人間は基本的に「学びたくない生き物」? - 石川善樹先生に聞いた「ニューノーマルで変わる大人の学びとセルフマネジメント」前編

予防医学研究者・石川善樹氏インタビュー Web版 特集・生き抜く学びを考える 「ニューノーマルで変わる大人の学びとセルフマネジメント」前編

新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに、私たちはニューノーマル(新常態)のもとで学び方や働き方はどうあるべきかという新たな問いを突きつけられることになりました。そこで、予防医学研究者であり、行動科学や計算創造学など多彩な専門領域で活躍する石川善樹先生に、企業が働く人の「学び」にアプローチする方法、学びを習慣化するセルフマネジメント法についてお話をうかがいました。

Profile

石川 善樹 氏
(いしかわ・よしき)

予防医学研究者

1981年広島県生まれ。
東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。
「人がよりよく生きるとは何か(Well-being)」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。著書に『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(ニューズピックス)、『考え続ける力』(ちくま新書)などがある。

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企業のゴールは「結果を出すこと」

産能大
タカハシ

本日はよろしくお願いいたします!
さっそくですが、
働く人が「学ぶくせ」をつけるために、
企業はどのようなアプローチを取ればよいでしょうか?

そもそも「なぜ社員が学ばなければならないのか」に立ち返って考えると、言葉を選ばずに言えば「会社のビジネスモデルが盤石ではなく、オペレーションがしっかりしていないから」ということになります。仮に、企業に盤石なビジネスモデルがあってオペレーション方法が確立しているのであれば、社員に求められるのはそれを遂行する能力だけということになります。

石川先生

それだと、学ぶ必要性はあまりないということになりますね。

しかし現実はそうではなく、企業はつねに「本業を何とかしたい」あるいは「新規事業を何とかしたい」という悩みに向き合っています。そして社員に学んでほしいと考えるのも、「本業や新規事業を何とかしてほしいから」であるはずです。

本業や新規事業を何とかできる人材に育ってほしい、ということですね。

言い換えれば「現状を改善してほしい、革新を起こしてほしい」と期待するからこそ、それを実現できる人材になってもらうため、社員に学ばせようとするわけです。

企業においては、社員に学ばせることは目的なのではなく、
あくまでも「結果を出すこと」がゴールです。

企業のめざすゴールは、あくまでも「結果を出すこと」。

そのゴールを明確に意識することが「学ばせ方」のヒントになりそうです。

結果を出すためにすべきことは山のようにありますから、企業の人材育成担当者には、その中で最重要課題は何なのかを考えることが求められるでしょう。「当社の場合、重心はどこなのか」「何をクリアすれば結果が出るのか」を考え抜き、ゴールに向けて学習できるような仕組みを提供しなければ、社員の「学び」を継続させるのは難しいと思います。

「何を」「何のために」「いつ」学ぶか

産能大
タカハシ

従業員に「学び」を継続してもらうか、
企業はつねに試行錯誤しています。

身も蓋もないことを言えば、
多くの人は「自分は学びたくないけれど、人には学ばせたい」と考えるものです。

一般に、ビジネス書では、思考力をテーマにしたものよりもコミュニケーション法を解説した本のほうがよく読まれます。これは、本心では「自分の思考力を上げようと頑張るより、部下に考えてほしい」と思っている人が多いからでしょう。

石川先生
「自分の思考力を上げようと頑張るより、部下に考えてほしい」
と思っている人は多いかもしれない。

「自分が動くよりも言葉の力で部下を動かしたい」「自分が学ぶよりも部下に学ばせて、自分がただいるだけで業務改善や革新が起こり続ける状況をつくりたい」というのが本音だと言ってもいいかもしれません。

そう言われるとドキッとしますが、思い当たる節のある人は多いかもしれません。

「学び」を継続してもらいたいと考えるなら、
「人間は基本的に学びたくない生き物だ」という前提に立って考えなければなりません。

ポイントになるのは「意味づけ」です。人間は「なぜそれをやるのか」という「意味」を求めます。ですから、学んでもらうには「なぜそれを学ぶのか」を理解できるようにすることが必要なのです。

「学ぶ理由」を会社が示す必要があるということですね。

会社にとっては「本業や新規事業を何とかする」ことが重要ですが、働く人が「本業をなんとかしたい」「新規事業を何とかしたい」という欲望を持つことは考えにくいでしょう。

もちろん職位が上がれば企業の目的と個人の目的が合致しやすくなる面はありますし、それが望ましいのですが、経営層でもない限り「企業の目的達成に貢献するために自分がどの業務を担うのか」を自分で考えて選ぶのは難しいはずです。

確かに、日本ではジョブローテーションの中で配属された部署の仕事を担うケースが多いと思います。自分で業務を選んでいる人はごく少数かもしれません。

一つの会社の中には多様な業務がありますし、ある業務を担ったときに企業経営全体の中で自分がどんな役割を果たすべきなのかを理解すること、そのために何を学ぶべきなのかを自分で選ぶことは相当に難度が高いということを念頭に置くべきです。

「これを学ぶことが自分や会社にとってどう役立つのか」
がはっきりしない状態では、自主的な学びは起こらない
でしょう。

会社が「学ぶ理由」をしっかりと明示すれば、
社員の自主的な学びは活発化する。

ほかにも、「学び」の継続のために押さえておくべきポイントはありますか?

学びにはタイミングも重要です。企業で働きながら「学びたい」
という意欲を持つ人の多くは、経験を通してすでに何かを学んでいます。

自分の経験を体系化する学びは楽しいものなのです。一方、仕事で学びを得ていない人が座学をしても、ゴルフをやったことがないままゴルフの教本を読むようなもので、その勉強は楽しいものにはなりません。

なるほど、ありがとうございます!
次からは、いよいよ実際に学びの習慣を形成するためののコツを具体的に伺っていきます。

この記事は、通信研修総合ガイド2021特集ページ「生き抜く学びを考える」の一部です。
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