【SANNOエグゼクティブマガジン】お客様の感動を感じられる旅館づくり~最近の傾向・ご支援から見えること

逆風にさらされている「旅館業」

筆者は、長年サービス業のコンサルタントを経験してきましたが、そのうちホテル・旅館業のお手伝いを長くしてまいりました。前職においても、ホテルチェーンの取締役をしながら様々な問題・課題に直面してきました。

ホテル・旅館業、特に旅館は“家業”といわれ、代々経営を継承しながら運営を続けてきました。しかし、バブル期の過大投資に対する返済が不能になり、倒産に至った施設を、ここ数年多く見てきました。
図表3「ホテル・旅館の施設数推移」からわかるように、2000年以降、ホテルは若干増加していますが、旅館の施設数は毎年減少しており、2011年には2000年と比較して約29%も減少しています。

そして、倒産した旅館は、外資系ファンド企業に買収され、旅館チェーンに運営を任された施設や、場合によっては引き取り手がなく、そのまま廃墟になっている施設もあり、観光地にとっては大きな問題となっています。

旅館業が直面する問題・課題

このように、逆風の旅館業界ですが、本学において2009年に北海道、関東、甲信越地区のホテル、旅館に対して経営実態についてのアンケート調査を行い、100軒近い旅館経営者から回答をいただきました。その集計結果は、図表4のとおりです。
この結果から、以下の課題が読み取れます。
  • お客様の声は従業員と共有しているが、さらに競合の商品状況を把握し、経営情報として活用し、経営施策につなげていく必要性がある
  • 経営理念の浸透については、実現するための計画策定を行っていく必要がある。またビジョンの策定、浸透も急務である
  • 長年家業が発展した組織のため、全体的にマネジメント運営の意識が低く、そのためには全員参加型の体制が必要である
このような課題山積な業界ですが、その中でこれらを克服した成功事例として、全社員一丸となって改善活動に取り組んだ下記の施設をご紹介いたします。

成功事例 「癒楽の宿 清風苑」

施設プロフィール

長野県 昼神温泉 「癒楽の宿 清風苑」 
伊壷弘一社長

 信州南アルプスと天竜川の伊那谷の四季豊かな自然に恵まれた地にある「癒楽の宿」清風苑は癒しと健康を追求する宿です。その名の通り心と体をリラックスさせるおもてなしの施設を充実させ、県下有数の良質な硫黄泉の温泉施設はもとより、西日本初、そしてホテル初の施設である砂塩風呂を開設し、今までにないリラクゼーション体験を提供しています。
経営者は、従業員がシフトで動く中、従業員間のコミュニケーション、特に職場を超えたコミュニケーションについて悩みを抱えていらっしゃいました。

そこで3回の研修を実施し、1会合目において「お客様に満足していただくには︖」という意識を他業界の成功事例から学び、グループワークで、満足していただくために解消すべき自館の弱みを把握しました。その中で共通の弱みとして「朝食バイキング」が挙げられ、これを板場だけでなく、すべての部署で役割分担し、改善する目標をスタッフの皆さんで決めていただきました。

このような集合研修は初めてであり、当初は慣れない部分もありましたが、部署を超えたグループワークを実施したことで、普段会わないメンバー間でも会話が増え、ワーク中も積極的に発言し、研修に前向きに取り組む姿勢が見られました。また、自ら「朝食改善」というテーマを設定し、全員参加で決めたコンセプトである地産地消を採り入れた健康バイキングを実現し、お客様からも「朝食変わったね、いいね」というお声をいただくなど、実際に成果が見えたことも、プラスに働いたようです。朝食の改善を終えた今、さらなる朝食のブラッシュアップと、自館の強みをアピールすべく、スタッフ自らが主体的に、 「観光案内」「四季だより」等の手作りガイドブックを作成し全客室に配置するなど、さらに高い顧客満足を追求する活動に取り組んでいます。

自己効力感を高める工夫を

旅館業だけでなく、サービス業は毎日同じ作業の繰り返しです。その中でいかにやる気(モチベーション)を上げるかが、管理職、経営陣には求められます。上記の事例にあったように、スタッフ自身が実施した提案がお客様に支持され、その行動力の根底に「自分はやればできる。やったことが仲間やお客様の満足につながっている」というような自己効力感を高め、意欲的になれるような工夫が必要です。

お客様の感動を感じられる旅館づくりには、経営陣にそのための働きかけが求められるのです。