いま企業に求められる「英語」×「おもてなし」―急増する訪日外国人に喜ばれる英語表現とは

去る2020年1月31日(金)に、SANNOフォーラム「いま企業に求められる『英語』×『おもてなし』―急増する訪日外国人に喜ばれる英語表現とは」を開催しました。この記事では、抜粋した当日の講演内容をリポートします。

【開催概要】

日時:2020年1月31日(金)14:00~17:00
会場:東京駅サピアタワー9階 学校法人 産業能率大学 セミナールーム
対象:とっさの場面で英語でのご案内や配慮が必要となるサービス業の企業様(外食・ホテル・交通・セキュリティなど)、人事・人材育成部門の責任者・ご担当者様

【ホスピタリティ】おもてなしの現状と課題について

講師プロフィール

  • 村上 美智子
    学校法人産業能率大学 総合研究所兼任講師

突然ですが、「おもてなし」と聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか。
――思いやり? ホスピタリティ? 茶道?
そのような問いかけから、村上講師の講演がスタートしました。なお、「おもてなし」という言葉の意味について、下記のとおり説明されました。

■サービス

主従関係にあり、対価を必要とする。サービスは、いつでも誰でも等しく受けられる。

■ホスピタリティ

共生関係にあり、対価を必要としない。相手も自分も喜ぶことを目的とする。

■おもてなし

日本の茶道が由来。極めることを目的とする。事前準備を含む。

より質の高いおもてなしを目指す

日頃、何気なく日常を過ごす中で、ときに私たちはちょっとした不自由さを感じることがあるかと思います。

たとえば、左利きの方は駅の自動改札を通過するとき、左腕を伸ばしてICカードをタッチする必要があり、ストレスを感じます。老眼の方は、書類への記入などを求められると、老眼鏡をかけなおしたり携帯したりする手間がかかります。

イベントの様子の写真

より質の高いおもてなしを発揮するには、世の中が多数派中心に考えられていることを認識し、もっと少数派を理解しながら配慮していくことも大切ではないか、といった提言が述べられました。

どのような人がどのようなことに困っているのかを考えることは、つまり多様性を考えるということです。
たとえば、「視覚」について、「視覚障がい者」と聞くと「全く見ることができない人」を想像してしまう人も多いでしょう。そうした理解不足から、視覚障がい者には点字さえ用いればよいのだと考えることは果たして正しいのでしょうか。

実のところ、「見えづらさ」を抱える方のなかには、全く見ることができない人から半分だけ見える人、少しだけ見にくい人まで様々です。そして、点字の浸透率については、視覚障がい者の20%ぐらいと言われています。
また、「見えづらさ」だけではなく、「見分けづらさ」というものもあります。色弱の方、赤・緑など特定の色が見分けにくい方、色を明暗でしか感じない方など様々です。

このように、「視覚」一つをとってみても、実に様々です。より質の高いおもてなしを考えるうえで、こうした多様性を理解し、少数派にも着目していくことが必要であると説明されました。

多様性に対する企業の取り組み

前述した多様性に対する、企業の実際取り組みが紹介されました。ここでは、その一部を掲載いたします。

■Webサイトの記入欄

前述した「見分けづらさ」を抱える方は、「赤い箇所(文字)は入力必須項目です」とだけ記載しても、認知することが困難です。そこで、赤い色の装飾に加えて、黒い文字で「必須」などと記載するなど、2つ以上の情報を組み合わせることで、少数派に配慮をします。

■トイレ個室の大きさ(空港)

空港には様々な国の人が出入りします。民族によっては、体の大きな方もいます。日本人の平均に合わせるのではなく、様々な方が利用することを想像し、一部のトイレ個室にゆとりを持たせることで配慮をしています。

■おむつ交換スペースの設置と表示(百貨店の男性トイレ)

乳幼児のおむつ交換スペースは女性用トイレにのみ設置されている印象がまだ強いかもしれません。しかし、男性が子育てをする世帯もあれば、普段は妻が育児をする時間が多いが休日などのお出かけの際は夫が家族サービスをしたいという場合もあります。多目的トイレも含め、そういった様々な生活スタイルへの配慮がされています。

少し外を歩いて注意をして見てみると、私たちは様々な配慮を目にすることができます。

昨今では当たり前のように存在しているピクトグラムも、1964年の東京パラリンピック開催によって初めて採用されたものです。ちなみに、この開催から障がい者のイメージが一新され、企業の障がい者雇用が増加しました。
ピクトグラムは障がい者だけでなく、多数派の人もそうでない人にも役立つ記号となっています。もちろん、ピクトグラムを認識することが難しい人へは、別の情報と組み合わせて情報を伝えることも必要です。

「このようなことまで配慮してくれるなんて!」とお客様に思っていただくことは喜ばしいことです。また、企業の多様性への取り組みを、企業からのメッセージとして受け取ってくださるお客様もいます。

最後に、産業能率大学サピアタワーセミナールームの扉が紹介されました。
以前のドアノブは回して開閉するタイプが多く見られましたが、力をかけることが難しい方には困難でした。
現在は押すだけで簡単に開閉できるドアノブが増えているように思われます。また、車いすや台車が通りやすいよう、開いた状態を保つことも可能です。

ドアノブの写真

【英語】「日本のおもてなし」を英語で伝える

講師プロフィール

佐野講師は自身の接客英語教室で講師をする傍ら、現在も小売店で接客・販売をおこなっています。「20年ほど前にタイのホテルでインバウンドの現場は経験しているものの、それはスマートフォン、キャッシュレスのない時代。日本のインバウンドは、今現在の現場に立たなければ知ることができない」という考えからです。
今回の講演でも、現場の思いを伝えたいということで、馴染みのあるエプロンスタイルで登壇されました。

はじめに、インバウンドの客層が直近10年間で変化していることが告げられました。
見た目だけでは分からない内部障がい者の方、LGBTの方、3世代で旅行をする方、ベビーカーと大きなスーツケースで両手の塞がっている方など、インバウンドも多様化しています。

外国人の多様性への理解

突然ですが、下記の数字は何を表しているでしょうか。

  1. 約73億
  2. 約15億
  3. 約1億
  4. 約4億
  5. 約11億

上から、(1)世界人口、(2)英語を話す人口、(3)日本人口、(4)英語のネイティブスピーカー人口、(5)英語を第二言語として話す人口です(2010年代調べ)。

英語を話すということは、この約15億人の中に入っていくということです。この約15億人の中には、日本では出会わないような多様な人たちがたくさんいます。

イベントの様子の写真

ネイティブスピーカーが約4億人、第二言語として話す人が約11憶人と考えると、英語を話さなければならない思いが強くなってしまうかもしれません。
佐野講師がタイのホテルに従事していたとき、ホテルの従業員の人種や階級はさまざまでした。そういった環境にいると、肌や髪の色、言語や文化、宗教といったことで偏見を抱く余裕はもはやありませんでした。英語の発音や文法よりも、相手を一人の人間としてリスペクトし、気遣いをもって接することがスタートであるということに気づいたと語られました。

そういった意識をインバウンドに対しても持つことが重要だといえるのではないでしょうか。

英語対応が求められる場面

ここまで、異なる国の人と対話する前の意識や心構えについて、説明されました。では、実際にどのような場面で英語対応が求められるのでしょうか。当日紹介された一部の内容を紹介します。

全業種に当てはまる場面では、「道案内」、「電車案内」、「注意事項」、「緊急災害時」などが挙げられます。

ニコニコすることだけが「おもてなし」ではなく、毅然と注意を促しお客様をトラブルメーカーにさせない、お客様をお守りすることも「おもてなし」活動の一つと考える重要性が説かれました。

注意事項について、以前外国人のお客様が会計前に商品を開封してしまったとき、日本では会計前に商品開封はできない旨を注意したという、佐野講師による実体験エピソードも紹介されました。ちなみに、そのお客様の国では許されている当たり前のことという認識だったようで、ここでも文化の違いがあることが伺えます。

講演の最後に、来場者の皆さまといっしょに接客英語を音読しました。
また、英語・日本語での接客に役立つウォーミングアップとして、声を出しやすくするためのストレッチや呼吸、笑顔と真顔のゲームなどを実施しました。

体を動かしリラックスを促したり、顔の筋肉が緩むことで声を出しやすくしたりといった効果があるそうです。

イベントの様子の写真

いくつか紹介されたフレーズから、この記事では先ほど紹介した「注意事項」を取り上げます。

★注意をする前は、Excuse me.「失礼いたします」で始まり、注意をした後はThank you very much.「ありがとうございます」で終わるようにしましょう。

Please don't come inside here.
(ここには立ち入らないでください。)

Smoking is not allowed here.
(ここでの喫煙はできません。)

Smoking is allowed here.
(ここでは喫煙可能です。)

*Don't~「~してはいけません」を用いると、相手を責める印象を与えてしまいます。
*not allowed/allowedの元の意味は「許可されていない・いる」です。

【対話セッション】「英語」×「おもてなし」-企業に求められているものとは-

講演内容を踏まえたうえで、感想や疑問点、実際に所属企業が抱える課題などを来場者同士で話し合っていただきました。
それらに対し、村上講師・佐野講師がコメントをする形で対話セッションが進行しました。

ここでは、その一部を抜粋し紹介します。

対話セッションの様子の写真

何か困っている方を見かけても、何をしてほしいか分からず、どう声をかけてよいか悩んでしまいます。

  • ■村上講師のコメント
    声をかけることは、とても勇気のいること。本当に危ない時などは咄嗟に動けるため、何もせず見守っていることもおもてなしだと考えます。
    「何か困っていませんか」と聞いてしまうと、「困ってはいない」と思われ断る方も多いです。言い回しの違いですが、「何か手伝うことはありますか」と聞くと、手伝ってほしいことを申し出やすいと思います。
  • ■佐野講師のコメント
    英語についても同じです。何か困っているのか、助けが必要なのか。疑問に思ったら、まずはMay I help you?「お手伝いしてもよろしいですか」とお声かけすることで、安心する外国人の方も多くいらっしゃいます。

笑顔は大事だが、一方で主張すべきところは主張することの重要性も学べました。

  • ■佐野講師のコメント
    仰るとおり、日本でやってはいけないことを理解してもらうことや法律を守ってもらうことは大前提です。ただし、伝え方はとても大事ですので、常にリスペクトをもち、Excuse me.とThank you.を心がけましょう。
    どなたも日本を楽しんでもらいたい・楽しみたい気持ちは同じです。そのなかで少し間違いをしてしまったということですので、糾弾するのではなく、「あなたも私もできない・してはいけないこと」という気持ちを理解していただきましょう。
  • ■村上講師のコメント
    これは助けを必要としている人に対しても当てはまることです。あえて無理難題を提示したり、ハラスメントをしたりする人もいます。目に見える情報だけでその人を判断せず、困っている人に対して絶対に手を差し伸べなければならない、助けなければならないという心のバリアを外してみましょう。

英語や接客など、研修をおこなっても社員がなかなか積極的になりません。

  • ■佐野講師のコメント
    私の経験ですが、現場で英語を話して接客をしていると、必ず一人二人は興味を示してくださる方がいます。そういった人を積極的にフォローし、押し付けではなくパフォーマンスを発揮できる場を与えることで、周りの意識も変わるのではないでしょうか。加えて、英語での接客は売上にも良い影響を与えます。
  • ■村上講師のコメント
    佐野講師と同様、憧れの対象を育成することは有効だと思います。実際、そういった人にスポットライトを当てることで、刺激を受け自発的に勉強に取り組む方もいらっしゃいます。 また、困らないと行動できないということもありますから、意図的に困った環境に身を置かせることで意欲的になる場合もあるでしょう。