韓国企業と日本企業の差(3) 韓国企業成長の源泉

韓国企業成長の源泉

これからお話しする内容は、約25年前の体験に基づくあくまでも私の私見であることを最初に申し上げておきます。 前回、約25年前に私は韓国企業の躍進を予感し、漠然とした不安を覚えたというお話しをしました。それを具現化したのがサムスン電子です。テレビや半導体といったそれまで日本がお家芸としてきた分野で次々と日本企業を凌駕していったことは記憶に新しいでしょう。
そうした韓国企業躍進の原動力は果たして何だったのでしょうか?私は当時の韓国を覆っていた“熱気”だったと考えています。“漢江の奇跡”と呼ばれる経済成長を成し遂げ自信をつけた韓国にとって、永年の宿敵日本をようやく手の届く範囲に捉え、日本に追い付き追い越せと国中が湧き上がっていたのです。こうした熱さは、企業文化というよりは韓国人全体の気質とも言えるのかもしれませんが、特に目標(ターゲット)やゴールが定められたときの熱さは、よりパワーアップしているのではないかと感じています。
例えば、サッカーなどのスポーツでも対日本戦となると、選手のみならず国をあげて熱狂する光景は報道などを通じて日本でも目にする機会は多いことでしょう。ひとたびターゲットを定めたときの集中力には凄みすら感じさせるものがあります。歴史的な背景も含めて負けたくない相手日本をターゲットとすることで本来以上の熱さを発揮してきたのではないでしょうか。

前回は目標に向かって突き進むバイタリティーと新しいことは何でも吸収しようとする貪欲さ、という表現を使いましたが、とにかく何事にも熱いのが韓国です。例えば議論。口角泡を飛ばすなどと日本でも言いますが、韓国もまさしくその通りで、議論が始まると上司も部下も関係なく意見を戦わせます。しかもそれがとても長くて、日本から来た私を放ったらかして延々と何時間も議論することなどは当たり前でした。
しかし、どれほど大激論を交わしても、終わればお互いにケロッと和やかに談笑している場面を見ることができます。日本人であれば、感情的なしこりが残りそうなものですが、そんなことはなくお互いに言いたいことを言って、すっきりしているのでしょう。

そして何より良いのは、その場で結論が出るので意思決定が速いことです。この意思決定の速さも、韓国企業の大きな強みと言えます。
韓国企業が躍進した要因としてもう一つ外せないのが、「ケンチャナヨ」の精神です。「ケンチャナヨ」とは韓国語で、日本語に訳すと「大丈夫、平気」といった意味になります。文字通り「大丈夫、問題ないよ」という使い方もあるのですが、「まっ、いっか・・・、細かいことは気にしない」というニュアンスで使われるこ

“石橋を叩いても渡らない”と揶揄されることすらある日本企業に対して、思い切った技術的なチャレンジや大胆な設備投資などを通じてどんどん日本企業との差を詰めていく韓国企業の姿を見ていると、経営環境の変化が激しい時代においては、こうした良い意味での大らかさがプラスに作用したことを痛感させられます。


 今こうして考えてみると、高度成長期の日本も同じような熱気と大らかさがあったからこそ、ここまで来られたのではないでしょうか。モーレツ社員がもてはやされ、サービス残業など当たり前の時代は良くも悪くも熱気がありました。でもいまの日本にはそうした熱気も大らかさもありません。そこにはルールや前例に縛られ硬直化した日本企業の姿が見え隠れしています。

 近年、韓国の企業にいっときのような勢いが感じられなくなってしまいました。韓国もまた経済が成長し、社会が成熟する過程で熱気や大らかさを失い、かつての日本企業が通ってきたような硬直化の道を歩んでいるのではないかと思います。そんなところまで日本企業をキャッチアップしなくてもよさそうですが、これからの韓国企業がどのように復活の道を切り開いていくのかを見守り続けたいと思っています。