哲学対話で磨くリーダーシップ ~哲学的思考で本質を探求する~

今、ビジネス界で注目が高まる“哲学的思考”。そこには以下の背景と期待があると考えられます。

VUCAワールドといわれるようなビジネス環境においては、将来を予測することがきわめて困難である。
だからこそ、時代の変化に依らない普遍的な本質を探求する姿勢や能力を有し、メンバーを力強く牽引していくリーダーが待望される。

では、「企業内において“哲学的思考”をどのように醸成していけばよいのか」。
このような問いに応えるフォーラムが、以下のとおり開催されました。

【開催概要】

日時:2020年2月3日(月) 13:30~16:30
会場:学校法人産業能率大学 サピアタワーセミナールーム
対象:企業・団体の人事・教育部門責任者・担当者様、リーダー育成に関心のある方々
テーマ:

  • 第1部 なぜ今“哲学”なのか?
  • 第2部 体験しよう哲学対話
  • 第3部 “哲学対話”で期待されるリーダー行動の変化とは ―「哲学対話で磨くリーダーシップ」研修―

講演者プロフィール

杉村 茂晃 (すぎむら・しげあき)

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所 人事・マネジメント研究センター 主任研究員

詳細はこちら

  • 所属・肩書きは掲載当時のものです。
杉村茂晃 研究員の写真

第1部 なぜ今“哲学”なのか?

逆説的かもしれませんが、VUCAワールドという先の読めない変化が激しい世の中であるからこそ、データやエビデンスで分析的に考えても答えが出ないような問いと向き合い、本質を探求する哲学的姿勢がリーダーに求められているのではないでしょうか。
また、多様なメンバーを率いる上で、意思決定の根拠となる哲学(判断軸)を持たなければ、混迷する状況を切り拓いていくことは難しいといえます。

ビジネスにおける哲学

「根拠と具体例で説得力を高める」、「言葉を正確に紡ぎ出す」、「物事を鵜呑みにせずクリティカルに検証する」、「表層ではなく本質に迫る」といった哲学的思考・姿勢はビジネスにおいても有用なのではないかといった点で注目が集まっています。

哲学とは、一見自明とされていることを問い直し、物事の本質を筋道立てて考えること。
哲学対話とは、集団での対話を通じて物事の本質を探求すること。

海外の事例ではありますが、シリコンバレーを代表する起業家には大学で哲学を専攻している人が多く、また従業員においても哲学科出身者が高年収であるという統計が示されるなど、ビジネスにおいて哲学が有用であるとの記事やデータが広まっています。また、古くから哲学の歴史を持つフランスでは、人文系・経済社会系、そして理系においても、大学進学資格となる「バカロレア」の科目に哲学が設置されています。

欧米では、ビジネススクールにおいて哲学教育が重視されています(ロンドンビジネススクール、コペンハーゲンビジネススクール、など)。一方、日本においてはどうでしょうか。最近になって哲学教育の重要性が認識されつつありますが、まだまだ学校教育の事例が先行しているようです(「子どものための哲学対話」など)。
ちなみに東京大学 梶原真司 教授は、以下を哲学対話のルールとして提唱しています。

哲学対話のルール

  1. 何を発言してもよい
  2. 他者が発言したことに対して否定的な態度をとらない
  3. 発言せず、ただ聞いているだけでもよい
  4. お互いに問いかけるようにする
  5. 知識ではなく、自分の経験に即して話す
  6. 話がまとまらなくてもよい
  7. 意見が変わってもよい
  8. 分からなくてもよい

有意義な哲学対話を進行するうえで重要な条件は、「知的安全性」の担保です。もちろん「心理的安全性」も重要ですが、哲学的知識や哲学的素養がなくとも安心して哲学対話に参加できる「知的安全性」は、対話の内容を深めるうえで外せません。その意味で、哲学対話ファシリテーターの取り回しが、哲学対話の品質を決めるといってもいいでしょう。哲学対話ファシリテーションでは、参加者に対して、知識に即して話すのではなく経験に基づいて(実感を伴って)発言することを要求します。

ところで、ビジネス場面において、なぜこれほどまでに哲学的思考や哲学対話が重要となるのでしょうか。それは、いくら高度な知識や技術をもっていたとしても、行動の背景にある考え方(≒哲学)が変わらなければ、リーダーの行動が変わらないからです。

リーダーの持つ哲学(考え方)が与える影響
リーダーの持つ哲学(考え方)が与える影響の図

また、「結果」を生み出した「行動」を振り返るだけではなく、その背景となる「判断」と哲学(考え方)を振り返ることが重要となります。
この哲学(考え方)を内省しアップグレードしていく手法として、「哲学対話」が位置づけられます。

第2部 体験しよう哲学対話

第2部では、参加者の皆さんで車座になり「哲学対話」を体験していただきました。体験の前に、「哲学対話」の概要と進め方のポイントを紹介しています。

車座になって哲学対話をおこなう来場者の写真

哲学対話を進めるうえでの3つのポイント

  1. 車座になる
    お互いの表情や息づかいを感じながら対話を進めるためのオーソドックスな配置です。
  2. 問いを設定する
    問いとは「哲学対話における主題・テーマ」です。参加者で話し合いながら問いを決めます。この問いの設定が最も重要です。何を問うて対話するのか、この「問い決め」のプロセスこそ「哲学プラクティス(哲学の実践)」です。
  3. 哲学対話ファシリテーターが進行する
    各グループ内で1名ファシリテーターを選出し、そのグループの対話の進行役となります。

哲学対話を実施する環境ですが、たとえば、線香の匂いが立ち込めるお寺やコーヒーの香りが漂うカフェなど、リラックスした空間でおこなうことが望ましいです。また、所属する会社名や肩書といった属性には依存せず進行します。哲学対話では「どこの誰がどういったのか」ということよりも、「物事の本質」が重要だからです。

哲学対話の問いは、あらかじめ用意しておく場合と、参加者自身で決める場合の両方があります。時間は1ラウンド60分前後がいいでしょう。また、1ラウンド実施する毎に、参加者同士が振り返りをおこなう時間および個人が内省する時間を盛り込むことが大切です。

哲学対話の準備

  1. 落ち着いて話ができる環境
    静かな空間
  2. 哲学的問い
    予め用意された問い、参加者で検討する問い
  3. 哲学対話ファシリテーターによる対話の品質
    対話内容の成否を決める重要ポイント
  4. リフレクション
    集団での振り返り→個人の内省

リーダーが哲学にアクセスするための要素

めざす哲学対話のポイントとして強調すべきは、How型ではなく、What型、あるいはWhy型で問うことです。
たとえば、「どうすれば部下のモチベーションが高まるか(How型)」と問うのではなく。「モチベーションとは何なのか」、「部下を育てるとはどういうことをいうのか」、「なぜ部下を育てなければならないのか」といったように、「そもそも」を問う「What型・Why型」が哲学的問いです。

そうした意味で、ブレインストーミングやワールド・カフェのような明るく活性化する種類の話し合いと異なり、どちらかというと静かな雰囲気で進行することが少なくありません。むしろ、参加者が深く考え込むような「沈黙の時間」を積極的に歓迎します。

また哲学対話は、対話内容を無理やり収束させることやグループの結論を慌てて出すことを求めるものでもありません。全体でじっくり問いに向き合うことで、普遍的な本質を探求していく試みが哲学対話です。

目指す哲学対話のポイント

  1. 哲学的問い:How型ではなく、What型・Why型の問い
  2. 解決策の協議ではなく、本質の探求
  3. 動的でなく静的
  4. 意思決定はしないが、共有了解を目指す
  5. ロジカルかつクリティカルな対話進行
  6. 心理的安全性ならびに知的安全性を担保した運営

哲学対話体験

ここでは、当日の参加者による哲学対話セッションについて紹介します。
杉村研究員が事前に用意した、「マネジメント」に関する問いをもとに、各グループの1名がファシリテーター役となって、約30分の哲学対話ミニ体験をおこないました(「マネジメント力って習得できるの?」、「言うことを聞く部下が良い部下?」など)。

コミュニティボールを使用している様子の写真
コミュニティボールを投げあい対話を促進します。
哲学対話の様子の写真
リラックスした空間でおこなわれる哲学対話の様子(哲学対話を導入いただいた企業様の写真)。

哲学対話のミニ体験後、以下の観点から振り返りをおこないました。

  • テーマに対してじっくり考えることができたか?
  • 安心して自分の考えを発言できたか?
  • 新しい発想や驚きがあったか?
  • 感情の動きや身体的な反応はあったか?それはどんな場面だったか?

今回の参加者の感想として、「これまでにないほど頭の中に汗をかいた」、「普段業務に追われている中で、ここまで一つの問いに向き合い掘り下げる体験はとても新鮮だった」、「他者との深い対話を通じてそのような考え方があるのかと知り、自分が知らず知らずのうちに抱いていた固定観念を見直す貴重な機会となった」などの声が挙がっていました。
特に、哲学対話ファシリテーターを務めた参加者の気づきが興味深く、会場全体に新たな発見をもたらしていたようです(「大変だったけど、哲学対話ファシリテーターがもっとも思考力や探求心を鍛えられる」)。

哲学対話のミニ体験と振り返りが終了した後、哲学対話を自社で導入する場合に関する質問がいくつか寄せられました。ここでは、その一部を紹介します。

  • 参加者さっそく自社でも導入したいと感じましたしぜひ多くの社員に体験させたいと思いました。今回のミニ体験では30分間で対話をおこないましたが、本来であればどの程度の時間が適切でしょうか?
  • 杉村研究員問いの内容やファシリテーションにもよりますが、1ラウンド1時間は確保することが望ましいです。振り返りを含めると1時間半程度になるでしょうか。哲学対話の実践による哲学的思考のトレーニングは「場数」が求められますので、1日の間に少なくとも3ラウンド、半日研修であっても2ラウンドはおこないたいところです。哲学対話ファシリテーターを務める体験もしてもらいたいですね。
  • 参加者2ラウンドおこなう場合、哲学対話メンバーは変えた方が良いのでしょうか。
  • 杉村研究員メンバーを変えることもありますし、問い自体を変えることもあります。もちろん同じ問いで2ラウンドおこなう場合もあります。いずれにしても、参加者自身の意思を尊重して進めます。また、最初のラウンドで生まれた「進化した問い」で次のラウンドをおこなうケースもあります。
  • 参加者今回の哲学対話ミニ体験で、自分のチームでは、「言うことを聞く部下が良い部下?」という問いで進めたのですが、言葉の定義を突き詰めることが正しいのかどうか、あるいは好きなように対話すべきなのかどうか、といった点で判断に迷いました。
  • 杉村研究員すばらしい着眼点です。まずは言葉の定義を吟味するところから始めるとよいでしょう。哲学対話では、あえて言葉の一つひとつにこだわります。「言うことを聞くとはどういうこと?」、「良い部下の定義って?」など、言葉に対する解釈が定まらないうちに対話を進行しても、本質にたどり着けず終わる恐れがあるからです。
    まずは「問いそのもの」を理解するところから進めていくやり方を提案したいと思います。問いが真に意味するところからスタートして掘り下げていくことが、まさに哲学であるといえるでしょう。
  • 参加者答えを提供するような従来の研修イメージと異なるように感じたのですが、ビジネスにおいて哲学対話を考えるうえで、重要なポイントは何でしょうか。
  • 杉村研究員哲学対話の体験をビジネス実践に生かすためには、参加者が内省する時間を設けることが重要です。哲学対話ファシリテーターのサポートを通じて、対話全体の内容をレビューし、自分の考え方がどのように変化したか変化しなかったか、またはどのように強化されたか、そうした内省をうまく促進できなければ、哲学対話に参加した価値が半減してしまいます。
    もちろん、1度の哲学対話を通じて自分の頭の中が「すっきりする」とは限りません。むしろ、かえって「もやもや」が深まることもありますし、新たな問いが芽生えることだって少なくありません。しかし、これは退行ではなく進歩です。その意味で、哲学対話が終了し日常に戻った後にどのように「自己対話」を継続するのか、また具体的なリーダー行動をどう変化させていくか、この点を設計して終了する点がポイントです。

第3部 “哲学対話”で期待されるリーダー行動の変化とは ―「哲学対話で磨くリーダーシップ」研修―

「哲学対話で磨くリーダーシップ研修」の受講を通じて、自身のもつ哲学の重要性に対する気づきを深めます。また、内省を通じて自身の哲学をアップデートし、職場でのリーダーシップ行動に変化をもたらす具体的な方法論を学習します。

本研修は、以下のような悩みを抱えるリーダーに対して、その解決策を提供するプログラムとなっています。

リーダーが抱える悩み

  1. 内省する余裕のないリーダー
    …多忙感が時間的・精神的なゆとりを奪い、思考停止に陥ることで成長を阻害している
    ⇒ 一度立ち止まって自分の当たり前を問い直すことができるリーダーへ
  2. メンバー指導に悩むリーダー
    …メンバーとのコミュニケーションや指導方法に悩み、距離を取ってしまう
    ⇒ メンバーと深いレベルで対話し、メンバーを理解したうえで指導できるリーダーへ
  3. 影響力の発揮に悩むリーダー
    …メンバーの多様性が高まる中、チームをうまく一つに束ねることができない
    ⇒ チームが目指す方向性を自身の言葉で力強く紡ぎ出すことができるリーダーへ

リーダーが哲学を意識すると何が変わるのか
研修の目的・対象
研修プログラム