これからの時代の「イノベーション」「リーダーシップ」と 「ラーニング」

これからの時代の「イノベーション」「リーダーシップ」と 「ラーニング」

私が研修で常に強調しているキーワードが3つある。
それは「イノベーション」「リーダーシップ」「ラーニング」である。
本稿ではこのキーワードについて以下に示したい。

(1)イノベーションについて

これまでの日本的経営のビジネスモデル(儲ける仕組み)はオペレーションのスピードアップと正確性、丁寧さで勝負をしていた。製品・サービス全体の向上とコストダウン、心象の良さでグローバルな戦いを勝ち抜いてきた。しかし、デジタル化やリバースエンジニアリング、アジアの国々の技術革新によって、オペレーションでの差別化が効かなくなってきた。

そうなると残された道はイノベーションである。イノベーションとは、知識と知識の融合、あるいはシステムとシステムの融合、ビジネスモデルとビジネスモデルの融合などのようにこれまでにない情報や知恵を結合させたときに起こる。また、融合する際に必要なのは、融合の元となる様々な情報や知識、知恵、事例などをたくさん持っていることが前提となる。この融合もどの組み合わせがビジネスとして成立するのかは、試行錯誤の中でしか生まれない。

これまでにない情報と知恵を結合することで生まれる「イノベーション」イメージ

それをサポートするものとして、AIなどの人口知能、VR(仮想現実)システムなどがある。ピポットと呼ばれるように、条件を一つずつ変えながら、的確な融合を試みて、最適な製品やサービスを模索するのだが、これをスピーディーにやるには仮想空間や膨大なデータのやりとりが必要となる。

これらをまとめると、イノベーションを生み出すには、第一に人間が様々な情報をラーニングして、知識情報を高めること第二にそこから様々なビジネス仮説を想像すること第三にビジネス仮説を検証するための試行錯誤を資金をかけず、スピードを上げて検証することが必要となってくる。

(2)リーダーシップについて

次にリーダーシップであるが、リーダーシップとは人や組織に影響力を与えることであるが、今の時代に影響力が高いのは、新しいビジネスや仕事の仕方を作り出すことである。それには、これまでのやり方をスクラップアンドビルドしなければならない。前述のイノベーションは新しい知識等の融合という意味合いだけでなく、破壊と創造という考え方を包含している。つまり、今の時代、リーダーシップとはイノベーションを起こすことと意味合いが近い。また、破壊と創造、特に何を破壊し、何を創造するのかを組織内で最初に言い出せるかどうかが鍵を握る。最初にそれを言い出すような人は、同質性を重視する日本の組織でははじかれてしまいがちである。また、はじかれたら最後、組織内での再チャンスはほとんどない。クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」*で書かれているように、一度成功したビジネスモデルを確立した大企業が、そこから外れた行動を取ることは、会社そのものを否定することにつながってしまうため、次のイノベーションを起こしづらくなるのである。

リーダーシップと多様性イメージ画像

これらを考えると真に日本企業がリーダーシップを生み出すためにはリーダーシップ教育だけではなく、破壊と創造を唱える人を異端視しない組織風土づくりがとても大切になる。つまり、ビジネス運営上のダイバーシティを認める全社的な教育が必要である。歴史、哲学、経営など幅広い知識を持つことによって、ダイバーシティを認める度量の広さが身についてくる。つまり、組織ぐるみで様々な教養を持つ取り組みがリーダーシップを発揮する人を生み出す素地になる。そう考えるとイノベーション、リーダーシップをともに生み出す元となるのはラーニングということになる。

*Clayton M. Christensen (1997) “The Innovator’s Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail” ,(クレイトン・M・クリステンセン著、玉川俊平太監修、伊豆原弓訳(2000)『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社)

(3)ラーニングについて

ラーニングは日常の習慣であるし、それをやり続けている長さがポイントとなる。短期集中的な学習ではなく、長期習慣的な学習を、組織としてどう定着させるかをこれからの組織は考えていくべきである。その定着の際のポイントは、読書習慣と様々な成功者や道を究めた人に会い、その考えを吸収する習慣となる。 日本はOECD平均で比較すると学習歴が短いことがあげられる。基本的に高校、大学を卒業し、社会人になると改めて大学や大学院に入る人の割合が少ない。OECD平均と比較しても日本の大学進学率は低い(図表1)。大学院となるとさらに低い数値が出てくる。

図表1
世界の4年制大学進学率(OECD)
出典 P+Dマガジン シリーズ 出口治明の死ぬまで勉強 2020年7月27日現在

また、日本の企業の能力開発にかける投資がアメリカやイギリス、フランス、ドイツなどの欧米各国と比べて、GDP比で10分の1を下回っていることも気になるところである(図表2)。これでは世界のビジネス競争には到底勝てないし、イノベーションやリーダーシップの発揮も起こらない。 日本ではOJTで人を育てるのが一般的だが、OJTのキーワードであるトレーニングは訓練という意味であり、組織のルールや技術を計画的に教え、当面必要な技術、知識を教え込むという受動的なものである。一方、ラーニングは従業員が今後必要と思われる知識や考え方を主体的に取りに行く学習活動であり、興味・関心、好奇心などの要素が必要になる。ビジネスに関連する従業員の興味・関心、好奇心をどう引き出すか、各企業の取り組みが問われている。

GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較について(図表2)
出典 平成30年版 労働経済の分析「労働経済白書」(厚生労働省) -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について- 2020年7月27日現在

(4)これからの日本企業の発展に向けて

まずはこのコロナ禍で何とか目の前の危機的状況を乗り越える策を立てたい。しかし、その一方で中長期的な未来に向けて、ラーニングを組織として習慣化するアイデアをたくさん打ち出し、組織全体で試行錯誤することもこのコロナ禍で求められる。また、日常の仕事の中でラーニング機会を増やすためには、どんな仕掛けが必要なのか、社員のビジネスや教養に対する知識欲をどう高め、そのための環境をどう作っていくのかを経営陣を中心に議論することが、ビジネスの継続性を高めるために回り道のようで近道となる。それが日本企業に足りないと言われつつ、世界で注目されている「イノベーション」「リーダーシップ」「ラーニング」を実現するきっかけになる。そして、その活動をどんどん深めた企業こそが従業員を幸せにし、企業のサステナビリティにつながるものと考える。
まとめになるが、私がここまで述べてきた3つのキーワードの中でも特に私が強調したいのは「ラーニング」である。企業活動の中にラーニングをいかにビルトインするか、これからの日本企業の最大の課題であろう。

執筆者プロフィール

北山 勝英
(Katsuhide Kitayama)

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所 戦略・ビジネスモデル研究センター 主席研究員
産業能率大学 通信教育課程 教員

  • 筆者は大手企業を中心に、「考えること」をコンセプトに階層別研修、ビジネススキル研修等を実施している。
  • 所属・肩書きは掲載当時のものです。

北山勝英 研究員の詳細はこちら

北山 勝英