【SANNOエグゼクティブマガジン】目標による管理・人事評価制度を定着化させる運用ノウハウ抽出・共有化アプローチ「育成フィードバック4つの着眼点」

前回に続き、目標による管理・人事評価制度を定着化させる運用ノウハウ抽出・共有化アプローチの3つ目として、「育成フィードバック4つの着眼点」を紹介いたします。

1.自社の都合で異なる評価のフィードバック事情

 理想とする評価のフィードバックを人事担当者に尋ねると、返ってくる答えはどの企業も同じです。「少なくとも評価点は、きちんと伝えることである」。これに集約されます。ところが現実の運用は、理想とかけ離れています。自社の人事評価ルール、管理職のマネジメント力等が理想とするフィードバックに影響を及ぼすからです。「うちの管理職の指導力では、フィードバックは無理ではないか。評価点に納得できない部下に反論されたら、納得してもらえる説明ができるのか疑問だ」「そもそも、うちの評価ルールでは、一次評価者が評価調整前に評価点を伝えるのは誤解を招く。評価点のフィードバックはやるべきではない」と評価点をあえて伝えない企業もあります。一方で「組合アンケートでは、評価点とその評価根拠を伝えてほしい者が95%を超えている。それに応えなければ︕」ときちんと伝える企業もあります。このように、自社の都合で評価のフィードバックの実情は異なるのです。

2.どの企業でもできる育成フィードバック

(1)評価点の善し悪しにかかわらず部下の育成に役立つ
各社の事情はさておき、評価点を伝えなくても、どの企業でもできる評価のフィードバックがあります。「育成フィードバック」です。育成フィードバックとは、評価根拠をもとに評価結果を伝えることにとどまらず、部下の育成に向けて方向づけることです。評価がよい部下には、次の成長に向けて能力アップの課題、つまり強みを伸ばす能力課題を示します。また評価が低い部下には、その弱みとなる行動を改善する補強課題、つまり弱みを克服する能力課題で方向づけます。さらに、能力を鍛える方法を示し、上司が支援してくれれば、評価が低くても、部下のモチベーションは高まり希望を持って取り組める効果が期待できます。

(2)管理者は評価の低い部下へのフィードバックにためらいもなくなる
 育成フィードバックの効果はもう一つあります。評価の低い部下に「評価が低いと感じ、恨まれないか」と面接をためらう管理職でも、次期に向け復活の機会を与えられる育成フィードバックなら誰でもできるのです。評価面談を実施していないD社では、育成面談と称した場で、今期を振り返った上で、次期に向けた育成フィードバック面接法を採用しました。評価点は伝えません。会社は、その効果を「評価点を伝える代わりに、部下の育成を方向づけるので、管理職は、面談の精神的な負担を軽減できる。部下も、自分の能力発揮状況の振り返りと今後の能力開発の取り組みを上司と話し合うことで納得性が高まったのでは」と分析しています。

3.4つの項目で育成フィードバックを進める

 次に、育成フィードバックを進めるポイントを説明いたします。今期の目標達成度や働きぶりを振り返ったら、「重点能力課題」「能力開発方法」「上司の支援」「動機づけの言葉」をフィードバックします。この4つのキーワードを伝えるために、以下のポイントを抑えてください。

(1)重点能力課題
 部下は、自分の強みや弱みに薄々気づいていますが、いずれを優先し取り組むべきか順位づけができないことがあります。強みを伸ばす課題と弱みを補強する課題のどちらにしようか迷うこともあるのです。そこで、管理職が広い視野から優先すべき重点能力課題に気づかせるのです。

(2)能力開発方法
 鍛えるべき能力に気づけても、習得できるかは別です。管理職は自身の経験や自社の教育体系から、部下の能力向上に役立つセミナー・研修、学習する場所と時間帯を選べる通信教育、ネットで学べるeラーニング等、幅広く能力開発方法を助言してあげましょう。

(3)上司の指導・支援
 部下は、主体的に能力を習得していくのが理想です。しかし発展途上にある部下には、管理職の指導・支援が必要です。その方法には、同行や面談等マンツーマンで進める個別指導・支援、勉強会や会議での検討会など、組織のメンバーと進める集団指導・支援があります。個別指導・支援を基本に、集団指導・支援を取り入れた上司のサポートをお勧めします。

(4)動機づけの言葉
 締めくくりの「決まり文句」です。励まし、動機づけてあげましょう。

 以上、育成フィードバックのポイントをご理解いただけたところで、下表のコメント例で育成フィードバックをイメージしましょう。

営業所長が営業担当者に対する「育成フィードバック」イメージ

育成フィードバック 4つのキーワード コメント例
重点能力課題 今期を振り返り、来期の重点能力課題として、提案力を強化してください。
能力開発方法 体験学習で提案の仕方・ポイントを学べるよう「2日間の提案力向上研修」に参加してはどうでしょう。参加予算を取ります。
上司の指導・支援 来期は、年間を通して提案に際して、提案書の作り方をアドバイスします。同行し、提案の仕方をいっしょに考えていきましょう。
動機づけ あなたなら大丈夫です。いっしょにがんばっていきましょう。

4.対話を通じて納得性を高めていく

 以上紹介したものは、上司の思いに基づくフィードバック内容ですが、この内容を部下が納得するかは保証できません。そこで忘れず進めてほしいのが部下との対話です。フィードバックの節目に「この重点能力課題について君はどう考える?」、フィードバックの最後にも、「・・・ということだが、君はどう思う?」と尋ねてください。「私は提案力より問題解決スキルを学びたい」「自分の都合のよい時に学べる通信教育を受講したい」と自分の意向を伝える部下もいるでしょう。上司と部下の重点能力課題の優先順位は異なることもあります。そのあたりを話し合い、部下が納得できるよう導いていきましょう。