未来へ向けた有機的な組織活動形態とは

未来へ向けた有機的な組織活動形態とは

これまでの常識が通用しなくなっている

人はそれまでの人生経験、社会経験を通じて培った捉え方をもとに、物事を判断しようとします。特に、成功体験が多いほど、成功した過去の枠組みで状況を捉え、判断を下します。しかしながら、環境が大きく急激に変化する局面では、これまでの成功体験を通じて得た捉え方に頼るだけでは必ずしもうまくいきません。
昨今の社会や企業を取り巻く環境は変化の幅が大きく、組織に染み込んだ常識的な考え方や進め方の前提、それ自体が通用しなくなることがあります。そのため、これまでの常識的な前提にとらわれずに柔軟に考え対応していくことが、組織に求められます。

組織の中心軸を見つめなおす

とはいっても、今までと異なる考え方や進め方であれば何でもよいというわけにはいきません。組織が活動するうえで何を大事にするのか、何を軸にして活動するのか、組織活動の方向性や中心軸を今一度、見つめ直すことが重要となります。

それらを、メンバーと共有します。メンバーと共有することで、一人ひとりが、各々の持ち場で、組織が大事にすることや目指す方向に基づく判断や行動を取ることが可能になります。判断する際に拠って立つ軸が明確になることは、メンバーの自律的行動を促すことにもつながります。
環境変化が激しい状況こそ、組織は何を大事にして活動を進めるのか、その活動はどこを目指すのかをメンバーと共有し互いに握ることが、組織活動にエネルギーを注入し、職場の動きが意味のあるものとなるでしょう。

状況を適切に把握する

人は、自身の思い込みや決めつけが原因となり、目前の状況にあるポイントを見逃すことが多々あります。そこで、そもそも思い込みや決めつけで物事を捉える傾向が人にはあるものだ、と人間の性質を認め、組織に発生する事態を謙虚に把握していきます。この時に欠かせないのは職場内のやりとりです。各メンバーが業務を通じて得た新鮮な情報を共有し、組織内外の状況把握を確かなものにしていきます。

実効性のある形で権限委譲を

状況を把握したうえで実際に組織を動かしていくためには、各メンバーと仕事を分担することになります。その際鍵を握るのは、メンバー一人ひとりを活かすために権限委譲をうまく機能させられるかどうかです。責任範囲があいまいでメンバーが動きづらいのであれば範囲を明確にします。任せっぱなしが原因でメンバー本人もどうしたらよいか困っているのであればフォローします。このように実効性のある権限委譲を展開していくことが重要です。
また、チームワークが発揮されないと成果を出す組織になりづらいものです。チームワーク発揮のためにも、メンバー同士のコミュニケーションがスムーズに行われるよう工夫が必要です。

誰か一人が正解を持っているとは限らない

組織内コミュニケーションのあり方として、変化の幅が大きく急激な環境下では、適切な仕事の進め方や職場の運営方法について誰か一人だけが正解をもっているものだ、といった前提から離れることが有効です。「誰か一人が正解をもっているわけではない」といった姿勢を組織内で共有し、メンバーが持つ情報やアイデアが積極的に提供され、場合によっては情報やアイデア同士が組み合わされ練り上げられるよう、コミュニケーションを活性化させます。これまでの枠に限定されず、組織にとってどのような活動がよいのか、どんな新しいやり方がありそうか、といったやりとりを行うのです。

形式的報告文化から、未来へ向けた相談文化へ

このようなコミュニケーションについて、「報告活動」「相談活動」を対比しながら考えてみましょう。
報告活動は、どちらかというと過去がどうだったのかという過去時制に重点を置いたコミュニケーションです。また、既に決まった枠組みで行われることが多いコミュニケーションです。報告活動は組織運営において重要であるものの、時が経つにつれ、その目的が忘れ去られ、形式的な情報のやりとりになってしまうことがあります。
形式的な報告活動がコミュニケーションのメインとなってしまっては、リアルな情報が組織の中で流通する余地が少なくなり、組織が直面する実情を反映した活動が取られなくなってしまいます。意思決定者へも本当の情報が届かないという事態も発生します。そうならないようにするためには、未来へ向けて様々な可能性を検討する「相談文化」を醸成することです。

報告がこれまでのことを伝える過去に重点を置くコミュニケーションに対して、相談は、これからのことを検討しようとする未来志向のコミュニケーションといえます。未来志向のコミュニケーションを実現するためには、メンバーの自発性を無視できません。日頃からメンバー同士の信頼関係構築を意識し、やりとりが発生しやすい土壌をつくっておくことが期待されます。

目指すは、組織作りの3つの柱

上記を踏まえ、これからの組織作りで目指していただきたい3つの柱をご紹介します。

  1. メンバーの問題意識のすり合わせ。部分最適から全体最適へ メンバーが自分だけ、自職場だけといった部分最適に意識を向けすぎず、組織の全体最適を意識した活動を誘発していくことを目指します。
  2. 多様な進め方を肯定する メンバー本人の意志や想いをくみ上げ、自発的行動を促します。過去に縛られた限定的手段の呪縛から解放され、仕事の多様な進め方を認め合い、個々の持てる力を活かす新しい組織運営スタイルの構築を目指します。
  3. 個人、職場、組織の相乗効果を発揮させる 個人、職場、組織が互いにつながり、相乗効果を発揮する場を目指します。すなわち、個人の働きがいと成長、職場内外の協働促進、組織の成果向上と、これらがつながり、同時発生するような活動ともいえます。メンバー個々が働きがいを高めて成長し、それが職場での協働活動、新たなアイデアの創出や仕事の進め方の展開へとつながり、その結果、組織の成果とも連動していくような活動形態です。個人、職場、組織の3側面がよい影響を与えあう、有機的とも表現される柔軟な活動の展開を目指します。

管理者が、未来へ向けて、組織内の各要素をつなぎ合わせ、様々な可能性を検討する柔軟かつ効果的な活動形態を作り上げることは、今まで以上に期待されています。

執筆者プロフィール

中村 浩史
(Hiroshi Nakamura)

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所 主幹研究員 総合研究所准教授

  • 筆者は主に、職場マネジメント研修、リーダーシップ研修、組織改革推進指導等を担当。
  • 所属・肩書きは掲載当時のものです。

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中村 浩史