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日本にこそいま必要な「ニューノーム」経営論(第3回)

第2回では、IT業界以外でも"ニューノーム(新しい常態)"と"オールドノーム(古い常態)"が存在することを説明しました。 第3回(最終回)では、オールドノームにも良し悪しがあることと、"ノーム"を意識して成長戦略を考えることの重要性について説明します。

良いオールドノームと悪いオールドノーム

どの業界にも企業にも以前から存在するビジネスモデルがあり、そのモデルを執行することにより売り上げを確保し、利益を上げ、顧客・従業員・株主・社会に貢献するという型がある。
もちろんそれぞれの企業に特徴的な方法論も存在する。ただし、ボトムラインはそのモデルで継続的に利益を上げられるかどうかに帰着する。赤字続きでは事業を継続できないので当然である。従来型のモデルでも利益を出せさえすれば基本的に問題はない。顧客との関係、市場の変化にモデルを対応させることで生き延びる可能性は存在する。老舗といわれる企業はそのあたりが上手と言える。 これを良いオールドノームと呼ぶことにしたとき、構造的に利益が出せなくなった、あるいは利益が縮小傾向にある場合を悪いオールドノームと呼ぶことにしよう。

商品魅力の減衰、激しいコスト競争、新興国からのチャレンジ、とんでもない技術革新などの理由で売上、利益の長期低落傾向が見えればそれは悪いオールドノーム化している。構造的変化であるから従来の常識は却って害をなす。そんな中で悪いオールドノームにしがみついていては将来はない。

人間は保守的であるので現在のノーム(常態)に安住して基本的に変化を求めない。かつて成功した企業やその経営者ほど、我が身可愛さも手伝い現在のノームに頼り続けてしまう。あるいは今まで改善、改善でやってきたので更に改善努力をすれば必ず報われるという考え方が染み付いている。 現在のノームが未だ有効なのか悪いノーム化しているのか分からない、分かりたくないという感情に支配される。悪いオールドノーム化したビジネスモデルを捨て去る勇気と決断力が必要である。

ノームの変化に敏感になろう

アメリカでは新興企業がいつの間にか大企業になる現象が次から次へと生み出される。大企業がその規模や経験を活用できずにもたもたしているうちに新興企業が大きくなっていく。業界によっては新興企業の時価総額が旧来の大企業のそれをはるかに上回る例もある。
イノベーション力のおかげというが、技術もさることながらニューノームの認識力に秀でているかどうかが別れ道かも知れない。更に、新興企業のアイディアに投資をするベンチャーキャピタルの存在や政府の研究開発投資税制なども奏功している。

考えてみると、日本にはそのような成功事例が少ない。もちろん、ユニクロやブックオフや楽天など新興企業の成功事例がないわけではないが、大企業が華麗に変身したという事例はあまり聞かない。
なぜだろう?

過去の成功体験が忘れられないからなのか?
あまりに組織防衛本能が強いからなのか?
世の中の変化に鈍感なのか?茹で蛙状態で熱を感じられないのか?

日本人にもできるニューノーム展開

ニューノームとは何か?
理想形的に言えば、ベニオフ氏(※)のように業界のオールドノームの問題点を見据えてこれを解決し新しい価値を提供するイノベーションをベースに業界を革新する新しいビジネスモデルである。誰にでもできる話ではない。

一般論としても、市場におけるある事象が一時的な流行なのか、単なるアイディアの提唱なのか、あるいは全く新しい事象なのかを見極めることは簡単ではない。先の旧来型巨大IT企業の場合もそうであるが、大企業では現在のノームから得られる利益や関係者の既得権益の保護もあってどうしてもしばらく様子を見てしまう。決めるのに時間をかけてしまう。
しかし、その間に新興企業に成長されて、彼らの売り上げや利益は本来自分が享受すべきだったと臍を噛んだときに現在のノームは悪いオールドノームになってしまったと判断できる。しかし時すでに遅しである。
 
エベレット・ロジャースによれば、イノベーションの常態化プロセスにはイノベーター、アーリーアドプター、アーリーマジョリティー、レイトマジョリティー、ラガードという5種類のカテゴリーが発見されるという。
出典:E.M.Rogers著 青池愼一・宇野善康監訳 『イノベーション普及学』 (産能大学出版部, 1990年)
イノベーションを切り開いていくことが不得手な日本人としては最低限アーリーアドプターを目指し、致命的な後れを取らないようにすることが肝心である。つまり、アーリーアドプター戦略である。

イノベーションが起こす新しい事象を冷静に観察して、その事象がもたらす新しい価値を正しく評価してバスに乗り遅れないような動き方ができればイノベーターでなくてもニューノームの利益に参加できるということである。
そのために市場の事象を観察し、競合を分析し、顧客の動向をつかみ、自分の現在のノームが長期低落化していないかを常に検証することが重要である。

一番悪いのは"分かっちゃいるけどやめられない"である。無為無策。ジリ貧。最後はアリ地獄。
遅れさえ取らなければニューノーム参入で儲けることは可能である。もちろん後は絶えざる改善活動も日本人にとっては武器となる。改善、再生、復活という既定路線の踏襲は安全である時期もあるが、ポイントオブノーリターン(Point of No Return)を越えてしまわないうちにニューノームに参加することが肝要である。

※パブリック・クラウド・コンピューティング会社の創業者CEO

ニューノーム経営論で新成長戦略

悪いオールドノームにしがみついていないか、業界にニューノームが出てきていないか、出てきていたらどう素早く対応するか、これがこれからの経営の要諦である。
問題や課題が見つかったオールドノームを冷静に見据えて価値あるニューノームを志向するニューノーム論を企業経営の成長戦略のツールとして使うようになれば日本再生も可能と思われる。

産業能率大学 客員教授 浦野 哲夫