【SANNOエグゼクティブマガジン】管理職インタビューによる運用ノウハウの見える化とノウハウ例紹介「部下を鍛え評価に役立てる問いかけマネジメント」

前回に続き、目標による管理・人事評価制度を定着化させる運用ノウハウ抽出・共有化アプローチの2つ目として、管理職インタビューを通じた運用ノウハウの見える化と、その一例として「部下を鍛え評価に役立てる問いかけマネジメント」を紹介いたします。この運用ノウハウは、筆者が管理職インタビューによって見出したものです。2つのケースを紹介します。

ケース1. 発電所での問いかけマネジメント

東日本大震災(3.11)で、国民の関心が高まったのが発電所です。電力をコントロールする場所は、制御所と呼ばれ、計器盤に囲まれた部屋で数名の運転員がモニター画面を見ながら監視し、電力が安定供給できるよう24時間交代勤務で働いています。雷や台風等の有事の時には、機器が故障し停電しないよう、運転員は、神経を集中して状況を分析し、適切に対処しているのです。「有事対応」と呼ぶそうです。この時に運転員の能力が試され、また鍛えられるのです。
とはいえ、頻繁に有事が発生するわけではありません。また有事になっても、交代勤務ゆえ、全員が経験できるわけではないのです。このため、「有事対応に遭遇した社員の働きぶりは目立ち評価しやすいが、平常時(事故もトラブルも起きない時)は計画や指令に基づき操作運転するだけなので、社員の働きぶりに差がつきにくい。どう評価に反映したらよいか」と悩む制御所の管理職もいます。
この悩みを解消し、「この人のもとで働くと成長が早い」と評判なのが運転グループリーダーのDさんです。本人から、制御所の中で、指導ノウハウを聞かせていただきました。「私たちの職場は厳格に定められた運転マニュアルに基づき機器を操作しています。有事でないとできない操作があるのも事実です。ですから、何もない平時に、有事になったらどうするのか、部下に考えさせるのです」。そして、Dさんは、器盤を凝視している部下を見ながら、考えさせる方法を教えてくれました。「あのとおり、今は何も起きていないので、運転員はモニター画面を監視しているだけです。そこで私は『○○の温度が上がったら君はどうする︖』等、毎日一度は、全員に質問します。部下は、突然の質問に、その場で右か左か判断を迫られ、今まで蓄積してきた知見が試されるのです」。

図表1.発電所のコミュニケーション&マネジメント活動体系表

普段からDさんは、有事の際の判断に関する様々な質問を投げかけ、運転員の回答をパソコンに入力しているそうです。彼らの能力状況を記録し、評価にも役立てているのです。日常の中で、問いを投げかけ回答させる問答形式の指導法のおかげで、運転員は、自問自答したり、疑問に対して自分の見解を持って質問するようになったそうです。上司の問いかけが部下を鍛え、評価に役立てている好例です。

ケース2. 営業所での問いかけマネジメント

次のケースは、石油貯蔵設備を管理し、タンクローリーに石油を供給する営業所です。危険物を扱うため、安全第一がマネジメントの中心です。
ここでも、ケース1で紹介したような問いかけマネジメントで、部下を鍛え、評価に役立てています。所長のSさんは、赴任されて一年が経とうとしています。
「20歳代が半分を占めるほど若手中心の職場なので、育成に力を入れてほしい。それが前任の所長からの申し送り事項でした。うちのような安全管理に厳しい所は、統率型のトップダウン型のマネジメントが主流です。おのずと、若手社員が指示待ちになりがちです。主体的にものを考え、取り組む社員に鍛えることが若手育成の最重要課題なのです」。
どのようなことを始めたのかと尋ねたら、月例会議で3つのことを心がけているそうです。
「毎月、安全衛生委員会が開かれます。その席で、3つのことを心がけています。1つ目は、『主任のリーダーシップ力を鍛え、責任意識を自覚させるため、業務連絡等の報告を任せている』ことです。また、若手に議事進行を任せています。
2つ目は、『安全委員の担当者(若手)2人のまとめる力を鍛えるため、議事録を担当させる。まとめた後、所長が添削し、皆に回覧し、確認後、本社に送付する』ようにしています。最後は、『全員の問題解決力を高めるため、ランダムに質問を投げかけ回答させています。こういう事象があった。あなたならどうする︖』といった具合です」。
Sさんがねらいとしたのは、回答の適切さよりも、とっさに自分で判断・決断し、回答する経験を積ませることなのです。これは、問題に直面した時の問題解決の疑似体験そのものです。さらに、これらのやりとりを議事録に記しておくそうです。これを振り返ることで、部下は、判断・決断の現状と改善点に気づき、一年間での成長度も確かめることができます。Sさんにとっては、評価根拠となる事実の証となります。まさに、問いかけマネジメントが部下を鍛え、評価にも役立てるのです。

図表2.営業所のコミュニケーション&マネジメント活動体系表

管理職インタビューを通じて、自社の運用ノウハウを「手がかり集」にまとめ、見える化しよう

運用ノウハウのひとつとして、今回は、「部下を鍛え評価に役立てる問いかけマネジメント」を紹介しましたが、これらの運用ノウハウは、どの企業の管理職の活動の中にあります。懸命にとり組む管理職を数名選び、インタビューで、その運用ノウハウを聞き出し、見える化することができます。また、運用ノウハウは、前述したマネジメント活動体系表だけではありません。以下、実際に作成したノウハウ集の目次とまとめの一例を紹介します(図表3)。運用ノウハウ集には、管理職のマネジメント活動だけでなく、人事評価の活動もまとめます。

図表3.管理職のコミュニケーション&マネジメント活動と行動評価の手がかり集(目次)

1.把握できたマネジメント(評価、人材育成を含む)の運用の工夫やノウハウの特徴
2.行動評価項目の特性・目のつけ所
3.管理職のコミュニケーション&マネジメント活動体系表
4.評価項目の事実例と“評価の証”のサンプル
1.は、インタビューにご協力いただいた管理職の方もしくは部署での特徴的なマネジメント上の工夫やノウハウをまとめています。前述した「部下を鍛え評価に役立てる問いかけマネジメント」は、まさにその一例です。
2.は、その企業の人事評価制度の評価項目の特性や評価する際の目の付け所のサンプルを抽出します。たとえば、「協調性は、部下本人でないと判明しにくい」というのが評価項目の特性です。この特性に対し、目のつけ所(運用の工夫)は、「月例ミーティングで、部下に相互協力で取り組んだことを発表してもらい働きぶりを把握する」等です。
3.は、前述の図表1、2の通りです。
4.は、評価項目ごとに該当する事実例と“評価の証”となるサンプルを抽出します。評価の証とは、働きぶりや成果の事実の裏づけとなるものです一例をあげてみましょう。専門性という評価項目に関し「お客様の問い合わせに即座に回答し納得を得ている」というのが事実例であり、「上司の立会い・観察」が評価の証となります。これらを整理しノウハウ集にまとめておくのです。これを活用すれば、新任の評価者でも、未知・未体験の評価に対する不安は和らぎます。
また、自社の運用ノウハウの見える化は、現場になかなか行く機会がもてない人事の方にとっては貴重な資料となり、自社の財産となるものです。

管理職インタビューに関心のある方は、本学までお気軽にお問い合わせください(e-mail: keiei@hj.sanno.ac.jp)。