人生100年時代のキャリアと学び、そして生き方を考える。 デジタルクリエイター 若宮 正子氏 インタビュー
※2 Technology Entertainment Design
※3 Worldwide Developers Conference
プロフィール
メロウ倶楽部副会長
NPO法人ブロードバンドスクール協会理事
若宮 正子/わかみや まさこ 氏
1935年、東京生まれ。
東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)へ入行。同行で女性初の管理職の一人となった。
定年をきっかけに、同居する母親の介護のかたわらパソコンを独学。2016年秋からiPhoneアプリの開発を始め、81歳で開発した「hinadan」で高い評価を得て、アップル社によるWWDC(世界開発者会議)に特別招聘された。
安倍内閣の「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーにも選ばれている。
著書に「60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。」(新潮社)「明日のために、心にたくさん木を育てましょう」(ぴあ)など。
※所属・肩書きは掲載当時のものです。
この記事は、通信研修総合ガイド2019特集ページ「人生100年。いかに学ぶか。」の一部です。
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インタビューの様子
インタビュー
Q. 長く銀行に勤務されてきましたが、女性行員に対する組織の考え方や環境なども随分変化してきたのではないでしょうか。
ところが、入行して10年ほど経ったころ、6桁の掛け算などもできる「電気式計算機」というものがアメリカからやって来ました。それを見学したときに、商業高校出身で、珠算1級を持っていた男性行員の顔色が変わったのをいまでも覚えています。
その後、電気式から電子式に変わり、さらにインターネット時代が到来すると、銀行の総合オンライン計画などが策定されるようになりました。そうなると、お札を指で数えたり、珠算ができたりというスキルはもはや重要視されなくなりました。次に重宝されたのは、コンピューターを上手く使いこなせる人や、きれいな企画書を作れる人、そしていまは 営業的な視点や柔軟な思考を持つ人が有能とされています。
1986年に男女雇用機会均等法が施行された影響もあり、恐らく銀行だけでなく世の中が、大企業に女性の管理職が一人もいないのはおかしいという風潮になっていたのでしょう。そういった時代の流れも幸いし、私は女性初の管理職となりました。
こうして振り返ってみると、私という人間はあまり変わってはいないのですが、私を取り巻く環境はまるで歴史絵巻のように、どんどんと変わっていきました。AIが台頭し、世の中の考え方や価値観が大きな変化を遂げようとしているいまは、まさに私が約40年の銀行勤務を通じて経験してきたうねりと酷似しているように感じます。
Q. 高度成長を支えた重要な金融センターである銀行に入られるにあたって、なにか夢やビジョンといったものをお持ちだったのですか。
Q. 内閣の「人生100年時代構想会議」では最年長の有識者メンバーとして参加されていますが、どんな議論がなされているのですか。
6歳から15歳まで義務教育で学んだことは、ある程度の年齢になれば大体もう減価償却済みだと私は思うのです。そうすると、ミドルになったとき、そしてシニアになったときと、あと2回は義務教育レベルの学習をリカレント教育として学ぶ必要があると考えています。
そこでSkypeやFacebookメッセンジャーを使って、ファイルを共有しながらプログラミングを教わり、「hinadan」をリリースすることができたのです。これからの教育コストの問題をクリアするためには、こうした遠隔教育など最先端技術を積極的に導入することが必要だと私は考えています。
Q. いまの子どもたちは100歳まで生きるだろうと言われていますが、長く生きることがあたりまえとなるその時代に、いまアクティブなシニアとしてアドバイスをおくるとしたら、どんなことでしょう。
この人間力というのは、バーチャルなものとリアルなものの両方を体験しないと養うことは多分できないでしょう。机やパソコンの前で学問をするだけでなく、なるべくいろいろな人とつきあうことが大切です。生きている現代の人とも、もう生きていない昔の人ともつきあう。作家とは本を通じて、ベートーベンとは音楽を通じて、シスレーとは絵画を通じて、それぞれの分野の一流の人たちとつきあうことができます。
そしてもう一つ大切なことは、なるべく多くのリアルな体験をし、失敗をどんどんしようということです。例えば子どもが電子工作でロボットを作ったとします。上手に歩行できるものを作ったので拍手喝采!ではなくて、それまでにどういう失敗をしたかということのほうがずっと重要なのです。右向きに倒れたら、どうすれば右に重心がいかないようになるのか。前に進まなくなったら何がいけなかったのか。失敗から得られるデータは、次の開発に生きる大事な材料になります。同じように、人生で失敗をしたとしても、それは決して悪いことではなく、データをより多く手に入れられたということに他ならないのです。
ですから親世代や、おじいちゃん・おばあちゃん世代の人が、子どもにああしろ、こうしろ、あれはダメ、これはダメという指示はしないほうがいいでしょう。子どもはなるべく自分の判断で成功も失敗もして、多くの経験を積むべきです。
次の2020年からの新しい教育方針では、そもそも先生がいままでのような知識を詰め込む授業をせずに、子どもたちが自ら体験し学ぶことをバックアップする学習に切り替わります。玉石混淆のインターネットの世界を考えると分かると思いますが、ある知識を見つけたら、これは怪しい、これは大丈夫と自分で判断をし、必要な情報を自分で集め、自分で加工する。そういった判断力、収集力、加工力が必要な時代がやってきます。それらを養成するためにも、失敗をすることはとても大事なことだと思います。
Q. 若宮さんはご自身にとって学びというのはどういうものだとお考えでしょうか。
そして学びを通した個人の経験や能力を生かすために企業はどうあるべきだとお考えですか。
就職活動の解禁日に同じようなリクルートスーツに身を包んでいる若者たちとそれをそのまま受け入れる企業の構図を毎年見かけます。個性ある人材を求める社会なのですから、赤いTシャツを着て行く学生がいてもいいし、それを歓迎する企業があってもいいのですが、結局掛け声だけで終わってしまっています。
いまの企業には10の掛け声よりも1の実践が必要です。退職の挨拶状に「大過なく過ごし、ここに定年を迎えました」と書かれているのを見ると、大過もなかったけれども進化もなかったのではないかと私は思ってしまいます。大過なく過ごすことよりも進化を大事にする、そういう気持ちを企業も社員も持てる風土になってほしいと心から願っています。
先ほどこれからの子どもたちは人間力アップのためにいろいろな経験をしたほうがいいと申し上げましたが、それはシニアでもミドルでも一緒です。人生100年時代ですから、何歳からのスタートでも間に合います。私は60歳でパソコン、73歳でピアノ、81歳でプログラミングを始めました。いまは中学校の数学の勉強をしています。面白そうと思ったら踏み出してみたらいいんです。「明日やめるかも知れない」、「上手になるかどうか分からない」、そんなことを気にする必要はまったくないでしょう。どうなるか分からないからこそ、学ぶことは楽しいのだと私は思っています。
この記事は、通信研修総合ガイド2019特集ページ「人生100年。いかに学ぶか。」の一部です。
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