日本企業は真のグローバル企業になれるか。なるべきか。 ― "真のグローバル企業"の姿 ­―【第3回】

個人に必要な資質は「対話(ダイアローグ)力」

グローバル組織の中で立ち回ることができるコミュニケーションセンスとはいかなる要件なのか、多国籍な組織の中で後輩コンサルタントを育ててきた私の経験から、私見を述べさせていただきます。国内で提供されているグローバル人材開発のプログラムでは、いまだに世界で戦えるタフな交渉術やディベート技術が重視されているように思います。
これは、1980年代にTVCFで一世風靡した「24時間戦える国際人」の資質から進歩していません。私自身はビジネスでディベートを必要とした経験はありません。ディベートは法律家や政治家のように「相手を論破し白黒を決めること」を使命とする職種では重要な資質です。しかし、グローバルビジネスの現場では、お互いの異なる価値観を尊重し、相手の主張を理解しながらも自らの考え方を凛として述べる、そうした協働の中から現実的な落としどころを見つけ出す「対話(ダイアローグ)力」が最も重要な資質です。
なぜならば、グローバルビジネスとは、一国の利益のためではなく、すべての仕事は「地球規模で、よりよい世界を実現するために新しい価値を創発し世の中に提案する」という大志を共通のプラットフォームとしているからです。
残念ながら、対話力は容易に身につきません。価値観が同質な日本人だけのコミュニティにおける対話は、ハイコンテキスト(聞き手への依存が大きく文脈があ いまい)でも「察する」「空気を読む」センスで成り立ちますが、多国籍なスタッフによるチーム内の対話は逆にローコンテキスト(話し手の明確な文脈がな いと成立しない)ですので、自分の考えを論理的に、シンプルに、例を挙げて明示的に伝える必要があります。
さらに、相手の反応(フィードバック)を捉えながら相手の意見も尊重しつつ共通のゴールを目指していく。これを「ハッピーダイアローグ」と呼んでいますが、言語、文化など生い立ちが異なるメンバーたちの価値観(何を優先するのか)とその背景を理解することが何より必要になってきます。
同質社会の中で育った日本人には結構高いハードルで、私はこれを克服するために、海外の人文社会学など様々な文献を読んで異文化理解に努めました。
はじめは、チームの中で自身の考えを表現できないことに苦慮しましたが、あきらめないタフな心、自ら異質な海外文化に飛び込んでいく勇気を忘れず、とにもかくにも「対話」を続けました。そして、いつのころからか対話が楽しみに変わりました。 それは、「価値観が異なるからこそ対話が面白い。異質な価値観の中だからこそ、世界に通用する新しいアイディアが生み出される。」ということを実感できたからです。

皆さんも、まずは自身のグローバル化について考え、勇気を出して世界に飛び出してください。それが、あなたにとってグローバル社会に貢献できるキャリアのスタートとなります。

次回は、「グローバル市場は実存しない」というアンチテーゼからエッセイをさらに進めていきたいと思います。

産業能率大学 経営学部 教授 小々馬 敦