CSL 産業能率大学が考える人材育成「2020年問題 その先の人材育成を考える」


時代の分岐点を見通す力が、今、企業に求められています。

2020年。中期的な視点で、自社が進むべき道を設定している企業は数多くあります。
しかし、その先の道で出会う課題を想定した上で、今から備え準備を進めている企業は、どれだけあるでしょうか。
2020年を「危機」ではなく「好機」と迎え打つために、私たちには何ができるのか。それを決定するのは、ビジネスパーソンの主体的、自律的な学習行動であり、それを支援する組織のあり方であると考えます。「社会」「組織」「個人」に関わる諸問題に対して、組織による個人の学習支援はどうあるべきかを考えます。

すでに見えている問題が現実味を増す2020年、危機か好機か。

■オリンピック後の景気悪化の懸念

過去の夏季7大会で、五輪後に景気が良くなっているのは米国と英国の2か国だけです。先進国は新興国ほどのインフラ整備における投資は伸びず、経済規模も大きいので影響も少ないともいわれていますが、今後の計画変更や財政投入の状況によって開催後、日本経済におよぼす負の側面も無視できないでしょう。

■労働力人口の減少と高齢社会の加速

2015年国税調査によると、少子高齢化のあおりで労働力人口は6075万人と2010年から295万人減少し、6000万人割れが目前に迫っています。また65歳以上が占める割合が総人口の4分の1を超えました。労働力不足が叫ばれる中、不足感が高まる職種として、システムエンジニア(SE)が数万人規模で足りなくなるといわれています。

■社会的問題解決への関心の高まり

環境、エネルギー、社会福祉、地域社会等の問題構造はより複雑で高度化しており、行政やNPO等の非営利組織だけでは対処できない事象が増加しています。企業のCSR活動やCSV(※)の実践とともに、個人単位でもそうした活動への参画が浸透していくでしょう。
  • Creating Sharad Value for Management Innovationの略:企業が社会的な問題を解決することで収益拡大を目指す戦略

■社員の高齢化と健康対策

多くの日本企業で人員構成上のボリュームゾーンを占めるのがバブル・団塊ジュニア世代。2020年代には40歳代後半~50歳代前半に達し、賃金水準のピークと同時に管理職への昇進年齢にもさしかかることから、業種を問わず、当該世代の社員をどう処遇するかが大きな経営課題として浮上してきています。また、社員の高齢化や慢性的な人手不足は、社員のメンタルヘルス不全やモチベーションの低下を招き、組織の対応として健康経営が注目されています。

■子育てと介護のダブルケア

組織におけるワークライフバランス施策やシニア社員の活用などが浸透し、子育て中の社員や親の介護を抱える社員の割合が増加しています。さらに、女性の晩婚化で出産年齢が高齢化し、親の介護と子育てを同時に担う、いわゆる「ダブルケア」を行う人口は現在25万人います。今後は、「ダブルケア」への対処も人事労務上の課題となるでしょう。

■ダイバーシティ化する職場

女性やシニア、非正規社員に外国人…かつてはマイノリティー(少数派)に属していた人たちが、職場で存在感を発揮しています。男性・正社員を中心とした固定的な組織ではもはやビジネスの成果を出すことは難しくなっています。性差や人種・国籍を超え、若年層・高齢層の世代を超え、さらには働き方や働く場所をも超えたダイナミックな取り組みが必要です。

■キャリア意識と働き方の多様化

子育て、介護、自己啓発、趣味にボランティア…社員のニーズは仕事中心の生活からワークライフバランスを重視した働き方を好む傾向にあります。また、これまで「場所」と「時間」を基準にした働き方が、物理的な障害が減り、組織内外ともに目的単位でネットワークを形成した働き方が台頭し始め、個人の自己選択や自己責任がより求められます。また、長寿化による定年後を見据えたキャリア形成も早めの準備が必要となるでしょう。

■高度化・複雑化するスキルと生産性向上

業務の複雑化・高度化が進むことで、知識やスキルのライフサイクルが短くなり、すでに保有している知識、スキルだけでは円滑な業務遂行が困難になってきます。またAI(人工知能)がさまざまな分野、場面で導入され始め、人間にしかできない仕事、組織の中で自分にしかできない仕事など、自身の能力に付加価値が求められています。

■広がりを見せる越境学習

個人の学習欲求や成長実感への期待は組織内だけにとどまるとは限りません。知力の余剰を生かし、組織を超えた学びのネットワーク(越境学習)に参画する個人も増えています。知識の詰め込みではなく対話を中心とした学びの場は、多様な人格、バックボーン、知識とスキルを有し、社会的問題解決の場として期待されるでしょう。

CSLとは、個人の自律的・主体的な能力開発を組織が意図的・計画的に促進することで、個人の成長、組織の発展、そして社会への貢献につなげていこうとする教育施策です。

ネットワーク社会の形成は、社会と組織、そして個人の境界線をボーダレス化させ、組織においても個人においても社会への関心が高まり、貢献意欲を向上させてきました。個人の成長が組織の発展につながるとともに、組織も社会の一員として、「何ができるか」「何を求められているか」を考え行動できることがより一層求められています。こうした目的意識の醸成は、社員の成長意欲やモチベーションの源泉になり得ます。
個人の成長と自律的、主体性な能力開発を推進するためには、以下の3つの視点を踏まえた学習支援のあり方を検討する必要があります。

【役割】
ダイバーシティ化する職場において、一個人の役割も一様ではなく、多様な役割を担った個人の集合体と考えていくべきです。組織や職場から期待される役割、地域社会や家庭の一員としての役割など、役割を担うということは、その所属元にコミットしながら何らかの成果や価値を見いだすことで、成長実感やモチベーションを向上させることに繋がります。

【時間】
個人学習の支援のあり方を考える際、2つの時間軸から検討することが重要です。
①中長期的時間軸
採用から定年、さらには長寿化による定年後を見据えたキャリア形成等、 中長期的スパンで学習の成果をはかる。
②短期的時間軸
就業自由度、雇用期間などに制約がある中で、比較的短期間の成果を求める。

【場】
“場”とは、学習環境(学習の場を構成する要素:プログラム、テキスト、リポート、講師、学習ツールなど)を意味しています。グローバル化やICT(※)の進展、あるいはネットワーク社会の広がりによって、学習環境も飛躍的に変化してきました。個人の置かれている状況や目的に応じた学習環境を検討することが求められます。

  • Information and Communication Technologyの略: 日本では一般的となったITの概念をさらに進め、IT=情報技術に通信コミュニケーションの重要性を加味した言葉。


個人の主体性、自律性がより強化され、組織と個人はパートナー関係に近づいてきているといえます。
人材流動化が進む中、経営戦略と連動した人材育成施策を組織内外に打ち出すことが、多様化する人材のミスマッチを最小限にする効果があります。また、組織が大きくなると、組織と個人の距離が長くなり、組織のメッセージが個人に伝わりにくくなるという弊害が生じます。 特に職場を運営するマネジャーには、組織が求める育成ニーズと多様化する個人のキャリア感や志向性を踏まえ育成の方向付けを行うとともに、最適な学習機会を提供できるよう、今まで以上に注力する必要があります。

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