タフなマネジャーをつくる3つのマインドセット
はじめに
本稿では、職場の活力と成果を継続的にもたらすタフなマネジャーをつくる3つのマインドセットについて考察します。 マインドセットとは、その人がもつ思考・行動の枠組みやパターンのことで価値観や信念も含まれます。タフなマネジャーのマインドセットは、以下の3つからなっています。
- 平常心を保つ:自分軸
- 不完全さを認める:他人軸
- ネガポジを使い分ける:仕事軸
1.平常心を保つ:自分軸
平常心とは、喜怒哀楽、どの感情にもとらわれていない状態です。ベテラン俳優は、役柄への感情移入が過ぎると演技が“クドク” なるので、冷静さを保ったうえで役柄に思いを寄せると言います。平常心でないと、マインドのコンディションをうまく保てず、周りが見えなくなってしまうからです。興奮したり落ち込んだりしても、自分の気持ちを平常に戻し、自分軸をニュートラルに保つことが、物事を見たり考えたりする上で、最も良い状態なのです。平常心を保つために、大きく伸びをする、鏡に自分の顔を映す、机の中を整理整頓する等、自分なりの「整心法」をもっておくと良いでしょう。
マインドを平常に保つことができるようになると、自分の周りで起きているミクロ・マクロの変化を感じ取り、その意味を考えることができるようになります。感じ取る力は、観察力、洞察力と言い換えることができます。観察力は、今起きている物事の判断を、洞察力は、この先の未来について深く考える基になる力です。先行きが見えない時ほど、マネジャーには、人から何かを教わるのではなく、答えのない問いに挑み続け、向かうべき方向を「自ら決める」姿勢が欠かせません。
2.不完全さを認める:他人軸
人を動かすことの本質は、周りの人たちから「あの人と一緒に仕事をしたい」と思われることです。そう思われるためには、自分が周囲の人たちを応援できることが前提になります。
しかし、マネジャーになってもプレーヤーの仕事ばかりしていては、人の応援はできません。マネジャー自身がそうであるように、大抵のメンバーは完全ではないので、同じパフォーマンスを持続することは容易ではないのです。当然、動機も様々ですし、成長スピードも違います。特に、主体性や役割意識といった精神面での成長は時間がかかり、置かれている状況にも依存します。
マネジャーとして心得なくてはいけないのは、お互いが不完全であるという事実を認め受け入れることです。そこが支援のスタートになります。人の不完全さにレッテルを貼ったり、とがめたりすることなく、成長したいと望んでいることを信頼し、その望みを満たすための努力を応援することです。この姿勢は、他部署や正規社員以外の人たちに対しても必要です。
3.ネガポジを使い分ける:仕事軸
未来は不確実性が高く、正確に予測することはできません。精緻な計画を立てその通りに進めようとするほど、変化への対応力を弱めてしまう可能性があります。
計画に狂いが生じたときの複数のシナリオを準備しておくことが、将来のリスクに備えることにもつながります。シナリオは一般的に言われる予測とは違い、将来可能性のある道筋を複数用意し対応力を高めるための方法論ですⅰ。
例えば、災害に備え「防災マニュアルを作成し、これに沿った訓練を実施する」だけでなく、あえてネガティブな発想で「仮に、〇〇が起きたら…」「もし、△△ならば…」とマニュアルにはない複数のストーリーを考えておくのです。それによって、一つのことに縛られず、様々な変化に備えることができるようになります。
一方、実践段階では、ネガティブ思考からポジティブ思考に頭を切り替えて、泰然と構えることがマネジャーには必要です。ネガティブ思考は、気持ちの余裕を阻害します。実践段階では、予期せぬさまざまな困難や障害に遭遇します。そうした時でも、「ケセラセラ(何とかなるさ)」と明るく振る舞うことが大切です。
事業再建や組織変革を成し遂げたリーダーは、「厳しいときほど、楽しんでやるしかないよ」という言葉をよく口にします。楽しもうとするからこそ、ポジティブになれるのです。ポジティブでなければ、想定外の困難にあきらめずに対処することはできません。
先日、全英女子オープンゴルフで優勝した渋野日向子プロは会見で、「ピンチに立ったときは笑顔を意識した」と述べていました。渋野プロにとっての笑顔は、逆境を前向なエネルギーに転換するためのスイッチなのでしょう。困難な状況で自分の気持ちを切り替えることのできるスイッチを、私たちも備えておきたいものです。
参考文献
ⅰ シナリオプランニング「戦略的思考と意思決定」
キースヴァン・デル・ハイデン著、西村 行功他訳(1998) ダイヤモンド社