20代若手社員の「定着」「成長」のために人材育成はどうあるべきか

いまの若い世代は、仕事を生活の中でどう位置づけ、どんな風に考えているのか?
若い世代に会社に定着してもらい、活躍してもらうための人材育成のあり方とは?
今回は筑波大学ビジネスサイエンス系助教の池田めぐみ氏と産業能率大学経営学部教授の齊藤弘通が若手社員の育成について語り合いました。
プロフィール
筑波大学 ビジネスサイエンス系 助教
池田 めぐみ 氏
東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。東京大学大学院情報学環 特任研究員、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター助教を経て、2024年4月より現職。
主な研究テーマは、職場のレジリエンス、若手従業員の育成。著書に『ジョブ・クラフティング 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』(白桃書房、共著)、『活躍する若手社員をどう育てるか』(慶応義塾大学出版会、共著)などがある。

学校法人 産業能率大学 経営学部 教授
齊藤 弘通
慶應義塾大学文学部人間関係学科教育学専攻卒業後、法政大学大学院政策科学研究科修士課程、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了。博士(政策学)。専門社会調査士。学校法人産業能率大学総合研究所を経て現職。専門は人材育成論、質的研究法。著書に『キャリア後期の生き方・働き方を考える(産業能率大学総合研究所 通信研修「ミドル・シニアのミライ戦略」テキスト)』(産業能率大学総合研究所、単著)などがある。

早く自分の市場価値を高めたい。仕事の意味にも納得して働きたい。
――Z世代という言葉もありますが、いまの若い世代ってどんな人たちなのでしょうか?
今年度の新卒社員ということで仮に2001年生まれを例とすると、彼・彼女らはまず幼少期にiPhoneが登場しています。小学校の時には東日本大震災に遭遇、中学生で熊本地震を見ていて、高校卒業から大学入学時にパンデミックが直撃。大学在学中には昨今のウクライナ戦争であるとかパレスチナの戦争が始まったり。割と激動な感じで社会環境やテクノロジーが大きく変化し、なんとなく世の中としても不安定な状況の中で育ってきた人たちと捉えられます。


仕事に対する意識としても、自分の能力を試したい、能力を上げるためにバリバリ働きたいといった意識は減少傾向にあって、仕事も毎日を楽しむためのものという考え方が増えているというのが、とある調査でも分かってきています。
さまざまな経験をしてきているので安定志向、現実主義といった考え方が強いとも言われますし、いまを大切に生きているといった感じですよね。


昭和とか平成の時代にはどちらかと言うと良い企業に勤めたら転職とかは考えずに、そこでいかにいいキャリアを築くかといったことを考えていたと思うのですが、いまの世代は転職も割と当たり前になっています。20代の4割弱は転職を経験していますし、転職経験がなくても6割近くの人は転職サイトに登録したり面談を受けてみたりといった転職活動をしています。
本学が実施した大学生を対象とした調査※でも4割が「ミスマッチを感じたら離職する」と回答していて、「ずっと同じ会社に勤務する」とほぼ同じ割合なんです。また、若手社員を対象とした別の調査では現在の会社で働き続けたい期間について、7割以上の若手社員が10年以下といった回答をしており、同じ会社でずっと働き続けるという考えがあまりないようです。


そこにはキャリア教育というものも大きく影響していますよね。2017年段階で、キャリア教育を必修科目に据えている大学が6割を超えているというデータもあり、多くの大学生が働く意味や、どんな仕事をしている時に自分はやりがいを感じるのかといったことを考えながら社会に出ています。
やりがいと合わせて、大学生や新入社員を対象とした調査によれば、就職先を確定させる際に決め手になったことや働くうえで重視することに、「自らが成長できるか否か」があります。なので、自分のやりたいことができる、自分のスキルや技術が高められる、会社や職場が自分の成長をサポートしてくれるなど、成長実感を得られるようなことへの期待は強いかもしれません。一方で、新入社員を対象とした調査によれば、競争に勝つとかNo.1になるといったことを重視する割合が低いといった傾向も見られます。また、SDGsが注目される時代に育ち教育も受けているからか、社会への貢献を大切にしている傾向も見られます。


会社で出世するためにいい仕事というより、自分そのものの市場価値を考えている感じですよね。転職市場を考えて、いざ動くときに有利に働くような経験を積みたいと思っているという背景があると思います。将来がどうなるか分からない中で、いま楽しいこと、いまためになることをやりたいということです。

あくまでワークはライフの一部。プライベートも大切にしたい。一方、仕事をするうえでは早く成長したいし、SNSなどで友人の状況を見たりして、「自分は今の状況で大丈夫だろうか」と不安にもなったりする。そのため、今後の自分のキャリアがいまの職場の中では描けないなど、キャリア安全性※が低いと感じている若手社員の割合も一定数存在するといった調査もあります。就職を控えた大学生を対象に私が行ったインタビュー調査でも、中長期的なキャリアの展望を描くことを重たいと思っている若者がいました。いまを楽しみ、その都度キャリアを変えていけばよいと思っている傾向も感じられますので、キャリア目標を描き、不足しているものを段階的に補っていくような従来のキャリア支援のあり方も少し見直していく必要があるかもしれませんね。
- 出典:古屋星斗(2023) 『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか "ゆるい職場"時代の人材育成の科学』(日本経済新聞出版社)


昭和や平成に当たり前だったいわゆる典型的な仕事人間というような人たちはやはり減ってきています。「修行」のようなことにもあまり納得感はないし、「やれ」と言われるだけでも動きにくい。
そうですね。そうした世代への人材育成のあり方を考える際には
「効率よく成長したい若手社員に、自社の人材育成は合致しているか?」
「専門知識やスキルを高めるための職場環境を提供しているか?」
「成長を実感できる丁寧なフィードバックはできているか?」
このあたりのポイントを踏まえて考えるのが重要です。


成長の機会を自らつくりだせる「ジョブ・クラフティング」
――では、そんな若手を育てるために必要なこととは、なんでしょう?

若手社員が成長するために、そして長くその会社で活躍してもらうために、「ジョブ・クラフティング」という考え方が大切になってくるのではと考えています。平たく言うと、上司に指示された仕事をこなすだけという仕事の仕方ではなく、自分の好みに合わせて自分の仕事をアレンジしていくという考え方になります。
いまの若手社員は大学の時に起業したとか産学連携活動に取り組んだとか、入社前にレベルの高い社会経験を積んでいる人も多いです。そんな人たちが入社したら同期と一緒に新入社員研修からはじまると、「白紙からスタートなの?」というような違和感を覚えることにもつながりかねません。まずは、このような経験や価値感を有している若手社員を理解することが、ジョブ・クラフティングや育成施策の前提になるのではないでしょうか。


自分自身の仕事に意味を感じることが成長につながるということも研究では明らかになってきています。ジョブ・クラフティングはまさにそういう自分が成長できる方向、やりがいを感じられる方向に仕事をアレンジしていくと言うことなんです。
――ジョブ・クラフティングとは、具体的にどのようなことをするのでしょうか?

ジョブ・クラフティングには3つの種類があります。
1つ目はタスク次元ジョブ・クラフティングと言って、与えられた仕事に少し工夫を加えて変えていくというようなことです。身近な話で言うと、ディズニーランドの掃除担当の人が、さらにやりがいを感じるために得意な絵を生かして地面に水でミッキーの絵を描く。そうしてお客様を喜ばせるような価値のある仕事だと認識できたというような例があります。
2つ目が人間関係ジョブ・クラフティングです。これは仕事を通じた他者との関わり方を変えていくというものです。例えば、アパレルで働いている人が「単に服を売る仕事」ではなく、「ファッションの悩みの相談も聞く」という風にお客様との関わり方を変えていく方法です。
最後の3つ目が、認知次元ジョブ・クラフティング。自分にとってこの仕事はどんな価値を持つのか、どんな意味があるのかといったことを考え、仕事に対する主観的な意味合いを変えていくというものになります。例えば目の前の仕事は保育園の運営側の事務職だけど、間接的には子供たちの健やかな成長を支える大切な仕事だという風に意味を見いだすようなかたちです。
Z世代の特徴の1つとされる「目的・意味志向」にも関連するお話ですね。私も若い頃は仕事をしていたときに「とにかくやれ」というようなことを言われたら、あまり意味とか考えずにまず「分かりました」と言ってやっていましたが、今はそういうのが受け入れられにくいかもしれません。企業様へのヒアリングの中でもそういった声はあがっていました。これまでの常識が当たり前でなくなった時代で育ってきたので、これまでは当たり前と考えられていたことに対し、その目的や背景、意味をきちんと説明してあげる必要があるかもしれません。


ジョブ・クラフティングのいいところは、成長の機会を自ら創出できるということにあります。例えば配属された部署での仕事がいまひとつ成長につながると思えなくても、自分が求めるスキルを磨くために部署内で主体的に勉強会を開くとか、そういったことはジョブ・クラフティングの好例です。自分の仕事をチャレンジングに変えていくことで、成長の機会を得られるわけです。また成長を求める層だけでなく、どちらかと言うと「いま楽しみたい」という層にも、自分の趣味や得意なことを仕事に取り込んでいくというかたちでのジョブ・クラフティングなどは仕事のやりがいにつながるので、成長や定着にメリットを発揮します。

丁寧なフィードバックや良好な関係づくりも、若い世代の育成には大切なポイント。
――ジョブ・クラフティングは、やろうと思ってもなかなか簡単にできないと思う人もいそうですが?
私が行ったインタビューでも、ある女子学生が「人生ヤドカリだ」という風に言っていて非常に印象的でした。つまり、仕事も自分の能力に応じてその都度住む場所を変えるように変えていけばいいということなんです。そういう若い世代に対して、「この会社か、転職か」というだけではなく「いまの仕事をどうアレンジするか」という意識を持たせることがジョブ・クラフティングを促していくポイントのように思います。自分の居場所をすぐに変えようとするのではなく、いまいる場所で変えることができないか、より良くする方法はないかを考えるための働きかけが重要です。


そうですね。実際にジョブ・クラフティングするうえでの課題としては、まず「そもそも何をしていいか分からない」ということが挙げられます。特に大学などで先生に言われることをこなしてきたようなタイプにありがちなんですが、そういった場合には職場内でジョブ・クラフティングの共有や、ジョブ・クラフティングと言わなくても仕事の振り返りをしてあげることが大切になります。
企業の方へのヒアリングでも、若い世代はフィードバックをほしがるということがあるようです。また新入社員を対象とした調査でも、職場の中でのコミュニケーションにおいて、上司や先輩から話しかけてほしいという期待も強い傾向が見られます。これは成長を実感したいという気持ちの表れかもしれません。


もう1つ課題としてあるのが、「周囲がジョブ・クラフティングを許さない」ということです。ジョブ・クラフティングを行うためには上司が部下を信頼してある程度任せるということが大事になってくるのですが、なかなかいきなりは難しい。そうしたときには1人ではなく、みんなでもっとやりがいを感じるためにはどうしたらいいかを考える「協同的ジョブ・クラフティング」というアプローチが1つの方法になるかと思います。
3つ目の課題は「やりたいことがあってもその実現方法や仕事を変更していい範囲が分からない」ということです。経験が浅いうちは誰とコンタクトをとって進めていけばよいのか、どの範囲まで自分でやってもいいのかが分からず、やりたい気持ちを押さえ込んでしまうというようなこともあります。そういったことを気軽に相談できるように、些細な相談場所を設けることが大切です。
いまの若い世代は人間関係や職場の雰囲気を重要視する傾向がありますから、それは大切なアプローチですね。新入社員を対象とした調査では、上司への期待や上司とのコミュニケーションについて、
「上司から話しかけてもらいたい」、
「多忙でも手にかけてほしい」、
「褒めて伸ばしてほしい」、
など一言で言うと「受け身」の姿勢が見られます。


そのような中で仕事と自分自身が良い関係を築いていくためには、ジョブ・クラフティングによって自ら成長環境を構築できる、あるいは仕事に意味とやりがいが感じられる環境をつくり出すことが大切です。ぜひ、まずはこの3つの課題を乗り越えるための方法を試していただければと思います。
成長機会を与えてほしい、楽しい仕事をしたい、自分にマッチした仕事がしたい、と若い世代は期待しがちです。しかし、一方で、若手社員自らが、自分の成長につながるように他者との関係性の境界を広げてみたり、仕事が楽しくなるよう仕事の意味づけを変えてみたり、自分にフィットするよう仕事を工夫してみたりするなど、若手社員が主体的にアクションを起こしていくことも必要だと感じます。その意味で、成長や主体性発揮につながる機会を職場から与え続けるのではなく若手社員側の主体性を高めていくような働きかけも重要なのではないかと思います。いまの若手社員の特徴、志向性をよく理解したうえで、彼らの成長や定着を促すための、よりよい人材育成のあり方をご自身の会社で検討いただけたらと思います。


(2024年6月13日取材・撮影)
※掲載している内容は、取材当時のものです。
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