【SANNOエグゼクティブマガジン】「働き⽅改⾰」を考察する(後編)

「働き⽅改⾰」の前編では、⼀⼈でも多くの働き⼿を獲得し、少しでも⻑く働いてもらうために、企業はどのような⼯夫が必要となってくるかをまとめたが、後編では、組織の⽣産性を上げるための考え⽅、個⼈としての⽣産性を上げるための考え⽅を⽰したい。

1.組織の⽣産性を上げるための考え⽅

本コラムにおいて、「⽣産性」とは「時間あたりの付加価値を上げる効率」と定義する。本来の⽣産性を考える際には、時間だけでなく、設備や技術情報の投資など様々なインプットに対して、どれだけアウトプットを⽣み出したかを考えたいところだが、働き⽅改⾰のキーワードとして、労働者の就労時間がポイントになっているため、ここでは労働者の時間を焦点とする。

⽣産性を上げるためには、主に4つのパターンが考えられる。
  1. アウトプットが⼀定の仕事の場合は、インプットとなる時間を削る
  2. インプットの時間が⼀定、あるいは多少時間が以前よりかかっても、それ以上にアウトプットの価値を劇的に上げる
  3. インプットとなる時間を削りつつ、アウトプットの価値を上げる
  4. アウトプットの価値が下がっても、それ以上にインプットとなる時間を劇的に少なくする
(2)、(3)のアウトプットの価値をどう引き上げるかであるが、中途半端なアウトプットを出すということではなく、どう劇的なアウトプットを産み出していくかを考える必要がある。

そのための体制作りをしていくための切り⼝として、以下の内容が挙げられる。
  • 組織としてどんな独⾃性や新規性の⾼い、あるいは変⾰的な事業を⾏うのか、あるいはアウトプットを産み出すのかを改めて検討すること(=事業再構築)
  • 事業プロセスごとの強みと弱みを多⾯的に把握し、組織のバリューチェーンの再構築を⾏うこと(=事業プロセス再設計)
  • 組織の将来像を踏まえたうえで、能⼒開発制度の再設計を⾏うこと(将来必要な技術や考え⽅を⾒据えた能⼒開発体制作り)
  • 組織の⼀体感、結束感を⾼め、戦略を腹に落とし、業績向上や能⼒開発に前向きな職場の雰囲気を作ること(=組織⾵⼟の改⾰)
  • 職場の使命や役割を再定義し、活動内容全体を⾒直すこと(=職場マネジメント再設計)
これらの取り組みは、まさに「働き⽅改⾰」を標榜するまでもなく、組織が社会や顧客に貢献し、成⻑と発展を進める経営そのものである。これらの取り組みを経営者がリードし、不断の取り組みとして実践し続けることが組織の⽣産性向上にもつながる。

また、上記の取り組み以外に、⼈事制度の再設計もある。組織の⽣産性向上を阻む要因のひとつにこれまでの⽇本企業の年功序列型賃⾦制度とそれに関連する労働慣習が挙げられる。組織の業績に関係なく、個⼈が⼿にする給与総額を上げる⽅法は、変動給である時間外勤務⼿当(=残業代)を獲得すること(=⻑い時間働くこと)である。これは時に単位時間あたりの⽣産性を上げるインセンティブと逆⾏する効果が想定される。労働時間の⻑さではなく、時間あたりの付加価値の⾼さで給与を決めるなどの賃⾦制度にして、個⼈としての⽣産性を向上させるインセンティブを作ることが求められる。

また、これらの取り組みと並んで、⾮正規社員の戦⼒化も組織の⽣産性向上の重要な要素である。私は、⻑らくマネジメントやスキル研修の講師として⼈材育成に携わっているが、研修場⾯で⾮正規社員にはほとんど出会えなかった。⾮正規社員を即戦⼒として伸ばすには、正規社員同様に研修受講を初めとする学習機会の設計と実⾏が必要である。この動きが⽇本中に広がれば、国全体としても⽣産性が上がるのではないかと考える。

2.個⼈の⽣産性を上げるための考え⽅

今回の働き⽅改⾰の議論の中で、特に⽣産性向上を迫られているのはホワイトカラーである。また、労働⽣産性は製造業よりもサービス業、⼤企業よりも中⼩企業が低いと⼀般的には⾔われている。この現象の原因は⼀体何だろうか。

製造業は⽣み出す成果が⽬に⾒える製品であり、1時間あたりに⽣み出す製品の⽣産量も数値化しやすい。⼀⽅、サービス業は⽣み出した価値がどれだけ⾼いのかがわかりづらい。また、⽬の前に顧客がいなければ、労働者は顧客に奉仕することができないため、⼿待ち時間が多くなる。サービス業における⼿待ち時間の問題は今後の⽣産性向上に向けた⼤きなテーマになるだろう。

⼤企業と中⼩企業の⽣産性の差についてであるが、⼤企業は装備や装置が⾼機能であるため、⼀⼈の操作で同時に多くの難しい作業ができる。⼀⽅、中⼩企業は装備や装置の機能が相対的に限定されている場合があるため、同時に多くの作業は難しい。これらを克服するには、現場で働く⼀⼈ひとりが⾼機能の機械を越える価値を⽣み出す必要がある。機械になくて、⼈間にあるものは創造性や⾼度な⼯夫をする知恵である。AIも⽇々進化しているが、創造性や⾼度な⼯夫を⾃在に発揮する段階までには到達していない。⽇本の働き⼿⼀⼈ひとりが1年以内に今の仕事の10%をより創造的なものにする、より進化したものにする営みを続けていけば、1年に1割の進化が複利的な効果を及ぼし、10年後には2.5倍以上の付加価値向上が⾒込める。

それでは、どのようにして今の仕事の10%をより創造的なものにできるであろうか。例えば、⾃らの業務を50個以上⽂章にして、それぞれを付箋に表現する。50個以上表現できなければ、たとえば「会議の開催」という業務を、「会議の設計」「会議開催の準備」「会議室の予約」など細かい作業に分けてみる。50個以上の業務のおよそ半数を⽬安に、難易度が⾼いものや職場の価値を⾼めることに効果が⾼いものを「本来業務」として付箋を仕分けする。次に、難易度の低いものや職場の価値向上にあまり影響を与えないものを「⾮本来業務」として仕分けする。⾮本来業務に仕分けられたおよそ半数の業務を削減したり、まとめたり、順番を変えるなどの⼯夫をして、⾮本来業務を10%以上削減する。

その⼀⽅で、新しい技術の発⾒につながる業務、新しい市場の開拓、新しい⼯程の創造、新しい事業構築など、これまで取り組んでいない難易度の⾼い業務を付箋に10個程度描き、本来業務に追加する。ここで作成した本来業務と⾮本来業務から⾃らの業務構想の⽬標を付箋を使ってマップにすることで⾃らの業務改⾰イメージを⾼めることができる。

また、現在の仕事において、より難易度の⾼い業務にチャレンジするためには、⾃分の知的能⼒や思考⼒を磨く必要がある。知的能⼒や思考⼒を⾼めるには様々な書籍や先⼈の知恵に触れ、そこで得た考え⽅やスキルを仕事で応⽤し、様々な交渉や作業で成功体験をする必要がある。そのスタートは様々な読書である。

ただ、私には⼤きな懸念がある。それは⽇本全体で進⾏している活字離れである。ここ10年以上、出版不況が続いていると⾔われている。同様に、新聞の発⾏部数も下落している。最近の研修では新聞をどれくらい読んでいるのかを受講⽣に聞いているが、⼿が挙がるのは、1~2割といったところである。

新聞全体を眺めているだけで、頭は⼤いに活性化されてくる。新聞紙上で⾃分が読むつもりもなかったテーマでも⾒出しが⽬に⼊ってくれば少しは関⼼が出て、興味のなかった事柄に興味を持つきっかけにつながる。また、新聞を効率的に読むポイントとして、時間が無いときは、1⾯と社説を読むだけで、その新聞のメインの主張が読み取れる。この2つだけであれば、15分もあれば読めるだろう。また、トピックによっては、新聞ごとに主張や⾒解が異なるので、2紙を⽐較して読むのも⾯⽩い。なお、新聞や書籍はすべて読む必要もない。⾃分の読みたい部分だけ選んで読み、各⾃のスタイルで活字に定期的に触れていただきたい。

以上2回に渡って、⼀⼈でも多くの働き⼿を獲得し、⻑く働いてもらうための組織の⼯夫、組織および個⼈としての⽣産性を上げる考え⽅を紹介してきた。皆さんの職場ではどのような試みがなされているだろうか。組織と個⼈の両⾯からの取り組みを進め、働き⽅改⾰を実現していく企業が増え、⼈⼝減の中でも⽇本全体の活性化が実現されるようになればと期待している。