【"攻め"のダイバーシティを推進する:企業事例】経営戦略としてのダイバーシティ推進の取り組み

はじめに

⽣産年齢⼈⼝の減少への対応や、優れた商品・サービスの開発などのために、経営戦略としてダイバーシティを推進し、市場競争⼒の向上をめざす企業が増えています。

2001年から、ダイバーシティへの対応を⼀早くスタートさせたパナソニック株式会社。同社の今までの取り組み、現在抱えている課題などについて、⼈事労政部 多様性・働きがい推進担当 主幹 讃井由⾹(さぬいゆか)様にお話をうかがいました。

※本編は2015年11⽉4⽇・6⽇に開催された学校法⼈産業能率⼤学主催フォーラム「ダイバーシティ経営の実現に向けた効果的なポイントをつかむ」にてご講演いただいた内容を編集したものです。
パナソニック株式会社 ⼈事労政部
多様性・働きがい推進担当
主幹 讃井 由⾹⽒

【企業プロフィール】

パナソニック株式会社

創業:1918年(⼤正7年)3⽉7⽇
◆本社:〒571-8501 ⼤阪府門真市⼤字門真1006番地
◆代表者:代表取締役社⻑ 津賀 ⼀宏
◆資本⾦:2,587億円(2015年3⽉31⽇現在)
◆事業内容:部品から家庭⽤電⼦機器、電化製品、FA機器、情報通信機器、および住宅関連機器等に⾄るまでの⽣産、販売、サービスを⾏う総合エレクトロニクスメーカー
◆従業員数:(連結)254,084⼈(2015年3⽉31⽇現在)

パナソニックにおける多様性推進の歴史

当社における⼥性活躍推進への取り組みは、1999年労働省(当時)から均等雇⽤推進経験者を均等雇⽤担当部⻑として招聘し、ポジティブアクションを推進することから始まります。2001年、⼥性かがやき本部を設置し専任担当者を配置。当時、トップの強⼒なコミットメントの下、それまで⼈事部門を中⼼に進めてきた⼥性の積極登⽤を、組織に多様性を育む原動⼒として位置づけ、⼥性の経営参画を加速させることにより企業風⼟を変えていくという、経営施策の⼀つとしてスタートしました。

以降、当該本部はその活動や実態に即し、組織名称を変えながら、その取り組みを進化させてきました。


これまでの代表的な取り組み

当社は多様性推進に関してさまざまな取り組みを進めてきました。 その中の代表的なものを、「全社に亘る指針・制度の整備」と「全社横断的な取り組みと事業場独⾃の取り組み」という2つの軸でご紹介します。

①全社に亘る指針・制度の整備

『性別・学歴・年齢・国籍に関わらず、豊かな個性を持った社員がそれぞれの仕事で創造性を発揮し、「真のグローバル企業」として職場風⼟を醸成する』という目指す姿を設定し、次のような取り組みを⾏ってきました。

○意欲ある⼥性の積極的な登⽤
数値目標を設定し、⼥性社員の育成計画を策定。

○職場の上司・管理職の意識啓発
管理職向けに、⼥性社員育成のためのガイドブックを配布するとともに、それを⽤いた研修や説明会を実施。

○能⼒を発揮しやすい環境の整備
育児休業、介護休業、不妊治療のためのチャイルドプラン休業、⼦の学校⾏事への参加や家族の疾病予防または検診を理由に取得できるファミリーサポート休暇等の勤務・休暇制度を整備。

②全社横断・事業場独⾃の取り組み

指針や制度を整備・浸透させるだけでは多様性推進は実現できないと考え、次のような全社横断や事業場独⾃の取り組みも実施してきました。

○多様性あふれる風⼟醸成
毎年7⽉は多様性⽉間と定め、毎朝の所感発表や職場懇談会で多様性をテーマに実施。

○⼥性社員のキャリア喚起/ネットワーク構築
2006年から毎年、キャリアストレッチセミナーという⼥性管理職候補の選抜研修を実施。改めて経営理念を学ぶとともに、管理職になる⼥性ならではの悩み、例えば年上の男性部下へのマネジメント⽅法などを学習。

○⼥性リーダーを中⼼とした商品開発プロジェクト
⼥性がリーダーとなって、⼥性ならではの視点で新しい商品を開発するプロジェクトを推進。

○若⼿・外国⼈のネットワーク構築
海外出⾝社員と若⼿社員が交流を深める多様性交流会やメンター制度、ネットワーク構築活動など。

これまでの活動結果と課題

⼥性リーダーを中⼼とした商品開発プロジェクトでは、「ながら美容」に代表されるような「美容家電」という新たな市場を創造し、現在も更なる利⽤者 拡⼤を図るなど、多⽅⾯で⼥性社員が活躍しています。また、⼥性社員の登⽤状況は、2004年に約80名であった⼥性管理職が今年度は約400名、同様に ⼥性役付者は約1,500名から約2,600名へと増加しました。

しかしながら、これまでの取り組みが順調に進んでいるわけではなく、未だになぜ⼥性を取り⽴てるのかという社内の声の存在や、後に続く⼥性社員の育成等に課題があるとも認識しています。

将来に向けて実施している取り組み

多様性は今後も推進していくべきと考えています。将来に向けて今実施している取り組みを3点ご紹介いたします。

①⼥性幹部の計画的育成
今後は、⼥性幹部社員の育成においては、事業の中で直接的に活躍し、真に事業のわかる経営者・経営のわかる専門家として育成することに重きを置いています。

これまでは、どちらかと⾔えば、まず⼥性の登⽤実績を上げることを主眼に、⼥性幹部の登⽤ポジションは、「⼥性が活躍しやすい」と思われるスタッフ系のポストが中⼼でした。今後は、キャリアの早期の段階で、より事業に関わりの強いポストへの配置や30歳代でのリーダーポストへの思い切った配置等を推進するとともに、幹部開発会議においても積極的な経営ポストへの配置を検討していきます。

②⼈事マネジメント改⾰
当社は2018年に創業100周年を迎えますが、「成⻑性溢れる新たなパナソニック」の実現に向けて成⻑戦略を仕込む取り組みを展開しています。

「反転」から「攻勢」へとフェーズチェンジしていく中で、活⼒に溢れ、失敗を恐れず積極果敢にチャレンジする「⼈」と「組織」を創造することを目的とした「⼈事マネジメント改⾰」に取り組んでいます。すなわち、「社会に通⽤するエンプロイアビリティを有し、未来に挑戦し続ける個⼈の育成」「挑戦的な目標を掲げ、⼈を最⼤限育て活かしながら成果を⽣み出していく組織マネジメントの実現」、そして「チャレンジした⼈と組織が報われるオープンでフェアな処遇制度の構築」といった取り組みです。

③働き⽅改⾰
会社の成⻑という観点では、「新たな価値創造」「⽣産性向上」等の点から社員⼀⼈ひとりの働き⽅をより⾃律的かつ効率的なスタイルに変えていくことが求められています。

個⼈の成⻑という観点では、多様な価値観を活かすとともに、仕事と育児・介護等との両⽴を図りながら職業⼈としての能⼒開発に取り組むことが求められています。

社会的背景という観点では、少⼦⾼齢化の加速と労働⼒⼈⼝の減少から、育児や介護等の制約を抱える労働者の有効活⽤がより⼀層求められるとともに、健康な労働⼒の確保・拡⼤が求められています。

上記のような観点から、当社の今後の成⻑を実現させていくためには、働き⽅を⾒直していくことが必要であると考えています。新たな成⻑を図るには、新たな発想と⾏動が求められます。多様な価値観が浸透し、それが根ざしていくためには、多様な働き⽅も必要になります。⻑時間労働でがむしゃらに働くこれまでの労働観を変えていくことが、多様な⼈材を活かすことにもつながります。

当社では既にフレキシブルな働き⽅の⼀つとしてe-Workも導⼊していますが、このような制度の有効活⽤も合わせて働き⽅をより効率的に、創造的にしていけば、従来の仕事の⽣産性を⾼め、個々⼈は能⼒開発をする余裕も⽣まれると考えています。⻑時間労働による健康⾯の課題も緩和され、例えば、育児や介護等の時間の制約がある社員も、時間を制約と感じることのない環境が実現します。そうすれば育児や介護と仕事を両⽴する社員をはじめ、多様な⼈が活躍できる可能性が広がっていくのではないでしょうか。

個⼈の意識や⾏動が変わり、今後、当社の組織風⼟が変われば、グローバルに働きがいのある、成⻑⼒溢れる企業に進化できるものと信じて、今後も取り組みを続けてまいります。

(2015年11⽉6⽇公開、所属・肩書きは公開当時。)