【人材育成事例】自ら考え 自ら演じよ(クリナップ株式会社様)

【人材育成事例】グループ相互連携の人材育成で会社と個人の成長を目指す(東洋製罐グループホールディングス株式会社様)

長年、システムキッチンや厨房機器などの製造を手掛けるクリナップ株式会社。
綿密に組み立てられた理念を元にした入社時からの手厚い教育や、昇格の要件にもなっている通信研修の積極的な活用など、人材育成に力を入れています。
同社が求める人材像、そして人材教育への思いとは?
人事部人材開発課のお二人にお話を伺いました。

プロフィール

人事部 人材開発課 課長

後藤 浩 氏

1991年にクリナップ株式会社へ入社。開発部門や研究部門を経て、2018年に人材育成担当として人事部に異動。現在は研修、教育、採用など人事部にかかわる全体の業務のほか、社員のキャリアを考える仕組みづくりに注力している。

後藤 浩 氏

人事部 人材開発課 主任

田口 莉子 氏

2016年にクリナップ株式会社へ入社。営業職を経験後、2020年に社内公募制度を利用し人事部へ異動。人材開発課に配属以降は、新卒採用をメインとした採用業務を担当。そのほか、通信教育の制度運用なども担当している。

田口 莉子 氏

クリナップ株式会社様 概要

1949年に創業。システムキッチンのパイオニアとして、厨房機器、浴槽機器、洗面機器など水回りの商材を中心に製造する住宅設備機器メーカー。全国に128の営業所・出張所、102のショールーム、10の工場を持つ。
従業員数は3,456人(2024年3月末時点)。

『家族の笑顔を創ります。』理念の根底に流れる感謝の姿勢。

――はじめに、貴社の事業についてお聞かせください。

田口 莉子 氏

クリナップ株式会社は、システムキッチンやシステムバスルーム、洗面化粧台など、水回りに関する製品を作っています。住宅設備機器メーカーと呼ばれる立ち位置です。

後藤 浩 氏

いわゆる住宅の水回りだけではなく、業務用の厨房設備だとか、ユニークなものではステンレス建材と加飾技術を活かして動物園の檻や球場のバックネットを製造したりもしています。

――貴社は「創業者理念」「企業理念」「行動理念」と、3つの理念を掲げられているのが印象的です。3つの理念の位置付けはどのようなものなのでしょうか。

後藤 浩 氏

創業60周年を機に、理念体系を見直そうという話になり、創業者理念をなくすということではなく、若い社員も含めてどのようなことを大切に活動をするのかという指針を改めて考えようと動きました。そこで定められたのが現在の企業理念「家族の笑顔を創ります。」です。その企業理念のためにどんな行動をするのかという指針を「行動理念」として定めています。

――社員の方々にはどのようにして理念の浸透を図っているのでしょうか。

後藤 浩 氏

当社には「理念解説書」というのがありまして、まず入社時全員に配布します。新入社員研修も理念の解説から行っています。ほかにも係長研修や新任管理者研修といったさまざまな研修時に、冒頭で企業理念を唱和します。創業者理念は創業記念日に唱和して皆で確認をしています。あとは、創業55年の時に出版したクリナップの経営哲学をまとめた『わかったか!わかりましたネ!』という書籍があります。その本には創業者の思いが色濃く反映されていて、入社時、新入社員全員に配布しています。

――そういった教育があると、理念の浸透度も高いのではないでしょうか。

田口 莉子 氏

明確に浸透具合が分かるわけではないですが、創業者理念の中で「われわれは一家一族の精神に則り」というフレーズがある通り、創業者が社員=家族として大切にしていたことを社員はよく知っています。

後藤 浩 氏

「家族の笑顔を創ります。」という理念はとてもシンプルな言葉なので、そういった意味でも「理念は?」と聞かれたときに出てきやすいのではと思います。

――貴社に電話をかけると「感謝いたします。クリナップでこざいます。」と応答されますね。また創業者理念にも「常に感謝の心を忘れず」という文言があります。やはり理念の中で感謝というのはとても大事な要素と捉えているのでしょうか。

後藤 浩 氏

先ほど申し上げた経営哲学をまとめた本にもあるのですが、創業者は戦争を経験した方です。戦争から帰ってきて、まずは生かされていることに対する感謝がある。そして、常に感謝の心がなければクリナップを生み出すことも今日の発展もなかっただろうというのが創業者の考えです。

田口 莉子 氏

私は営業職も経験しているのですが、他社と比べると当社の営業は、すごく押して押してという営業より、お客様のことを想って営業している方が多いと思います。例えば、お客様のご要望が他社の方が叶えられる場合は、もちろん最大限当社でできるレイアウトを提案したうえで、他社の方を勧めるケースもあったりします。
お客様にとっての"最適"を優先する社員が多いと感じます。

後藤 浩 氏

創業者の言葉ではもう一つ、「片手にそろばん、片手に真心」というのがありまして、もちろん会社なので利益を上げていかなければならないということはありつつも、人との付き合い方として誠実であることも同じくらい大事。そこは両天秤だという考え方が社風としても根付いているのだと思います。

自律型の人材を育てる育成方針。昇格の要件に通信教育を導入。

――では次に、貴社の人材育成の方針や求める人物像について、お伺いできますでしょうか。

後藤 浩 氏

当社では人材育成体系というものをまとめております。そこでの方針としては、自律型の人間になっていただくことを目指しています。「自ら考え 自ら演じよ」というクリナップ流の言葉があり、これは、代表取締役会長の井上強ーが創業65年の時に作った書籍のタイトルにもなっています。自分で考えて自分で行動できる人になるということです。
また、成長に関しても自分で自律的に行ってほしい。それを当たり前にしてほしいという方針があります。そのために、例えば資格を取得したら祝い金を進呈したりなど、自分で学んでいく姿勢については奨励するという姿勢をとっています。

――お二人が所属している人材開発課は、2024年度に立ち上げられた部署とお伺いしました。

後藤 浩 氏

昨今、人的資本経営についての情報開示がすこく求められています。新入社員に対しても、入社後にどのような成長機会があるのかを強く打ち出していかなければなりません。そうしたことも含め、人材育成は手厚く取り組んでいくことが重要です。人的資本を高める、すなわち、人材開発に関連する投資を増やし、組織成長へとつなげるということで、一度統合されて消えていた部署ではあったのですが、改めて特化した部署として復活させたという経緯です。

――産業能率大学の通信研修も導入いただいていますが、どういった位置づけでご活用されていますでしょうか?

後藤 浩 氏

通信教育については成長支援という位置づけで活用しています。自己啓発としてさまざまな学びを自主的に取り組んでいただくということです。これも自分の成長を自分で考えて行動してほしいという考え方を元にしています。そのほか、等級や役割としてステップアップするタイミングでも各種研修を用意しているのですが、その一部にも通信教育の内容を組み込んでいます。

――貴社では「全社推奨コース」「スキルマップ必修コース」「部門別推奨コース」という3つのコースを開講されています。その中でも「全社推奨コース」「スキルマップ必修コース」について、狙いなどをお聞かせいただけますでしょうか。

後藤 浩 氏

まず「全社推奨コース」の方は、係長や主任など、昇進に伴って役割が変わるので、そこで仕事への意識をどう変えていけばいいのかというマインドセットを教育する役割があります。あとは会計管理に関する知識を、昇進の時点で押さえておくというのがもう一つの狙いになります。
「スキルマップ必修コース」に関しては、当社には人事制度の中に「職能等級」がありまして、上の等級にステップアップするための昇格要件として設けています。年次によって能力が蓄積されていくことを前提に職能等級は規定されているのですが、各等級に見合ったスキルをきちんと持っていただきたいということから用意しています。「ヒューマン」「テクニカル」「コンセプチュアル」という3つのカテゴリからなり、人間関係構築から業務処理能力まで、幅広い内容のスキルに関してレベルアップしていこうという狙いがあります。あくまで、自律的に学ぶためのきっかけづくりです。

――貴社では通信教育に対する補助率も、全社推奨コース、スキルマップ必修コースは100%補助と非常に充実しています。そのあたりのお考えについてもお聞かせください。

後藤 浩 氏

やはり、人材投資に対する会社の覚悟です。人的資本経営といわれている中で、特にいろいろな研修などを広げているわけではなく、今あるものを出来る限り手厚くしてやっていこうという考え方で、当社として最大限取り組んでいるところです。取り組んだ人に対する投資はしっかりとやりますし、補助率100%という形では、社員にも会社としての意志は伝わるのではないでしょうか。ここに関しては、田口が強く提案してくれました。

田口 莉子 氏

スキルマップが昇格要件の1つで、それを推進するコースの補助率を100%にしたことで、必然的に、そして意欲的に社員が取り組んでくれるようになりました。

――実際に受講率が非常に高いですよね。

田口 莉子 氏

まだ導入したばかりなのですが、申し込み状況だけを見ると増えてはいるので、受講しやすくなっているのではないかと思います。また、副産物で、「部門別推奨コース」の受講者も増加しました。

後藤 浩 氏

昇格の要件だからというのもあると思うのですが(笑)。実際、通信教育の制度やサポートについて、社員がどのように考えているかは分からないとこるもあります。ただ、私の信念としては「学ぶ人をつくる」というのが前提。当たり前に学んでいくというスタイルをつくっていきたいので、そこは突き進んでいきたいです。

3年目までは新人と考え、若手への指導も手厚く。

――では次に、若手社員の育成についてお伺いします。まずは今の若手社員の傾向について感じることはありますでしょうか。

田口 莉子 氏

率直に言うと怒られ慣れてないというか。上司になる人はどのように指導すればいいか悩むのではないかなと感じます。あとは、フィードバックをほしがる傾向が強いですね。自分がどう見られていて、どういう役割を求められているのかというのをすごく意識している感じがします。
試行錯誤して自分でやってみなさいというより、的確に指示してほしいという"タイパ"を重視している感じもあります。

――そういった若手にはどのような指導をされているのでしょうか。

後藤 浩 氏

まず新入社員研修に関しては、理念の浸透もそうなのですが、100人単位で入社してくるので、集団生活として「人に迷惑をかけるのは絶対に厳禁」ということを最初に伝えます。あと理念の浸透という意味では言い続けることも大事にしています。
また、新入社員には「ブラザーシスター制度」という、1年をかけて先輩社員と関わりながら会社に慣れ、成長していくという取り組みがあります。

――それはどのような制度なのでしょうか?

田口 莉子 氏

いわゆるOJT教育制度です。新入社員1人に同じ部署の先輩が1人つき、毎月1on1のミーティングを行い今月の成果や進捗と、「じゃあ来月はこれをできるようにしよう」といった目標を決め、それを毎月更新していきます。その先輩を「ブラザーシスター」と呼ぶのでブラザーシスター制度という名前です。先輩社員と上司によって毎月フィードバックを行い、フォローしていくという形です。仕事の面以外にも、先輩社員と一緒にご飯に行くためのコミュニケーション支援金という制度もあり、プライベートの時間を使って社会人としての不安を解消できるような仕組みも用意しています。

――貴社では2年目3年目の社員にも研修を行うと伺いました。それぞれどんな内容なのでしょうか。

後藤 浩 氏

当社では入社してから3年目までを新人という括りとして考えていまして、入社後3年間は人事主催の全社研修を行っています。並行して部門別研修も進んでいきます。
また工場見学を2年目の研修で行います。入社後すぐに工場を見るよりも、1年間営業なりショールームなり配属された部署で経験を積んでからの方が得るものが大きいと思います。より業務につながるということで2年目の研修に設定しています。3年目になるとほぼ現場の一員として稼働しているので、そのタイミングでは目標管理の研修を行います。仕事の目標を個人ごとにおいてそれに対するアプローチの仕方を確認しています。そうした過程を経て、3年目の後には主任研修であるとか昇進に向かっていくプロセスにつなげていくという育成をしています。

「次世代を担うのは自分たち」という意識を、若手に持ってほしい。

――最後に、人材育成の今後の課題や、目指されている人事制度についてお聞かせください。

後藤 浩 氏

人材育成に正解はなく、とにかく幅広いものだなと思っています。もちろん予算もある程度限られている中で、何にどう優先順位をつけて取り組んでいくのかということは常に考えていますね。いま力を入れていきたいと考えているのはDXについての分野です。世の中がAlだったりで自動化されていくと、自分たちの業務が当たり前のように変わっていく。いま人の手でやっていることをある程度の定型業務として自動化していかなければ、新しい事業や価値創造の時間なども捻出できないと思うんです。ですからITスキルやAlなどをどの世代も個人で使いこなせるように、スキルアップを図らないといけないなと思います。
あとはキャリアに関することですね。この先65歳、70歳まで働く時代になるのは間違いないじゃないですか。そうなったときにキャリアのことをもう他人任せにはできないと思うんです。それこそ自分で考えて、切り開いていかなければならない。その辺りはまずは上司部下の関係の中で、1on1のキャリアコミュニケーションが築けるような機会をつくっていきたいと思っています。

田口 莉子 氏

人事制度に関しては社員が納得するような明確で分かりやすいものにしていくべきだと思います。昇進・昇格するにはどうすればいいのかがもうちょっと分かりやすくなると、社員のやる気にもつながります。若手の皆さんには、次の世代を担うのは自分たちだという意識を持って、恐れずに上の立場の人に提言していくような人材になってほしいと思います。

(2024年7月12日取材・撮影)
※掲載している内容は、取材当時のものです。

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