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日本のグローバル化を考える(3) ~個人のグローバル化とは~

個人のグローバル化とは

個人のグローバル化とはいったいどういうことなのか、という疑問が生まれます。外国語が話せることなのか、あるいは外国人と知り合うことなのか、さらには外国に住むことがグローバル化なのか、その定義(意味)に定まったものはありません。
そこで文字通り、グローバルという言葉の源である“globe”=「地球」という言葉に着目してみましょう。言葉通りに解釈すると、個人のグローバル化とは「地球規模で考え、行動すること」と言い換えられるかもしれません。
実務の世界に、Think globally, act locally. という表現があります。この言葉は、「地球規模で考えて、国別(地域別)志向で行動する」という意味になります。具体的には、ある企業が地球規模でのブランドの統一感を保ちつつ、営業面では各国(地方)の商慣習に従う、ということです。つまり、グローバルという言葉の対極にはローカルという言葉があるわけです。

私は1993~96年の3年間、日産自動車の100%出資子会社である静岡市にある販売会社に出向しました。1976年に日産に入社してからまる17年間を、東京の東銀座にある本社ビルに勤務していましたから、初めての「ローカル」な生活になります。 赴任早々に、地元(ローカル)出身で販売会社の生え抜きの管理職者が、静岡県全域の商圏を説明してくれました。「静岡県は、東・中・西という3つの地域に分かれていて、それぞれの地元では人柄も商売の仕方も異なります。」という具合です。確かに、静岡県は東名高速道路を走っても、東端から西端まで2時間は十分かかりますから、地域ごとに多少の違いがあるのは理解できます。 しかし、そうした説明を聞きながらも、私の心の奥底には大きな違和感がありました。日産での国内事業を担当する前は、私は欧州関係の仕事をしていました。欧州ではクルマで2時間走ると、一国をまるまる通り過ぎてしまうところがあります。国境を越えると民族と言語がまったく変わってしまうのが当たり前の地域で、その違いをそれほど意識していない地元の人々とお付き合いをしていたからです。 スイスでは、大きく分けてドイツ語・フランス語・イタリア語の3つの言語が公用語です。ベルギーは、南西地域でフランス語系のワロン語が、そして北東地域ではオランダ語(ドイツ語に近い言語)系のフラマン語が使われています。ちなみに、日本でも有名な「フランダースの犬」の物語は、フラマン語圏にあるフランドル地域の都市アントワープ近郊のお話です。
ベルギーに出張した際に経験したことです。地元会社に勤務するベルギー人の2人と私とでクルマで移動中、ワロン語もフラマン語も話せない私に対して、彼らは英語で話しかけてくれます。そして、彼ら同士は一方がワロン語で話しかけると、ひとしきりワロン語で会話が続きます。そしてまた他方がフラマン語で話しかけると、そのままフラマン語で会話が続くのです。フランス語系の音とドイツ語系の音はまったく異なっていますから、意味は分からなくとも、いま何語を話しているかは分ります。彼らにとっては、それが当たり前のコミュニケーションの在り方のようでした。もちろん、すべての地域ではないでしょうが、多くの欧州の人々は「異なっていることが当たり前という前提」の中で、意思疎通をうまく図っているように思えました。

話を静岡での出来事に戻しましょう。静岡で感じた違和感は、日本人同士がほんの小さな違いを見つけては、その小さな違いに神経を注ぎ過ぎていることに気付いたことから生じていたのです。島国の日本では、歴史的に外国人と外国語に接する機会が非常に少なかった上に、同じ言葉(方言を含めて、日本語)をずっと話してきていました。そのような環境の中で、日本人同士が地元(地域)の違いによる相違点を懸命に探していたのではないでしょうか。この推論が仮に正しいとするならば、多くの日本人は地元(ローカル)に生きて、地元を大切にする地元民(ローカル人)、と言っても差支えないでしょう 同じようなことの中に、小さくても何らかの違いを見つけることを地元化(ローカル化)と呼ぶならば、他方の地球化(グローバル化)とは、違うことの中に同じようなものを見付けることと言ってもよいのではないでしょうか。ここでやっと、本稿のテーマである「個人のグローバル化」に言及できるようになりました。 ここで、個人のグローバル化を次のように定義してみましょう。すなわち、「人々の違いの中に共通項を発見し、そのことに興味を持ち、さらにもっと知りたいと思い、そしてその空間を共有したいと思うこと」です。
陸続きの欧州では、昔から多くの民族と言語が交流してきました。それ故に、現在でも欧州というローカルな地域で、グローバル化がますます進行しています。シリアの紛争から逃れてきた難民を、ドイツが中心になって欧州諸国が何百万人と受け入れました。一方、シリア難民が遠い極東の日本を頼ることは少ないでしょうが、それでも日本のシリア難民の受け入れ人数は、今のところ300人規模だそうです。日本というローカルな国が、いまだグローバル化されていない象徴的な数字かもしれません。

最終回となる次回は、日本の教育のグローバル化についてお話ししましょう。