今、求められるプロデユース思考力とは

執筆者プロフィール

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所 主席研究員
松尾 泰

※筆者は主に、管理会計・中長期経営計画(事業計画)作成支援研修、業務改善による生産性向上指導等を実施。
※所属・肩書は掲載当時のものです

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松尾 泰

1.「プロデュース思考力」とは

国内市場が縮小する中で、ここ数年多くの日本企業においては、現状のビジネスモデルを社会の変化を予測して大幅に変えることなく、市場を変えることに注力して生き残り戦略を立てていたのではないでしょうか。

しかし、コロナウイルス感染拡大という想定外の出来事は、人々が世界中を動き回れなくなるだけではなく、対面でのコミュニケーションを取ることもできなくなってしまい、必然的にビジネスモデルを変えなければならない状況を否応なく作り出しました。

現実には短期的にビジネスモデルを変えるということはなかなかできず苦しんでいる企業が大半です。一方で、このような状況下においてもテレワーク時代が到来すると予測していた企業はうまく対応して成功しています。

ここで言いたいのは、新しいビジネスモデルに変えるべきであるということではありません。
下記のような割合で考えることが必要だということです。

  • 仕事時間の70%:既存のビジネスをしっかりと考える(アカウンティング思考)
  • 仕事時間の30%:新しい社会を創造しそれに対して自社にできる事業を考える(ファイナンス思考)

当然この割合は、社長と新入社員では違ってきますので組織全体でこの割合を目指してほしいと思っています。

本学では「短期的な成果を出すことを意識しつつ(アカウンティング思考)、長期的視点であるべき姿を描き、現状集めることができる情報を可能な限りすべて集め、最適な資源配分を行う(ファイナンス思考)」ことをプロデュース思考力と定義します。この定義は「アカウンティング思考」と「ファイナンス思考」を融合させてできあがったものになります(図1)。

図1.プロデュース思考力

2.アカウンティング思考とファイナンス思考

「アカウンティング思考」と「ファイナンス思考」について具体的な事例をあげていきます。

図2のA社とB社ではどちらの企業を評価しますか?当然A社はB社に対して半分の費用で同じ売上高を出していますのでA社を評価するという方が多いと思います。このように評価することを「アカウンティング思考」といいます。

図2.A社とB社の比較

では、図3をご覧ください。現状においては、A社を評価するという方が多いと思います。では3年後はいかがでしょうか?B社が良いと考える方が多いのではないでしょうか。B社は現状では費用をたくさんかけていますが、この費用が投資となって3年後に売上高につながったと考えることができます。

これは研修費用で考えるとわかりやすいと思います。例えばコミュニケーション研修を行ったとしても短期的には売上高に結びつきにくいかもしれませんが、長期的にみるとコミュニケーションスキルが徐々に身につき、営業スキルが向上し売上に結びつくことがあります。このように評価することを「ファイナンス思考」といいます。

図3.A社とB社の「現状」と「3年後」の比較

3.プロデュース思考力はなぜ必要なのか

一般的な管理職の方は売上高と費用を統制し、短期的な利益を最大化します。この時には「アカウンティング思考」が必要になります。それに対して投資家は、長期的に企業価値向上が期待できる事業案に投資を行います。この時には「ファイナンス思考」が必要になります。

ここで伝えたいのは、どちらか一方が重要なのではなく、2つの思考を融合させること、つまり「プロデュース思考力」を持って仕事に取り組むことが求められるということです。

管理職の方が、「ファイナンス思考」だけで仕事を行ってしまうと既存の事業や目の前の仕事をおろそかにしてしまう危険性があります。また、「アカウンティング思考」だけでは不確実性が高い現在において、長期的な視点で自社のビジネスモデルを変化する経営環境に合わせることができなくなります。

4.ゆでガエル状態を打破するために

皆さんの会社のビジネスモデルは今後10年間変化しませんか?変化しないと考えているのであれば、この思考力は必要ないかもしれません。しかし、大きく変わる、多少変化すると考えているのであれば「プロデュース思考力」を持った人材を増やす必要があります。

本学ではさまざま業種、業界の企業さま向けに研修やコンサルティングを行わせていただいておりますが、90%以上を「アカウンティング思考」で、10%弱が「ファイナンス思考」という企業が多いように思います。我々は、この状況を「70%アカウンティング思考」、「30%ファイナンス思考」の組織に変化させたいという思いがあります。

では具体的に何を行えばよいのか?ということですが、本学が支援させていただいている、世界遺産のある地域で観光事業を行っている企業さまの例を最後にご紹介させていただきます。

観光事業の企業さまの事例

その会社の社長は、今はインバウンド需要によりたくさんの外国人の方が世界遺産を見るために訪れていますが、インバウンド需要がなくなればどうなるかという不安を常に持っていました。しかし、社員にその意識はなく、「プロデュース思考力」を持たせたいということで支援させていただきました。

研修スタート時には、世界遺産があるから大丈夫という思いが強く、参加者に危機意識は全くありませんでした。そこで25年後の社会環境を予測し、その環境に対して自社は今後何を行うべきかを検討していった結果、自分の子供に入社してもらいたい会社を作りたいという思いに変化した受講者の方がいらっしゃいました。

その研修後コロナウイルスの感染が拡大し、インバウンド需要が一気になくなりました。大変な状況下ではありますが、社員は不安がることなく、想定の範囲内ということで自社の25年後のあるべき姿を意識しつつ前向きに仕事に取り組んでコロナ危機を脱しようとしています。

環境変化や経済危機に気づいていながら、なんとかなると楽観しているうちに重大な状況に陥る“ゆでガエル”状態を打破する方策の一つとして「プロデュース思考力」を身につけ、活用していただきたいと思います。

<参考文献>

  • 『会計思考力』(2012) 産業能率大学出版部 (著)松尾泰
  • 『ファイナンス思考』(2018)ダイヤモンド社 (著)朝倉祐介

<筆者の最新著書>