英語学習は受信型から4技能の時代へ グローバル視点で"話せる英語"を身につける(安河内 哲也氏)

  • 本編は2014年9月3日『英語学習は受信方から4技能の時代へ 英語検定協会・産業能率大学 共催)』フォーラムにてご講演いただいた内容を編集したものです。

グローバル時代を迎え、英語学習のトレンドは、リーディング・リスニング主体の受信型技能から、スピーキング・ライティングといった発信型技能を加えた、4技能をバランスよく学習する方向へと変化しています。
グローバル視点での英語学習のトレンドを踏まえつつ、従業員の英語学習を推進していくには、どのようにする必要があるのでしょうか。
英語教育の第一人者である安河内哲也氏にお話しいただきました。

プロフィール

安河内 哲也(Yasukochi Tetsuya)

日本における英語教育の第一人者として、一般財団法人実用英語推進機構代表理事、東進ハイスクール・東進ビジネススクール講師、TOEIC運営委員会セミナー講師、公益財団法人日本英語検定協会アドバイザー、一般財団法人日本普及機構理事などを兼務。

※所属・肩書き・写真は掲載当時のものです。

安河内 哲也氏

日本の英語教育が抱えている課題

「テストの点数はいいのにネゴシエーションやスピーチができない人」がたくさんいらっしゃいます。
これは日本の英語教育が失敗していると指摘される点です。では、どうすればできるようになるのでしょうか。

英語の学習には「Speaking」「Listening」「Reading」「Writing」という4技能があるにもかかわらず、学校教育と企業教育が「Reading」や「Listening」に偏りがちで、「Speaking」や「Writing」が足りていないことがこの失敗の原因なのです。4技能をバランス良く身につけていかなければ英語を話せるようにはなりません。

文部科学省では、2020年を目処に大学受験を4技能の総合的なコミュニケーション能力を評価する試験に変えていくという方針を明らかにしています。
数年後に4技能を習得した学生が新入社員として入ってくるようになれば、企業教育においても2技能時代は完全に終わり、4技能が当たり前の時代になっていくでしょう。

「4技能をバランスよく学ぶ」イメージ画像

英語教育に大きな影響を与えるテストの「ウォッシュバック効果」

日本人への英語教育で活用していただきたいものが、テストの「ウォッシュバック効果」です。
これは、テストの内容から逆算して教育手法が構築される影響力のことです。

大学入試に出題されない技能を受験生は進んで学習するでしょうか。テストに「Speaking」がなければ「Speaking」は勉強しないですよね。「ウォッシュバック効果」とは、テストというプレッシャーがかかると、学習者はテストに出ることを学習していく、つまり、プレッシャーが学習方法に大きな影響を与えるというものです。

日本人のビジネスマンが英語を学ぶとき、特別な環境にいる人以外の、ほとんどの方は英語を日常的に使う必要性を感じていませんから、目標とするのは英検やTOEIC(R)などのテストスコアとなっています。このような現状を考えると、テストによって牽引するテスト・プル型のモチベーション、「ウォッシュバック効果」が英語教育に有効になるのです。

したがって、重要なことはどんな能力を測定するテストを採用するか、ということです。
しかし、現状は「安いから」「管理しやすいから」などの理由で、多くの企業が「Reading」と「Listening」の2技能のみのテストをおこなっています。
この2技能のテストで社員の方々にプレッシャーをかけると、「英語は実際に話せることが大切」といくら訴えていてもテストに出ないから「話す」トレーニングは行われません。つまり、「TOEIC(R)で990点満点を取りました。リーディングとリスニングはできるけどしゃべれません」という結果になってしまうのです。

英語を話すために必要な音声学習

Imagine(想像してください) you are in a quiet library.(静かな図書館で)
You learn from a thick book.(分厚い本を読みます)
And you learn about musical notation.(楽譜について勉強します)
And you memorize all the musical notes.(全ての音符を憶えます)
You learn about music history.(音楽の歴史も勉強します)
When you go out of the library, then what? Will you be able to play the piano?(学習を終えたとき、あなたはピアノを弾くことができるようになっていますか?)

  • 講演で行われた音声学習体験のアクティビティです。

英語とピアノは同じです。紙で勉強するだけでは、永遠に話すことはできないのです。
英語の意味を理解したうえで、音読することが大事なのです。日本の英語教育は、音声を使った英語教育に変わっていかなければいけないと考えています。

音声学習を実際に体験していただくために、このようなアクティビティをおこないました。こうした名言を使った音声学習をぜひ社員研修にも取り入れていただきたいです。

「スピーキングテスト」のためには4技能すべてが必要

4技能すべてをバランス良く学習していくことが大切ですが、もし4技能のうち1つしかできない、ということであれば「スピーキングテスト」を選定することをおすすめします。
スピーキングテストというと日常会話レベルのものと考えている人がいますが、実際は論理的に話す力、しっかりとしたプレゼンテーションやディベート、ディスカッションをする力も試されるのです。

加えて、話のネタを探すためには「Reading」をしなければなりません。発音改善のためにはたくさん「Listening」することが必要です。
論理的に話すためにはe-mailを簡単に書けるくらいの「Writing」力がなければいけません。
つまり、スピーキングテストで高スコアを取るためには、4技能すべてに備える必要があるのです。

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英語研修を実践的なプラクティスをする場に変える

スピーキングテストの面接官はアメリカ人、イギリス人とは限りません。
日本人も含め、さまざまな国の方が面接官をされていて、相手がどのような国の人でも通用する英語を話すことが求められます。当然ながら「日本人だから……」という甘えは通用しません。

したがって、スピーキングテストを採用すると、そのための英語研修は実践的なプラクティスをする場にする必要があるのです。
たとえば、英語の文法一つをとってみても、ライティングテストでスコアを上げるための文法勉強ではなく、英語を話すときに使用するための文法を身につけなければいけません。

以下、具体的に企業でできる研修を2つご紹介します。

Speaking研修例(1) ペアによる自己紹介

1つ目は新入社員研修などで使えるもので、ペアをつくり、お互いに45秒間の英語で自己紹介をさせるというものです。

この研修で大切なことは、ミスや文法間違いを恐れるのではなく、英語をコミュニケーションツールとして認識してもらい、日本人特有のメンタルバリアを取り除いてもらうことです。

ネイティブであっても文法は間違えます。しかし当然、通じる英語を話します。非ネイティブの経営者の中には、文法はできていませんが、あたりまえのように英語でビジネスをおこなっている人もいます。
「英語を話せればカッコいい」「あの人の英語はネイティブみたい」「あの人は“L”の発音がまだまだだ」なんてことは、日本人以外は誰も考えず、英語を使用しているのです。

英語を話すということは、相手の英語を批評するのではなく、相手が言っているメッセージを受け取って、また、相手には自分の気持ちを伝えることです。この研修の目的は、英語はツールであることを理解し実践してもらうことにあります。

Speaking研修例(2) ショートプレゼンテーション

1分間程度のショートプレゼンテーションは、スピーキングテストでも必ず出題されるものです。

たとえば、「お金は人を幸せにすることができるかどうか」についてYESかNOで答え、その後1分間程で自分の主張を述べていく、というような内容を、ペアになった社員に取り組ませるわけです。

決められた時間内で論理的に意見を述べるということは、大変難しいものです。
短い時間で要点を端的に述べるショートスピーチの勉強は、英語のプレゼン能力だけでなく、日本語力の向上にもつながります。

社員の皆さんが日常的に毎日1回3分間でもこの練習をしたとすると、どれだけ話すことが上手になるでしょうか。要点を整理し、限られた時間内に相手に自分の意見を伝える訓練をすることは、会議の時間短縮にもつながり、効率向上に役立ちます

普段、英語を使わない環境では、英語でのコミュニケーションをする場所がありません。
しかし、このようにスピーキングテストに向けた研修をおこなうことで、仮想訓練ができ、非常に高い効果を得ることができます。

また「Speaking」の研修は、このように他者と一緒に取り組むと効果が高まります。

テストの点数でプレッシャーを与え過ぎると、英語学習が苦行になってしまいますから、スピーキングテストを目標に楽しく演習ができる環境づくりに留意する必要があります。
英語を好きになっていけば、社員サークルのようなものをつくって自発的に学習し始める社員も現れることでしょう。そういった姿を目指して研修を実施していくことが大切です。

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素晴らしい世界共通の言語「英語」を楽しく学びましょう

English is the language of the world. English is not just an American language now. English is not just a British language anymore. The global use of English might be a product of wars and the sad history of colonization.
But look at the facts. English is used all over the world for businesses and academic use, so it’s everyone’s language now. Over 50% of English speakers are non-native speakers, like us.
That means if we go to Africa and talk to the children there, they will say to us, “Welcome to Africa!” Isn’t that wonderful?
If you go to Russia and talk to the young people walking there, they will say to you,“ Hello, comrades, welcome to Russia!” Isn’t that great?
That’s why I teach English. That’s why I want all young people, and all businesspeople to master English. And… and I want you, I want us all to feel the joy of communication. So, why not study this wonderful language more, and why not teach your employees this wonderful common language that connects everybody in the world?
This will undoubtedly help build a more peaceful world. If you think you can, you can. If you think you can’t, you can’t. So,let’s introduce speaking tests. And make your students, and employees smile.

(英語が広まった背景には、戦争と植民地化という悲しい歴史があるかもしれません。しかし今では、英語を話す人のうち50%以上を非ネイティブの人が占めています。英語はアメリカやイギリスだけのものではなく、私たち全世界の言語とも言えるのです。
アフリカに行くと、現地の子どもが英語で「アフリカへようこそ!」と微笑みかけてくれるでしょう。ロシアにいったなら、道行く若者が「こんにちは、ロシアにようこそ!」と語りかけてくれるでしょう。とても素晴らしいことだと思いませんか?
これが、私が英語を教えている理由です。すべての人がこの素晴らしい英語を学んでほしいと思っています。また、人材育成担当者の皆さんには、従業員の皆さまに世界の人々とつながる喜びを教えてあげてほしいと思っています。
そして、世界とのコミュニケーションによろこびを感じてほしいのです。
そのためにも、ぜひスピーキングテストを活用していただければ幸いです。)