【SANNOエグゼクティブマガジン】「働き⽅改⾰」を考察する(前編)

2017年3⽉までは、働き⽅改⾰の記事が新聞をにぎわせていたが、政府による⻑時間労働の上限規制がまとまり、働き⽅改⾰実現会議が⼀区切りつくと、とりあげる記事も少なくなった。働き⽅改⾰は⼀過性のものではないのだが、そうなってしまう危険性もあり、ここでもう⼀度働き⽅改⾰を考察してみたい。

1.働き⽅改⾰の背景と実現の可能性

「働き⽅改⾰」のきっかけは、政府が掲げた「⼀億総活躍社会の実現」である。⽇本の⼈⼝は2065年には8800万⼈ほどになり、実に現在の⼈⼝(1億2679万⼈︓2016年11⽉時点)から4000万⼈も減少し、そのうち65歳以上の⾼齢者の占める割合が40%近くになることが予測されている。主な働き⼿となる⽣産年齢⼈⼝は4500万⼈ほどとなってしまう。このような状況が予測される中で、現在の⽣産量を⽣み出すためには、(1)「⼀⼈でも多くの働き⼿を獲得し、働いてもらう」必要が出てくるだろう。また、労働者を増やす策だけでなく、(2)「組織としての⽣産性をあげること」や(3)「⽇本の労働者⼀⼈ひとりの⽣産性を上げる」必要もある。

そこで今回の働き⽅改⾰の考察では、前編として、(1)⼀⼈でも多くの働き⼿を獲得し、働いてもらうために、企業はどのような⼯夫が必要となってくるかを考え、そこに向けた私なりの提⾔をさせていただく。そして後編では、(2)組織としての⽣産性を上げる考え⽅、(3)個⼈としての⽣産性を上げる⽅策を⽰し、各組織の今後の成果を上げるためのヒントを得ていただこうと考えている。

2.働き⼿の確保に向けた攻めの⼿⽴て

(1)「⼀⼈でも多くの働き⼿を獲得し、働いてもらう」ために、企業はどのような⼯夫が必要となってくるかをここでは考えていきたい。

働き⼿の確保

まず、少⼦⾼齢の状況下で、⼀⼈でも多くの働き⼿を獲得する⼿段としては、(1)⾼齢者の就労参加体制づくり、(2)介護や育児に従事している⽅々の就労への参加、(3)病気や怪我などで療養中だが、⼀定の制約の中では働ける⽅々の就労参加、(4)収監中の⽅々の就労参加、(5)外国⼈労働者の招聘、(6)学⽣の学業以外の時間の就労参加、などが考えられる。

この中でも現実的に⼿が打てるのは、⾼齢者の就労参加体制づくりである。そこでまずは⾼齢者の就労参加体制に関する考察をしてみたい。年⾦⽀払いが原則65歳以上になっている現状では、企業の⼀般的な定年年齢の60歳のリタイアはあまりも早い。そこで65歳までの再雇⽤はもちろんのこと、他の企業で活躍した⽅も働いてもらえる仕組みを作ることである。この⽅策において課題になるのは、健康上の問題と新技術をマスターすることへの抵抗感や習熟の遅さなどである。しかし、⾼齢者は⾼い業務意欲を持っていると⾔われている。そのため、⾼度な技術を⾝につける可能性は⾼いと私は考えている。業務意欲、成⻑意欲を持った⾼齢者を選抜し、彼らの技術習得の可能性を最⼤限に⾼める育成システムの確⽴が企業には求められる。

次に介護や育児に従事している⽅々の就労への参加である。これについては、介護ビジネスや保育体制の整備ももちろんだが、介護を抱えている家族のあり⽅や乳幼児を抱えている家族の協⼒体制のあり⽅などに及んでくる。これらに時間をとられてしまう状況を解決するためのキーワードは「安⼼」である。安⼼して介護や育児を任せられる場所が、職場の近くにあることが望ましい。また、核家族化の進展が介護や育児問題を引き起こす原因にもなっている。近くに親や親戚がいない中で安⼼して介護や育児をするためには、地域や企業が⼤家族のように、それらに従事する⽅々を包み込むことが必要であろう。

最後に外国⼈労働者の労働参加である。現在の⽇本では、医療やICTなど⾼度な技術を持つ外国⼈の受け⼊れには⾨⼾を開いているが、それ以外の外国⼈に対しては、⾨⼾を開いているとは⾔えない状況である。EUやアメリカでは、移⺠問題が注⽬されている。このような状況で、労働者確保のために、外国⼈労働者の流⼊制限を緩和してよいものだろうかという考えに及ぶのは⾄極当然のことである。ただ、現実の労働者不⾜だけでなく、少⼦⾼齢状況は⽇に⽇に進んでいく。外国⼈労働者を受け⼊れる体制づくりを本格的に⾏う必要が迫られている中で、その鍵を握るのは、外国⼈に対する就労教育である。すでに⾼度化した技術を持っている外国⼈だけでなく、⾼度化しようとする外国⼈を⽂化や⾔葉の壁を乗り越えて、⼀⼈でも多く呼び込み、コストをかけず短期間で育て、⻑く⽇本にいてもらうさまざまなアイデアが求められるだろう。

働き⼿に⻑く働いてもらうには

企業側からすると優秀な働き⼿にはできるだけ⻑い期間労働してもらい、様々な成果を⽣み出してもらいたいと考えるのだが、この発想が⾏き過ぎると⻑時間労働を誘発することになる。働き⽅改⾰の⼀環で年間残業時間は720時間が上限となった今、⻑時間の残業はできなくなっていくだろう。

そこで求められるのは働き時間のシェアとなる。改正労働基準法では、ある部署で⼀⼈の優秀な働き⼿がある⽉に1⽇平均13時間労働することになったら、その部署だけでなく、その企業全体が罰則を受けるはめになる。そのため、わずかな⼈に労働時間が偏る体制を改め、⼀⼈ひとりの労働時間の平準化がこれまで以上に求められる。業務配分をするのは、管理者の仕事であるが、管理者はそれぞれの平均予想残業時間を1⽇あたり2時間以内に設定していく必要がある。

そのためには、メンバーの中で特定のエースを作ることから、複数のエースを抱える体制にしていくことが求められ、職場内の中堅社員以上の教育の重要性がますます⾼まっていく。このような観点から⾒て、管理者の業務設計能⼒、すなわちマネジメント能⼒の向上がますます求められる。

3.働き⼿確保に向けた守りの⼿⽴て

働き⼿が確保できたら、その働き⼿が突然いなくなるリスクを避ける必要がある。働き⼿が突然いなくなるリスクとして、(1)働き⼿の健康問題、(2)働き⼿の家族の健康問題、(3)働き⼿都合の離職の問題が挙がってくる。組織として、上記3つへの対策を打つことが、働き⼿確保に向けた守りの⼿⽴てであるが、それぞれの主な原因を探り、解消策を⾒ていきたい。

まず、(1)の働き⼿の健康問題であるが、企業が労働者の健康を著しく悪くさせてしまう原因は、⻑時間労働に尽きる。過度な労働は、⻑続きしない職場を作ってしまうことを肝に銘じて、⼤切な顧客相⼿の要望でも無理なものは無理ということをしっかり顧客に告げて交渉し、⻑い期間働き続けられる職場作りが必要である。(2)の働き⼿の家族の健康問題であるが、これは企業では防ぎきれない問題でもある。ただ、企業側の福利厚⽣のメニューとして、介護補助を⼿厚くすることや、職場ぐるみで介護を抱えた社員を受容する体制を作って、突然の離脱を思いとどまらせることはできる。介護の問題は、職場の⽣産性向上の問題と考え、職場全体で考えていく必要がある。

最後に、(3)働き⼿都合の離職の問題である。私は研修を通じて⻑年さまざまな管理者の指導をしてきているが、働き⼿が次々と辞めていく職場はある特徴をもっているような気がしている。それは、その組織に⻑くいることのメリットが感じられない職場⾵⼟、その職場にいることに耐えられない⾵⼟が関係してくる。

その組織に⻑くいることで希望が得られる職場とは、そこで⻑く働いている⽅々が⽣き⽣きとしており、⾃分の⽬標を持ち、前向きに業務をとらえ、⽣きがいを持っている職場である。そのためには、管理者が希望にあふれ、建設的な観点でその職場の3年〜5年先の職場ビジョンを持っている必要がある。働き⽅改⾰を実現するためにも、管理者は建設的な⾃職場ビジョンを早急に作る準備にとりかかってほしい。

また、その職場にいることに耐えられない⾵⼟としては、職場内のハラスメント(嫌がらせ)チェックが必要である。残念ながら、ハラスメントを⾏っている当事者は⾃分がハラスメントを⾏っている⾃覚は全く無いことが多い。むしろ、職場の雰囲気向上のための熱⼼な指導やスキンシップ、職場を明るくするユーモアと考えている。ここでは当事者たちにハラスメントであることを気づかせるような教育も必要であり、どこまでが指導であり、どこからがハラスメントとして受け⽌められるかのガイドラインを知っておくことで職場のリスクを回避できる。

ここまで(1)「⼀⼈でも多くの働き⼿を獲得し、⻑く働いてもらう」ために、企業はどのような⼯夫が必要となってくるかを考えてきた。次回は、働き⽅改⾰の本丸とも⾔える、(2)組織としての⽣産性を上げる考え⽅、(3)個⼈としての⽣産性を上げる⽅策を⽰したい。⽣産性を上げる考え⽅は100⼈いれば、100通りの考え⽅があると思われるが、次回の案を通じて、職場の⽣産性を上げるためのアイデアを想像するきっかけにしていただければと考えている。