのコラボレーションが活発である」「新しいことに挑戦して失敗しても、許容される雰囲気がある」「現在の業務に直接関係のない探索的な活動が盛んである」など)のうち、それぞれ何項目に該当したかの割合を算出して、指標化を試みました。その結果を整理したものが、グラフ1です。

ここでは、縦軸に「知の活用・深化」活動を、横軸に「知の探索」活動をとり、創出しているイノベーションの型別に比較しました。変革型は、「知の活用・深化」「知の探索」活動ともに高い様子がうかがえます。しかし、開発型は、「知の活用・深化」活動は高いレベルで行われているものの、「知の探索」活動はそれほどでもないようです。また、改善型は「知の活用・深化」「知の探索」は中間もしくは低いが、相対的には「知の活用・深化」活動に注力していることがわかります。こうしたことから、変革型イノベーション創出企業は、やはり「両利きの経営」を実践できていることが、本調査の結果から確認することができました。

質の異なる活動を支える、多様な人材

これまで、こうした活動は互いに異質でトレードオフの関係にあるため、1つの組織が2つの活動をバランスよく行うのは非常に難しいと考えられてきました。変革型イノベーション創出企業は、どのようにしてそれを可能にしているのでしょうか。

結論から先に言いますと、その答えはどうも人材にあるようです。調査では、イノベーション創出に寄与するであろう6タイプの人材について、どの程度社内に存在するかをたずねました(グラフ2)。その結果、変革型イノベーション創出企業は、6タイプの人材いずれもほぼすべての企業で存在しているのに対し、開発型や改善型イノベーション創出企業は、「1.ビジネスモデルを創出できる人材」「2.ビジネスモデルを具現化できる人材」が存在する企業が7~8割にとどまっていました。つまり、変革型イノベーションを創出している企業の多くは、多様な人材を擁している、ということがわかります。つまり、人材の多様性を高めることで、異質な活動の同時遂行を可能にしているのではないかと推察されます。

変革型イノベーション創出企業は、人材の多様性を高める努力をしている

では、こうした多様な人材を束ねるために、変革型イノベーションを創出している企業は、どのような人材マネジメントを行っているのでしょうか。まず、実施している施策について見てみると(グラフ3)、チャレンジングな目標設定をおこない、モチベーションを高めて個の能力を最大限引き出す努力をしている様子がうかがえます。また、自社にない専門性を持った人材や自社にないタイプの人材を意図的に採用、新卒採用は職種別・コース別に行うなど、人材の多様性を高めるための採用戦略をとっていることがわかります。

さらに、導入している制度を見てみると(グラフ4)、フレックスタイム制やノー残業デーなどの、柔軟な働き方の追求に関する制度の導入率が高いことがわかります。そして、導入率自体は高くはないものの、複線型人事制度、社内FA制度や社内公募制度、自己都合退職者の再雇用制度などの、個や多様性を尊重するための制度の導入率が相対的に高いことがわかりました。こうした結果からも、変革型イノベーション創出企業では、人材の多様性を高めて、個々の能力を最大限引き出そうとする意図がうかがえます。

多様な人材がいることで「両利きの経営」が可能になり、変革型イノベーション創出につながる

今回の調査から、変革型イノベーション創出企業は「両利きの経営」を実践できており、その担い手である多様な人材を確保するために、あの手この手を尽くしていることが明らかになりました。多種多様な人材それぞれが得意な仕事に取り組み、各自がもつ能力を最大限発揮することが、「両利きの経営」につながり、そしてそれが、変革型イノベーション創出への近道になると言えそうです。

次回は、変革型イノベーション創出に向けた、日本企業の今後の課題について検討してみたいと思います。