自社分析に使える!スタートアップ企業を分析する枠組みとは

自社分析に使える!スタートアップ企業を分析する枠組みとは

はじめに

スタートアップ企業と聞いて、皆さんはどのようなイメージを抱くだろうか。スタートアップ企業との連携や社内ベンチャーに関わる方以外の方は「自分にはあまり関係ない」と思われるかもしれない。しかし、世界を席巻しているGAFAM【※1】も、日本の名立たる大企業も、皆さんが所属している組織も、創業時は、スタートアップ企業であったはずである。そこで、本稿では、スタートアップ企業を分析する枠組みを概観した上で、この枠組みが自社の分析に活用できることやその意義を考えていきたい。

スタートアップ企業を分析する枠組みとは

スタートアップ企業を分析する枠組みとして、スタートアップ企業の成長段階に着目したものがある。提唱者により若干異なるものの、本稿では成長段階を「準備期、創設期、成長期、転換期」の4つ [※2]で捉え、それぞれの分析の枠組みの代表例を紹介する。(下表参照)

(1)準備期

準備期であれば、米国の組織心理学者カール・ワイクが中心となり発展した「Sense making」が活用できる。創業者がどのように情報を感知、解釈し、環境に働きかけながら起業の機会を見つけていったのかを分析するものである。

(2)創設期

創設期であれば、創業者の機会発見から、起業し組織化に至るまでの方針を分析する、Mission・Vision・Value(MVV)という枠組みがある。「MVV」は、ピーター・F・ドラッカーが提唱した企業の方針設計のための枠組みである。Missionは会社の使命、存続する意義であり、不変とされる。Visionは、Missionを遂行するためのあるべき姿であり、状況に応じて変化するため可変である。Valueは、価値基準であり、Visionを達成するための行動指針になるものである。

(3)成長期

成長期であれば、スケールアップの範囲とその際に生じる問題と解決内容を捉える枠組み「BPM」がある。これは、研究室や実験室等の小さい規模(Bench・Scale)から、実際の工程等を踏まえて試作品を安定的に作成する規模(Pilot・Scale)、効率的かつコストを下げた形で大量生産する規模(Mass‐production・Scale)があり、規模の拡大に伴い問題が発生し、それをどのように解決するかを整理する枠組みである。

(4)転換期

転換期であれば、事業のターニングポイントとなる事象に対して、どのように対応したのかという分析が有効である。この分析については、キャリア理論で有名なシュロスバーグの「4S」が応用できる。シュロスバーグは転機に対処するためには4Sという資源を有効活用するべきと述べている。4Sは、Situation(状況)、Self(自己)、Support(支援)、Strategy(戦略)を示す。本来、キャリアを考えるための「個人」を対象とした分析手法である点は注意が必要であるが、「組織分析」にも応用可能だと考える。(下図参照)

ナンシー・K・シュロスバーグ「キャリア理論」を参考に筆者が図を作成

Situation(状況)、Self(自己:ここでは自社と捉える)は、転換期となる現状認識と解釈でき、外部環境がどのような状況だったのか、自社ではどのように現状認識を行ったのかを整理する。
Support(支援)、Strategy(戦略)は、転換期に対応する行動と解釈できる。心理的な側面として、組織が社員に対しどのような支援的行動をとったのか、論理的な側面として、どのように戦略を立てたのかを整理する。

スタートアップ企業を分析する枠組みは自社の分析に活用できる

ここまでスタートアップ企業を分析する枠組みを概観したが、この枠組みは、企業・組織の本質を見出すことに活用できる。この分析の枠組みを活用して、自社を分析することで、改めて創業者の想いや、これまでの課題にどのように向き合ってきたかが理解できる。

現在、新型コロナウイルス感染症の影響などもあり、さまざまな変化への対応が求められる。そのために、何を変えていくのかを考えなければならない。裏を返せば、何は「変えてはいけないのか」をしっかりと認識しないと、場当たり的な対応になってしまいかねない。変化の激しい時代だからこそ、「変化してはいけない」会社の本質を改めて理解する必要があり、その一つの手段として、スタートアップ企業を分析する枠組みを活用いただけるのではないかと考える。

この枠組みを活用して、自社の分析をしてみてはいかがだろうか。さらなる大きな転換期を迎えた際などに、自社のゆるぎない強みが整理された資料として、あるいは、今後の意思決定の基軸として、大きな価値を発揮するかもしれない。


※1GAFAM(ガーファム)とは、Google(Alphabet), Amazon, Facebook(Meta), Apple, Microsoft 5社のIT企業群の頭文字を取った通称。
※2:松田(2014)では、「シード期、スタートアップ期、急成長期、安定成長期」に区分している。その他、株式上場期に分ける議論も存在する。
参考文献
松田 修一『ベンチャー企業<第4版>』、2014、日本経済新聞出版

筆者プロフィール

古庄 裕
(Furusho Yutaka)

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所 戦略・ビジネスモデル研究センター 研究員

  • 所属・肩書きは掲載当時のものです。
  • 筆者は、主にマーケティング戦略策定支援、業務効率化支援を担当。

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古庄 裕