【SANNOエグゼクティブマガジン】「生産性向上」で成果を得るために確認しておきたいこと ~その「目的」は実際に活動する人たちに正しく理解されていますか?

1.「生産性向上」の目的は理解されているか

筆者は、生産性向上について、次のような場面で触れています。

(1)全社や組織として生産性向上(時に「業務改善」)活動に取り組むためのキックオフ
(2)従来からの改善や効率化活動の“てこ入れ”のためのセッション
(3)公開型のセミナー(業種や事業規模の違いを問わない集合研修);近年は“働き方改革”や
   改善活動の事務局、メンバーとして活動することになってしまったので…といった旨で参
   加いただくケースが多くなっています。

 そして、そのような場で、目指すべき「生産性向上」について図1のように説明しています。
 さして目新しいことを述べているつもりはないのですが、参加者の方々の表情がパッと変わる…そんな経験を無数にしてきました。事後のアンケートに「生産性向上が必要である意味がわかりました」「改善活動の必要性に納得できました」とまで書いていただくことも少なくありません。すなわち、「生産性向上がなぜ必要なのか?」「生産性向上活動の目的」などが説明されていない、あるいは説明があっても理解されていないケースが実に多いということが言えます。

2.「目的の説明」はされていても“浸透”はしていない?

「目的はきちんと説明している」「ウチの社員は説明しなくても理解できている」という企業も多いことでしょう。それでも今一度、みなさんが目指していることが正確に組織全体に伝わっているかを確認していただきたいと思うのです。そう願ってしまうのは、やはり上述のような機会やその後に現場の方々からこんな声が聞こえてくるためです。

・「生産性を向上せよ」「働き方を改革せよ」との指示だけを受けた
・「世間でそういうことになっているからウチでも…・」と経営幹部が言っていた
・ 実際は、人件費を減らしたいだけですよね
・「直属の上司」からは説明や指示を受けていない



いずれも問題なのですが、最近一番気になっているのは4番目です。こうした声を聞く組織では意外にも、経営トップは熱心に折に触れて幹部に働きかけています。さまざまな活動で「成果を得るのはトップの本気度次第」などと言われますが、トップが旗を振っても組織が動かないケースは、コンサルティングやワークショップなどの直接的な経験からも、規模の大小に関わらず多いように感じています。  組織のサイロ化、セクショナリズムなど、『組織の横』の関係が問題として取り沙汰されることは多いですが、上記は『組織の縦』の関係の問題です。トップの考えや想いが“現場に落ちていない”。動脈に目詰まりが生じてしまっているのです。(図2参照)
 「トップが発信していても、直属の上司からは指示がないのでやらない(変えない)」。社会的ルールに反するようなことではないとしても、こうした状況の放置は組織が“重態”に陥ることになりかねません。また、直属の上司が説明していたとしても、「トップが発信しているコトバを“ただ繰り返すだけ”では現場は動けない」ことも、念のため確認しておきたいところです。具体的な行動としての指示、“トップのコトバの翻訳”が必要です。

3.成果獲得に必要なこと(1)行動量の確保

 何事も「活動で成果を得る」には「行動する」ことが不可欠です。高難易度のテーマに挑戦しているために「知識やノウハウが足らない」ということもありますが、実態としては「行動量≒十分な活動時間を確保することができない」というケースが圧倒的に多くなっています。(図3参照)
 「行動の原動力」となるのは目的や必要性の理解度です(図3横軸)。加えて自主的に行動する意欲(図3縦軸)のある人材(図3「1」)が多ければ、結果としての進捗レベルや成果にバラツキがあっても、組織全体での活動は進みやすい…はずなのですが、こうした人材が数としてはそれなりにいたとしても、「周囲に同志がいない」状態である場合、実際に行動を起こすことは容易とは言えません。

 「3」と「4」で共通するのは「またか・・・」とともに、「“実現できるわけがない”(また失敗する)」といった個人の想いや組織に対する不信感すらある場合もあります。戦略や施策が中途半端に終わっても組織として検証されなかったり、「やったヒトだけが損をする」といった経験は、行動を形式的なものに留まらせ、成果獲得への意欲を脆弱にしてしまいます。

 「コスト削減したいだけだろう」「働き方改革って働かせ方改革でしょう」。それが組織の真意でなかったとしても、「自社の社員が理解(納得)できる説明」ができていないと、このような誤解や意欲の停滞を生んでしまいます。

 「3」の「業務効率化に限らず“各種低調”」とした層の中には、「ハイパフォーマー」が含まれている場合があります。残業も少なく、「自分の仕事」に対するコミットメントは非常に強い“高生産性人材”なのですが、組織や周囲に対する貢献には価値や意義を見出せないタイプです。

 実際の活動、具体的な行動を促進するために「1」の集約とともに「2」の戦力化のための環境を整えましょう。「1」に対する権限委譲、「2」の参画を円滑に進めるための教育機会などを設定して「1」への移行を促します。また、「3」や「4」のハイパフォーマーには、なんらかのインセンティブをつければ、“心から”とまではいかなくても、大きな戦力となる可能性は十分にあります。

4.成果獲得に必要なこと(2)“ウチの社員が理解できる”説明

「自社としての生産性向上の目的」をまずは明確にしたいところです。図2は汎用的に示しましたが、個別の企業によって事情はさまざまでしょうし、経営者がどのように位置づけるかは、極端に言えば自由です。活動に着手する前に「自社における生産性向上の目的」「目指す姿(中長期的なビジョン)」を経営層が明確にした上で、「自社の社員が理解(納得)できる説明」をすることを必須と心得てください。

 実は、短期的には「コスト削減」が目的ならばそれを真摯に説明しましょう。「目的のない作業」は苦痛ですが、「よくわからない説明」は疑心暗鬼のもとであり、「目的のない作業」となりかねません。「説明のコトバ選び」を慎重にしながら、わかりやすい丁寧な説明をすることが肝要です。

 一部の人には「明確な説明」「わかりやすい説明」であったとしても、それ以外の人には「???」ということは想像以上に多いということを念頭に置いていただきたいと思います。上の2で述べた“動脈硬化”の一因は、こうした現実にあることが多いものです。

 心配ないとは思いますが、経営陣は「まずは短期的にコストを削減し、その後のことはそれから考える」などと言ってはいけません。

 その上で、「短期的には負荷・コスト増となること、それを組織として許容すること」を経営サイド、総務・人事部門からしっかりと周知することをお願いしたいと思います。「生産性を向上させるためにサービス残業が増えた」では困ります。それでは活動を長続きさせることは難しいでしょうし、おそらく成果らしきものの組織に対するインパクトは、短期的にはともかく、中長期では効果的なものにはならないでしょう。

※参考「長時間労働対策の実務」(労務行政研究所刊2017年11月9日発行)のテーマ解説「時間外労働削減につなげる業務効率化のアプローチ(著者執筆)