社会人は何を学べばよいのか? ~社会人基礎力と学びの継続性~

社会人は何を学べばよいのか? ~社会人基礎力と学びの継続性~ 社会人は何を学べばよいのか? ~社会人基礎力と学びの継続性~

去る2019年12月11日(水)に、2020通信研修総合ガイド&セミナー総合ガイド完成記念フォーラム「人材育成担当者と考える~学びの基盤をどう創るのか~」を開催しました。
この記事では、法政大学 名誉教授 諏訪康雄氏の基調講演をリポートします。

【開催概要】
日時:2019年12月11日(水)13:30~17:00
会場:産業能率大学 代官山キャンパス(産能マネジメントスクール)
対象:人事・教育部門の責任者・ご担当者様、各部門教育の責任者・ご担当者様

講演者プロフィール

諏訪 康雄(すわ やすお)
法政大学 名誉教授

※所属・肩書は掲載当時のものです。

中央労働委員会会長、労働政策審議会会長を歴任。専門は労働法・雇用政策。
2006年の「社会人基礎力」の生みの親であり、2018年に新しくなった「人生100年時代の社会人基礎力」では、「人材像」を検討するワーキンググループ座長。

諏訪康雄氏

なお、諏訪氏には本学の通信研修「~自律型人材をめざす~人生100年時代の社会人基礎力を磨く」も監修いただいております。

学びに踏み出し継続することの楽しさをつくりだす

今回の講演は「社会人は何を学べばよいのか?」をテーマに進行しました。
日本人の学びの現状を問題提起し、その現状を打開するために社会人は何をどのように学ぶべきかについて、参加者の皆さんと一緒に考えていきました。

「学びに踏み出し継続することの楽しさをつくりだす」ための3つの課題

  1. 学びをいかに習慣づけていくか
  2. 学びの喜びをいかに実感させていくのか
  3. 経営者や管理者が学びのモデルをいかに示していくのか

参加者それぞれがこれらの課題に対して検討していただくために、「社会人基礎力」を巡る研究会での議論や背景、具体的な事例を交えて紹介されました。

人材育成担当者と考えるフォーラムの様子

社会人基礎力をめぐる研究会(経済産業省)

諏訪氏は2006年に経済産業省が提唱した社会人基礎力の生みの親であり、2018年に新しくなった「人生100年時代の社会人基礎力」ではワーキンググループの座長も務められました。
そのような経歴を持つ諏訪氏から、実際に当時の議論について説明していただきました。

社会人基礎力1.0

社会人基礎力をめぐる研究会の第1回は就職氷河期から間もない2005年におこなわれています。「社会人として活躍するうえで不可欠な能力とは何か」を議題とし、さまざまな企業や有識者を交えた議論の場が設けられました。

この議論の中で、社会人が身につけるべき能力として論じられたのは、教育の基本と同様に知力・体力・徳力です。
徳力とは、非認知能力であり、学校教育ではあまり注視されていませんでした。社会人として考える徳力は、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」、つまり「また一緒に仕事がしたい」と思わせる力であると諏訪氏から説明がありました。

経済産業省はこの社会人基礎力について、さらに3つの能力(前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力)と12の能力要素を定義しています。

経済産業政策局 産業人材政策室「『人生100年時代の社会人基礎力』説明資料」 経済産業省 https://www.meti.go.jp/

上述した「社会人基礎力」は一見すると若い人だけに必要な能力であると捉えられるかもしれません。
しかしながら、社会人基礎力は若い人だけに求められる能力では決してなく、年齢を重ねていくなかでこの基礎力を鍛え続けなければ、中高年になった際に能力が衰退してしまうこともあるといった懸念が諏訪氏から呈されました。

また、社会人基礎力を高めるための有効な取り組みも併せて紹介されています。

社会人基礎力を高めるための有効な取り組み(一例)

  1. ボランティア活動
    ボランティアはチーム内での明確な指示がなく、主体的に動くことが求められるため、3つの能力が必要となる。
  2. キャリア・デザインの理解
    最初にキャリア・デザインの視点を学ぶことで「気づき」を与えられると、その後の活動において、自身が得られた能力や学びを自覚することができるため、学習効果がアップする。
  3. 選考(採用活動)方針の見直し
    社会人基礎力を鍛えるために学び続けることのできる人物像を具体化し、選考にあたって重視する点を検討する。

さらに、(3)選考(採用活動)方針の見直しについては、専門性の高い人材や最先端の技術を持つ人材がほしいのであれば、修士号・博士号取得者と能力開発を組み合わせて検討していくことが重要であると諏訪氏から補足されています。
加えて、米国では修士号・博士号取得者と学士号取得者間の賃金差が拡大しているが、日本ではその差がほとんどないといったことに対しても高度な知識開発へのインセンティブが欠けるとの懸念を示されました。

社会人基礎力2.0

社会人基礎力をめぐる研究会の第2回は働き方改革に合わせた2017年におこなわれています。この研究会では、就業人口の過半を占めるようになった中高年を対象とする能力発揮(再雇用や転職を含む)について議論されました。

中高年が活躍できないのは加齢により能力が下がるからだと思っている人も少なくありません。
しかし、必ずしもそうではなく、活躍に影響するのは能力の問題だけではないといったことが、データを用いて説明されました。

諏訪康雄氏

具体的に、国際成人力調査(PIAAC:ピアック)では、60~65歳の日本人について、読解力・数的思考力はOECD平均を超える水準を維持しているという結果が出ています。また、ピーク時年齢層(25~29歳)のほぼ9割ほどのレベルを維持するとの結果でした。
しかしながら、IT力については落ち込みが激しいため、このIT力を着実に高めていく工夫が必要であると提言されました。
IT力に限らず、中高年の能力を本来あるべきように活用できない人事システムや、中高年側の新しいことを学ぶことを厭う怠惰な気持ち、あるいは新しいことは若い人にやらせればよいという胡坐をかくような気持ちが、中高年の活力維持に問題をきたしているのではないかといった諏訪氏の見解が示されました。
そのような前提を考えると、年齢を重ねてから急にマインドセットを変えることは難しいため、若い頃から学習する習慣を身につける仕組みが望ましいという結論に至ります。

このような「学び続ける姿勢」を継続していくためには、業界などの特性に応じた能力のような、すぐに役立つ能力ばかりではなく、長期にわたって着々と身につけていかなければならない社会人としての共通能力にも注目していく必要がある、といったところで第2回の研究会に関する紹介を終えられました。

経済産業政策局 産業人材政策室「『人生100年時代の社会人基礎力』と『リカレント教育』について」 経済産業省 https://www.meti.go.jp/

社会人は何をどう学び続けるべきか?

これまでの説明から、中高年にも社会人基礎力が必要であり、またそれは若い頃から「学び続ける」ことによって身につけることができると強調されました。

そのうえで、年齢を重ねても活力をもって働き、後輩・同僚から頼りにされるようなビジネスワーカーになるためには、どのように能力を身につけていくのか、自分に欠けているものをどう自覚していくのかを一人ひとりが考えることが大事であると諏訪氏は述べられました。

なお、経済産業省によるキャリアやスキルの棚卸しをした経験の有無に関する調査では、自身のキャリアを振り返った経験のない人が7割を超えており、なかなか自分のキャリアを自分事化できていないという現状があります。
さらに、自己啓発をおこなっている人はかなり少なく、厚生労働省の能力開発基本調査によれば、1年間で10時間未満の学習をしている層を除けば、能力開発を実施している人の割合はわずか24%ほどとなります。
その他、ライフキャリアを考える機会を持たない人や本を読まない人が相当数に及ぶことが、諏訪氏から示されました。

さらに、管理職になりたい、出世したいという考えを持つ人の割合は減少しており、「昇進」だけでは学ぶためのインセンティブにはもはや十分でないのではないかといった問題も提起されました。

ちなみに、日本において週休2日制が施行される2002年より前は、土曜日に半日出勤をするという「半ドン」がありました。当時は、土曜日の午前勤務後にサークルやクラブ活動をしたり、もちろん社内勉強会も開いたりしていることが多くありました。また、職場の同僚と食事を共にするなど、ともに時間を過ごすことで親睦が深まっていたとされています。
こういった時代背景を鑑みると、新たな学びのインフラを整えることで勉強する時間や習慣が確保されるとも取れると諏訪氏の見解が示されています。

社会人は何をどう学び続けるべきかフォーラムの様子

来場者の声

質問と回答

当日は、来場者同士で講演内容について話し合う場を設けました。各々の職場の環境などに落とし込み、具体的な議論をされる様子も見られ、会場は非常に盛り上げっていたように思われます。
その中で、当日頂いた質問の一部と諏訪氏によるその回答を紹介します。

本人が主体的に学ぼうとする意識が必要とはいうものの、本人にそれに気づいてもらうために、会社としてはどういったアプローチができるか。

諏訪氏から回答

必要性を痛感しなければ動くことができないという状況をどうすればよいか。
もちろん、1on1ミーティングなどで褒めて育てることも良いと思います。
一方で、社内ポイント制度の導入という手法もあります。
例えば、学習に応じてポイントを一定数積み立てると、シフト希望を優先したり、福利厚生を受けられたりするといった制度です。自身の行動を数値として可視化することで、「やろう」という意識が芽生えやすくなります
ただし、この社内ポイント制度においては、長くゆっくりと身につけ続けること、つまり学習癖がつくことが重要ですので、昇給・昇進の条件のような短絡的な目標を設定することは必ずしも有効的でないと思います。

感想・意見

ここでは、来場者の方から頂いた感想や意見の一部を紹介します。

  • 日本と海外では学びの捉え方に違いがあることが理解できた。
  • シニア層へのアプローチの重要性を理解できた。
  • 今回提示されたデータを用いて、自己啓発に繋げたいと思った。
  • 「個人に任せていては学ばない」といったことが印象深かった。
  • 具体案はまだ出せないが、職場で学ぶ風土を作っていきたいと思った。

当日、ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。

諏訪 康雄氏 監修
通信研修「~自律型人材をめざす~人生100年時代の社会人基礎力を磨く」

今後自身が「どう活躍するか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」という3つの視点を押さえ、自らのキャリアを自らの力で切りひらいていける「自律型人材」になることをめざすコースです。

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