【教育担当者座談会】通信研修による学びの風土づくりと これからの人材育成を考える

組織の中に「学びの風土」をつくりたいと願う人事教育担当者の皆さんにとって、通信研修の受講推進や学習を継続させる仕組みづくりは関心の高いテーマでしょう。そこで、これらの取り組みで成果を出している関西のリーディングカンパニー3社のご担当者にお集まりいただき、具体的な施策や人事教育担当者としての思い、人材育成のあるべき姿などを熱く語っていただきました。
なお、この記事は「通信研修総合ガイド2020」に掲載された内容の一部を抜粋し編集したものとなります。

プロフィール

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株式会社栗本鐵工所 人事部 人材開発グループ
周藤 雅美 様

技術職として入社し、研究開発などに携わる。出産・育児休暇を経て復職後は人事部に異動し、新入社員や若手社員の教育研修を担当。今年度からは通信研修に関する業務も担当している。

オムロンエキスパートリンク株式会社 人財開発センタ 人財育成部 教育企画課
井上 明子 様

入社以来、海外勤務者の赴帰任業務やグローバル人事のジョブグレードの導入など、さまざまな人事業務に携わる。現在は人財育成部に所属し、通信研修をはじめとする自己啓発支援策の強化に取り組んでいる。

株式会社神戸屋 総務部 能力開発グループ 主任
中村 駿 様

海老名市にある工場の総務担当として入社し、新卒採用や安全衛生などの業務に携わる。その後、本社に異動。現在は研修の企画や通信研修の事務局などの業務を担当している。

株式会社神戸屋 総務部 能力開発グループ 課長
牧野 江里 様

技術職として入社し、パンの製造に携わる。その後、本社に異動し若手社員の教育を担当。工場での管理業務を経て、現在は能力開発グループの管理職として同社の人材育成全般に関わる。

この記事は、通信研修総合ガイド2020特集ページ「いま、なぜ通信研修なのか」の一部です。
特集全体をご覧になりたい方は、こちらからダウンロードいただけます。

教育体系と通信研修の位置づけ

——皆さんの会社の教育施策では、通信研修をどのような位置づけで活用されていますか。

周藤様当社は今年で110周年を迎える機械メーカーで、水道管や産業機械、建設資材関連製品などを扱っています。社員は単体で1,300名強、札幌から九州まで各地に支社がありますが、工場が在阪中心のため「ずっと大阪に住み続けたい」という技術職の人がたくさん働いています。社風は“コテコテの大阪企業”です(笑)。

当社の教育体系は「階層別研修」と経営人材の育成を目的とした「選抜型研修」、そして「自己啓発支援」の3つが大きな柱になっています。通信研修は「自己啓発支援」に位置づけられており、すべての社員に等しく機会を提供することをモットーに運用しています(図1)。

図1 栗本鐵工所の教育体系図(2019年度)

井上様当社は3つの会社の合併により2018年に設立されたオムロングループの機能会社です。人事・総務・経理の各機能を集約し、ガバナンスの強化によってグループ全体の事業に貢献することをミッションとしています。合併から日が浅いため、ルールの整備などにおいて、まだまだ過渡期と言える状態です。

当社の人財育成では、「高い志を持ち、自らの意思により学び続け、めまぐるしい環境変化に応じて自己変革・成長をし続ける人」を「自律型人財」と定め、その育成のために「人財育成プログラム」と「キャリア開発支援プログラム」を用意しています。「人財育成プログラム」には「階層別研修」「ビジネススキル研修」「機能別研修」のほか、通信教育を含む「自己啓発支援」があります。
中村様当社は大阪に本社を置くパンの製造・販売会社です。今年で創業101年目を迎え、現在はデリカや洋菓子の製造、直営店経営などに幅広く事業を展開しています。正社員は約1,300名、準社員と呼んでいる契約社員まで含めると約7,000名が働いています。

教育体系は自己啓発をベースとしているのが特長です。自己啓発支援は通信研修が中心で、Off-JTの職級別研修にも通信研修が組み込まれているため、当社では通信研修を受講するのは当たり前の習慣になっていると言えます(図2)。
通信研修のコースは外部の教育機関のもののほか、社内で作成しているものもあります。例えば、新入社員が受講する「パン・菓子の科学」や「食品衛生」などのコースは、担当部署の管理職やその部下たちがテキストを作成し、添削もしています。この仕組みは、昭和43年、当時の製造や機械整備の部長が部下に論理的な裏付けを与えたいという目的で、理解度を測るテキストをまとめ教育したことが契機となっています。

図2 神戸屋グループの教育体系図

■通信研修の位置づけ

栗本鐵工所通信研修は「自己啓発支援」として導入。すべての社員に等しく機会を提供することをモットーに運用。
オムロンエキスパートリンク通信研修は「自己啓発支援」に含まれる。「自律型人財」の育成を支援。
神戸屋「自己啓発支援」は通信研修が中心。通信研修を受講する習慣が根付いている。

通信研修の受講率を高めるための取り組み

——通信研修の受講状況と、受講率を高めるための取り組みについてご紹介ください。

周藤様栗本鐵工所では、4月に通信研修の募集用パンフレットを全社員に配布しています。コースのラインアップは、コミュニケーション力や論理的思考力など全従業員に共通して求められるスキル向上を目的とするものから、設計や営業スキルなど職種ごとに異なる専門分野まで、幅広く用意しています。
受講費用は申込時に全額を自己負担してもらい、修了した時点で6割、優秀修了(主に9割以上の点数を取得)の場合は8割を会社が補助しています。補助率は、以前は「修了すれば5割、優秀修了で7割」だったのですが、「できるだけ多くの人に通信研修を受講してもらいたい」という考えのもと、2016年度に見直しました。資格取得時に支給する報奨金の額も同じタイミングで引き上げています。
井上様補助率や報奨額の引き上げで、受講率や修了率に変化はありましたか?
周藤様残念ながら、受講率に大きな変化は見られませんでした。補助率を引き上げたときに、会社としてもっと強くメッセージを打ち出すべきだったと思っています。
近年は、約1,300名の社員のうち400名前後が毎年、通信研修を受講しています。およそ3人に1人が受講していることは一定水準を確保できていると評価していますが、今後は補助率引き上げによる修了率向上の効果が出てくることを期待しています。
中村様通信研修を受講している約400名の内訳には、例えば、「若手が多い」といった傾向はありますか?
周藤様技術系の方の受講率が高いですね。専門的なスキルを身につけたり資格を取得したりするための学習ツールとして多く活用されています。また、階層別研修は若手層や新任管理者層のコースが充実している一方、その他の階層は少し手薄になっています。その手薄になったところを穴埋めするように、通信研修をうまく活用していただいています。
井上様オムロングループの自己啓発支援策は、2016年度までは言葉の意味するとおり「自己学習」の支援を主軸としていました。しかし「自律型人財を育成する」「自ら学ぶ風土を醸成していく」という目的のためには、「自己学習」支援の強化に加え、「相互啓発」の領域まで支援を広げる必要があると考えました。
そこでまず、自己学習の経済的支援を拡大するために「高額外部学習講座受講支援金」を新設しました。さらに「相互啓発」の支援策として、「社内勉強会」を立ち上げた人や「業務時間外研修会」の開催に対しても支援の拡大を図りました(図3)。

図3 オムロングループの自己啓発支援強化の施策


これらの取り組みの結果、2016年度以前は5~6%程度だった通信研修の受講率が2018年度には10%程度に上昇し、「通信研修」「高額外部学習講座受講支援」「社内勉強会支援」「業務時間外研修会」の4つを合わせた受講率では20~25%まで向上させることができました。目標を「グループ約1万2,000名の国内社員のうち4分の1の受講」に置いていたので、一定の成果は上げられたと思っています。今後はさらに高い目標を設定しており、「知ってもらう」ステージから、「使ってもらう」ステージにどう移行させていくか、現在も試行錯誤を繰り返しているところです。
周藤様自己啓発の概念を広げる取り組みが、結果として通信研修の受講率引き上げにつながっているのが面白いですね。
井上様これらの施策を検討する際は、働く人が学習する上での阻害要因を探るために厚生労働省の調査データを確認したり、ベンチマークする企業の教育施策を比較したりしました。調査や施策の実践を通じて感じたのは、社員が「積極的に活用してみたい」と思えるメニューを取り揃えることがポイントだということですね。
牧野様当社は通信研修の受講率が毎年75%前後です。1名あたり1.3コース受講している計算です。これは非常に高い水準だと評価しています。また、人事教育担当者が動かなくても、部署全員で同じコースを受講したり自主的に勉強会を開いたりしていることも多いようです。

当社は経営理念で「社員の能力開発」を謳っているように、能力開発する人を大事にしようという考え方が根付いている会社です。特に3代目の代表は教育にとても力を入れており、「管理者たるもの教育者たれ」という言葉も残しました。「管理職は必ず部下を育てなければならない」というDNAは脈々と受け継がれていると思います。
しかし通信研修は受講率が高い一方、修了率は6割程度と、あまり高いとは言えません。社内アンケートの結果からは、受講開始後の管理職のフォローが弱いという課題が見えています。
井上様神戸屋さんでは、通信研修の受講が人事評価の加点対象になるとお聞きしました。修了しなかった場合はどのような扱いになるのですか?
牧野様修了しなければ人事評価の加点対象にはなりません。また自己啓発受講では4割の補助金が出ますが、未修了の場合は全額自己負担になります。しかしこのような施策だけでは修了率向上にはつながらないようです。労働時間が長い事業所は修了率が低い傾向にあるので、自己啓発推進のためには働き方の改善も必要だと感じています。
周藤様通信研修による自己啓発で働き方改革につながるような学習をしていただければ、一石二鳥かもしれませんね。
牧野様社内アンケートの結果では、時間管理や仕事の進め方など業務の効率化につながるコースは非常に人気があるので、こういったコースの受講を推進するのも一つの方法かもしれません。このほか当社では、モチベーション関連のコースも人気があります。
周藤様栗本鐵工所ではキャリア教育の一環として、集合研修の中でモチベーションコントロールを扱うことが多く、通信研修ではアプローチしていませんでした。モチベーションのテーマも人気のコースなのですね、新たな発見です。
井上様受講者の声は集めていらっしゃいますか?
牧野様アンケートを実施しています。「あなたが部下にオススメしたいコースは何ですか?」と尋ね、結果を募集パンフレットに載せると、名前が挙がったコースの受講者数が伸びるんですよ。

■通信研修の受講率を高めるためのポイント

栗本鐵工所受講費用の自己負担額を軽減。2016年度より、補助額を引き上げ、「修了すれば6割、優秀終了で8割」とした。
オムロンエキスパートリンク経済的支援を拡大。さらに「社内勉強会」を立ち上げた人や「業務時間外研修会」の開催に対して、会社が支援。
神戸屋修了すれば、人事評価の加点対象となり受講費用の4割の補助金を受け取れる仕組み。受講者にアンケートを実施し、人気のあるコースを集計し募集パンフレットに掲載。

これからの人材育成のあり方

——教育担当者として、これからの人材育成はどうあるべきだとお考えでしょうか。

周藤様栗本鐵工所は今年で110周年を迎え、新たに「変わる、稼ぐ」というキーワードを掲げました。現在は人事部として、これを実現するための施策を模索している状態です。一つ言えるのは、オムロングループさんや神戸屋さんの取り組みの中であがった「自律」や「主体」というキーワードが、これからの人材育成では必須だということですね。
現状では、例えば「人事が言うから仕方なくやる」といった主体性の薄さや、「今の現場の状態ではできない」といったネガティブな姿勢が見えることもあります。「みんなで一緒にやっていこう」「やってみればきっと状況は改善する」というような主体性やポジティブな姿勢を社内に根付かせ、否定から肯定へ、過去から未来志向へと目線を上げていくことが必要ではないかと考えています。
井上様オムロングループではダイバーシティを推進しています。女性の活躍をサポートするのはもちろん、障がい者雇用なども積極的に進めており、価値観だけでなく働き方も成長のタイミングも多様です。このような組織では、従来のような入社年次などによる画一的な育成体系では対応できません。組織として「一人ひとりに寄り添った育成体系にシフトしていく」という方針も出しています。すべての社員が働きがいを持って仕事に取り組めるよう、私たちがいま何をすべきかを考える必要性を感じています。
中村様「人生100年時代」と言われる中、今後は働く期間が長くなるだけでなく、自動運転の普及といった大きな環境変化も訪れるでしょう。私は「このような時代にこそ、夢や目標を持つことが大事ではないか」と考えています。
夢や目標を持つというのは、自分が仕事を通じてどのように会社に影響を与えられるのか、社会に対してどう貢献できるのかを常に考えることにほかなりません。ですから社員には、研修を通じ、夢や目標を持って働くことの重要性を伝えています。また、夢や目標を具現化するためには通信研修に代表される自己啓発が必要だと思います。自ら学ばなければ、変化の時代に対応できず、明るい未来も描けないのではないでしょうか。

■これからの人財育成への意識

栗本鐵工所「自律」や「主体性」に重きを置き、ポジティブな姿勢を社内に浸透させる。
オムロンエキスパートリンク多様な価値観や働き方を理解し、個々に寄り添った育成体系を考える。
神戸屋変化する時代だからこそ、夢や目標を持って自己啓発に取り組む重要性を認識する。

この記事は、通信研修総合ガイド2020特集ページ「いま、なぜ通信研修なのか」の一部です。
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