教育担当者座談会


人生 100年時代への突入は、個々人の価値観を豊かにし、描かれるキャリアビジョンもこれまでとは異なるものに変わってきています。
組織と個人の関係性が変化しているいま、企業内人材育成のあり方についても、今一度考えるべき時期にきているのではないでしょうか。
そこで、各業界のリーディングカンパニー3社の教育担当者をお招きし、これからの人材育成と通信研修の役割について語っていただきました。

通信研修の活用方法とその位置づけ

―― 皆さまの会社では、教育施策の全体像の中で、通信研修はどのような位置付けで活用されていますか。


— 千代
当社の教育体系は、「自己研鑽」「OJT」「集合研修」、これら3つの柱で構成しています。自己研鑽では主に知識の習得や社会人としての基礎固めを目指しています。OJTは育成の根幹ですので、職場単位でのOJTを徹底しています。集合研修は階層別をメインにかなりの数の講座数と回数を実施しています。ただ、当社は全国に1万3000人ほどの社員がおりますので、一堂に集まるのはなかなか現実的ではありません。そのため、基礎の部分は、自己研鑽で補うようにしています。
自己研鑽のメニューには「チャレンジアカデミー」という任意受講の通信研修を提供していて、その中で、産能大さんの通信研修を活用させていただいています。全社員が申し込むことができ、講座も自由に選ぶことができますが、全額自己負担です。にもかかわらず、毎年1200~1300人程度の社員が手を挙げて自発的に受講しています。

— 山内
全額自己負担でもそれだけの人数が受講するってすごいですね!何か理由は考えられますか?

— 千代
やはり遠方にいる社員ですと知識習得の機会が限られているということもありますし、あとは育児しながら働いている社員にとっては、自宅で自己研鑽ができるというのも人気の理由かもしれません。
 また、年度初めの上司面談では自己研鑽の目標を聞かれるので、そのときに「チャレンジアカデミーを活用して、こういうことを考えています」と答える社員が多いですね。

— 竹村
自己研鑽にある必修科目はどういう内容でしょうか?

— 尾崎
マネジメント層に対して、管理者として身に付けてほしい知識の習得を目指し通信研修を提供しています。産能大さんの講座も「ストラテジー&イノベーション」「革新管理者・実践」の2コースを用意していますが、これらは会社が全額負担で支援し、昇格要件としても設定しています。

— 山内
当社では人事部人財開発チームが担当する育成を「JTBユニバーシティ」という名のもと実施しており、集合研修、eラーニング、通信研修、自己啓発、他流試合、実務経験機会、派遣研修など幅広いラインアップで提供しています。通信研修は自己研鑽として取り組む側面もあれば、集合研修の予習・復習や集合研修に参加できない場合の代替手段としてなど、さまざまな用途で活用しています。費用負担は、受講内容によって全額、半額、ゼロと分けています。

— 竹村
全社員数に対して、どのくらいの人が通信研修を申し込みされていますか?

— 山内
国内外、グループ会社も含めて約2万9000人の社員がいます。海外駐在員も通信研修を申し込めるので、グループ全体でおよそ1万7000人の申し込みがあります。

— 竹村
それはすごい人数ですね!

— 山内
あくまでも申込数ですよ(笑)。組織運営を担う管理職の一部は、所属員に対してどれだけ通信研修やほかの育成プログラムを奨励して人財育成に力を入れているかが評価の一指標になっています。そのため通信研修は積極的に奨励されています。ヤクルトさんはいかがですか?

— 徳永
国内のヤクルトグループはヤクルト本社、販売会社、関係会社など約130社から構成され、総社員数は約2万人ですが、教育はそれぞれの所属会社に分かれて実施しています。

本社社員に対しては、人事制度と連動させた階層別の昇格前研修や、テーマ別では女性活躍のためのキャリアデザイン研修、グローバル人材を養成するための海外就労体験研修などのコンテンツを揃えています。グループ会社については、テーマ別研修として、プレゼンテーションや問題発見・解決力などの研修のほかに、各社の要望に合わせて、人材開発センターのメンバーが伺って研修を行う、出前研修というものも行っています。
通信研修やeラーニングは主に自己啓発の位置づけで提供しており、海外赴任者も含めてさまざまな階層の社員が活用しています。特に、本社の新入社員に対しては、必修で通信研修の文章力講座を提供しています。


— 竹村
もともと集合研修で文章力のセミナーを実施していたのですが、時間や場所の制約で参加ができないという社員も多かったので、まずは新入社員から通信研修を受講してもらうことにしました。

— 尾崎
当社も文章力の向上を課題として捉えていますが、効果はどうですか?

— 徳永
効果についてはこれから見ていくのですが、尾崎さんの会社も同じ課題を抱えているのですね。いまの新入社員は、スマートフォンは使えても、本や新聞を読むことから遠ざかっている世代だなと感じています。どの部署からも、社会人の基礎力として、まずは文章力を身につけてから、ほかのスキルを磨いてほしいという現場からのリクエストが多く寄せられます。

修了率とモチベーションの関係

―― 気になるのは修了率や受講者の声です。ご担当者としての率直なご意見をいただけますか。


— 千代
自己研鑽の通信研修は、先ほども申し上げたとおり、社員数からすると1割程度ですが、全額自己負担でも毎年一定数の申込者がいる現状は非常にいい傾向だと思っています。ただ修了率は例年65%前後で知識がしっかり定着しているかどうかは疑問が残ります。難しいのは、あくまでも自らの意志で受講するシステムなので、こちらからは強く言えない点です。

— 尾崎
必修課題の通信研修については、会社が全額負担しますが、修了できなければ、全額自己負担で給与から引かれますし、さらには昇格もできなくなります。それでも修了率は80~90%です。課題の未提出者もおり、ものすごく残念です。

— 山内
当社も申込数は多いのですが、修了率は55%前後です。実は別の課題も感じていて、上司の評価指標の一つにしたということが良くも悪くも働いていると感じています。自己啓発ではなく、上司命令と受け取られている側面も少なからずあり、例えば、ベテラン社員にもかかわらず新人向けの初歩的な講座を申し込んだりしているんですね。あとは、自己負担を逃れたいがために、提出期限直前に3つのリポートをまとめて提出するなど、継続的な学びというより、とにかく終わらせるためだけにやっているというのも散見され、課題だと感じています。教材が届いてもすぐに開かないでいる人は結局修了しない傾向があります。反対に、教材を開いて1回目のリポートを出した人は修了までいくことが多い。そのあたりで何か手を打っていけたらなと思っています。

— 竹村
他社さんのパンフレットを初めて拝見しましたが、それぞれ特徴が出ていて面白いですね!会社の補助率はどのように設定されているのですか?

— 山内
受講するコンテンツは年度によっても変わります。例えば、その年の事業戦略がIT化やグローバル化の推進強化だとすると、ITリテラシーや、グローバル関連の講座は全額会社が支援します。業務に直接関係するような地理や語学、財務なども基本的には会社負担です。業務と関係のない個人的な趣味とみなされる講座は会社の支援がないケースもあります。グループ会社については、会社単位で補助率を任せています。

— 徳永
どんな講座が人気なのですか?

— 山内
人気ランキング1位は業務に直結する地理ですね。その次は、最近の時代の流れでしょうか、段取り力やインターネット活用術など生産性向上に関するテーマ。それからやはりペン字も根強い人気ですね(笑)。

— 一同
やっぱり(笑)!

— 竹村
当社も「本社」「販売会社」「関係会社」で助成率が異なります。時間や場所に縛られることなく、学びの場を提供できる点、各個人で必要とする知識を自由に選択できる点などにメリットを感じています。受講後にテキストが手元に残るので、いつでも振り返ることができたり、個別の添削リポートで苦手なところを克服できたりするのも通信研修のいいところだと思います。

当社の受講状況は、リピーターが多く、例年3800名ほどの申し込みがあり大きな変動はありません。約85%の方が修了しています。いま課題として思っていることは、新規の受講者をいかに増やしていくかですね。あとは、こちらが身につけてほしい知識やスキルに関する講座を受講者に申し込んでいただきたいのですが、実際ふたを開けてみると、それらの講座とは関係のないものも多く、ギャップを感じています…実はうちもペン字が多いです(笑)。

— 山内
どちらの会社も一緒ですね。当社は、商品が旅行ですから地理の知識は必須ですし、地理を知るためには日本史や世界史、戦争史なども必要なので、そういう関連コンテンツを充実させているのですが、ヤクルトさんだとやはり健康系ですか?

— 徳永
そうですね。当社は、ビジネススキルはもちろん、自己啓発でも、色彩検定、税金、年金などさまざまな講座を取り入れていますが、毎年、食や健康に関する講座は多くなってきています。産能大さんの『日経ヘルス』の講座など、雑誌つき講座もかなり人気ですね。

学びを現場で生かすために

―― 組織と個人の関係も変わっていく中で、より学びの重要性は増していると思います。学ぶ文化や風土は会社の成長力にも影響すると思うのですが、受講率アップも含めて意識改革のようなことは考えていらっしゃいますか。


— 山内
受講率アップの話に限らずですが、上司に勧められてとか、周りがやっているから、は一つの動機づけにはなっても、やはり自発的な姿勢がなければ得るものも半減すると感じています。今年度、当社の風土改革のスローガンとして「Open」「Challenge」「Fun!」という3つが掲げられました。ありきたりな言葉ではありますが、育成担当としても、もっと活躍したいと思っている人に対して、チャレンジする場を提供していこうといろいろな仕掛けをしているところです。

研修で得るものがあるかどうかは、本人次第です。自ら成長したいという能動的な意識がないとダメです。社員の自主性、自立性を根付かせたくて、必修でもなく、強制もしない、異業種の方と一緒にハードに学ぶ研修をいま実施しています。国内事業会社を対象に募集をかけたところ申込者は190名。割合からいったらわずかですが、それでも自ら手を挙げる社員がいました。「自ら自分を厳しい場所に置くことで成長する」、そんなふうに意識を変えていけたらいいなと思い、草の根運動を推進しているところです。

— 尾崎
当社もやはり自ら学習するという姿勢が全員に定着しているとは言いがたいです。また仕事が忙しいことを理由にしている社員もいます。たくさん学習機会が提供されていても、その情報を知らない、知っていても何から始めていいか分からない、という人もいます。

環境変化を客観的に把握し、将来のキャリアがしっかり描ける人であれば、おそらくこちらからリマインドしなくても、積極的に学習にも取り組めるはずです。要は危機感ですよね。このままではまずいという危機感をどうやって持ってもらえるか。激動の時代ですので個々の力を上げてかないと会社の発展も難しい。それらをどのように施策に落とし込んでいくかが、今後の課題だと思っています。ヤクルトさんはかなり高い修了率でしたが、何かよい施策はありますか?

— 徳永
販売会社、関係会社に関しては、年度ごとにそれぞれ育成テーマを決めていて、そのテーマに沿った講座を部署単位、全員で受講しているようです。事業会社ごとに自由にコースを選べるので、通信研修はかなり活用度が高いです。そこで得た知識が販売活動などに活かされているようです。会社の目標に沿って、組織的な学びをきちんと位置づけている点が大きいのかと思います。



人生100年時代の人材育成とは

―― 教育担当者のお立場として、組織における人材育成は今後どうなるべきか、どうなっていったらよいか、お考えをお聞かせください。


— 山内
おかげさまで、当社はまもなく創業110年を迎えます。しかし、安泰ではいられません。オンラインの旅行代理店も勢いを増していますし、旧来型の旅行会社では生き残っていけないという危機感があります。人生100年時代となって、私自身もあと20年以上働くことになりますが、私の強み、バリューってなんだろうとよく考えるようになりました。

個人的な意見になりますが、人財育成に携わる立場として、JTBという看板だけではなく、自分の強みや価値をもっと強く抱けるような教育体系にしていきたいというイメージを持っています。
今後はカフェテリアプランのように自分の業務やキャリア、人生に必要なものを、自ら選ぶという教育体系を構築したいと思っています。
キャリア自律は会社の方針でもあるので、キャリアの職域拡大も含めて推進していきたいです。

— 竹村

働き方改革など、価値観が多様化してきていますので、まずは個人がいきいきと輝くためのやる気と能力を人材開発センターが引き出すきっかけを作ることが、すごく大切だと思います。あとは、世の中にアンテナを張って、常に新しいものを取り込んでいくことは、個人としても組織としても重要なことだと感じています。
人生100年時代、まずは何より健康で楽しい生活基盤が大事になりますので、そのためにもやはり毎日ヤクルトを飲むことではないでしょうか(笑)。

— 徳永
先に言われてしまいました(笑)!そう、健康は大事です!働き方だけではなく生き方も含めさらに多様化していくので、社員一人ひとりのために、われわれの部署では何ができるかを考えていかなくてはならないなと思います。いままでのように、会社が望むことだけを行動するのではなく、社員のために何ができるのか、個々人が成長するための環境をいかに整えていくべきか。会社が生き残っていくための一歩なのかなと感じています。

— 千代
JTBさんが危機感をお持ちとおっしゃっていましたが、当社もインターネットの損保が攻勢をかける中で、さらにIT化が進み、AI時代へと突入していることに危機感があります。

そのような状況下で生き残る社員というのは、どのような人財なのだろうと考えたときに、やはり変化に対応して個人の価値を向上させることができる人なのだと思います。当然、言われたことだけをこなす社員は活躍の場がなくなります。仕事や知識、スキルを自ら積極的に獲得しようとする社員をいかに数多く育成できるかを考えることが、これからの私たちの仕事だと考えています。

— 尾崎
当社が目指す企業像は、『明るく元気な社員がお客さまを全力でサポートする、特色ある個性豊かな会社』です。そのために、『社員一人ひとりの個性を伸ばして、積極的にチャレンジする社員を応援する、自由闊達な企業風土』の醸成が必要となってきます。育成を担当する私たちは、社員が学びたいと思ったときに、そのチャレンジを全力でサポートしていかなくてはなりません。
また、人生100年、誰もがいきいきと輝いて生きていくためには、社内で通用する知識だけではなく、自分が楽しいと思えるようなことをもっと学び、新しいアイデアを一人ひとりが出していくべきではないでしょうか。それがおそらく、個性豊かな会社にもつながるのであろうと思っています。反面、社外で通用する知識やスキルを得た瞬間に、優秀な社員が社外へ流出してしまう怖さもありますよね。だからこそ、会社の魅力も高めていかなければいけない。ここをどう両立させていくかが、これからの私たちの課題だと思っています。