【SANNOエグゼクティブマガジン】⼀つのモデルで読み解くダイバーシティ、グローバリズムVSナショナリズム、働き⽅改⾰

思考モデルと出来事の相似性

瞬時、瞬時、⾝の周りには多くの様々な出来事が⽣じています。私達はその全てをつぶさに把握し理解することはできません。⾃分の思考の枠組みに符合させて位置づけし意味付けして理解しています。その思考の枠組みが環境の実態に⽐べて時代遅れであったり、事実との整合性を⽋いたりした場合には、実世界と⾃分の⾔動に乖離が⽣じてしまうことになります。(ここでは、思考の枠組みの型を広く“思考モデル”と呼ぶことにします。)

例えば今⽇、SNSを通じて出来事が時間や空間を越えて広く繋がり、伝播するようになりました。そのような環境構造のなかで、何気なくツイートした内容が思わぬ⼈の知るところとなり炎上してしまうことは少なくありません。このことは、思考モデルが環境構造の変化に整合していないことを⽰す例です。ただし、だからと⾔って萎縮する必要はありません。

⼀⽅、私達は思考モデルに沿って⾔動を表出することにより現実に出来事を⽣み出してもいます。例えば、「マーケティングの体系」なども思考モデルの⼀つと考えて良いでしょう。このような思考モデルに即して物事を組み⽴てることにより、置かれている環境構造をより良い状況へと変えてきたわけです。同時にマーケティング⾃体も経営環境の変化と共に姿を変え続けてきました。

このように、思考モデルと環境構造が相互に循環しながら社会を形づくり、変化を⽣み出しています。多くの思考モデルのなかから現実に成功をもたらすモデルが選択されて普及し、多様な出来事が⽣み出されることになります。同時に、多様な出来事が1つの思考モデルで説明可能という現象も⽣まれます。「モダニズム」という思考モデルは芸術のみならず政治体制や⽣産システムにも及びました。チャップリンの映画「モダンタイムス」をご存知の⽅は多いと思います。

ここでは、⼀つの思考モデルを⽤いて、ダイバーシティ、世界の政治・経済で⾒られるグローバリズムとナショナリズムの葛藤、働き⽅改⾰の三つの異なる出来事を読み解いていきましょう。

ダイバーシティの思考モデル

ダイバーシティとは多様性を尊重する考え⽅です。その効⽤の⼀つとして組織の創造性が⾼まることへの期待があります。意⾒が異なる⼆⼈が何らかの活動を始めようとすると、その違いから葛藤が⽣じることがあります。安易な妥協や⼀⽅的な押し付けを避けるならば、お互いの違いを乗り越え、協調して新しいアイデアを⽣み出し、双⽅が納得しうる合意を創り出すことになります。さらにダイバーシティの輪が広がるほど、より⼤きな創造が可能になります。

創造とは内発的な動機に基づくものであり、「創造させられる」という表現が存在しないようにしないといけません。また、創造の成果も多様でなければなりません。皆が均⼀になった時点で創造は途絶えることになります。個⼈が主体的で独⾃の意志を持ち続けることが、創造を⽣み続けるエネルギーとなるのです。

ダイバーシティの思考モデルを⽰すと、図1のように描くことができるでしょう。
どのような意⾒でも⽬的を⾼めていくと究極的には“⼈類を幸福にする”という、いわば、グローバリズムに向かうとされています。ぜひ試してみてください。

グローバリズムとナショナリズムの思考モデル

EUは度重なる過去の戦争を教訓として“欧州を幸福にする”ために段階を経て発⾜しました。国家間の戦争は「⾃国だけが良ければいい(他の国は傷ついてもいい)」という考え⽅から⽣まれます。従って、国境の壁を低くすることにより平和な欧州を作ろうとしているわけです。この⽅向性はグローバリズムに通じます。ところが2009年にはギリシャ危機が発⽣し国⺠の不満が噴出しました。また、2016年の国⺠投票の結果を受けて英国は離脱の⽅針を⽰しています。なぜこのような動きが⽣じたのでしょうか。

ギリシャはユーロを導⼊していました。同⼀通貨圏ではビジネスの強弱が直接貨幣の流れに反映されます。その結果、ビジネス強者の多いドイツには貨幣が集まり、ギリシャには集まらないという事態が起きてしまいました。国家としてそれをリカバリーしようとすると国の財政が⽴ち⾏かなくなります。その状態を他国のお⾦で助けてもらうことになると、まるでギリシャがドイツの配下に下るかのような関係に陥ってしまいました。歴史あるギリシャ国⺠の尊厳は否応にも傷つき、ナショナリズムの機運が⾼まったわけです。

英国の場合はポンドを通貨としていますが、⼤国であるにも関わらずEUの枠組みに独⾃性が縛られることに、多くの国⺠に尊厳を取り戻したいという気持ちが働いたことは確かです。

これは私⾒ですが、より⾼い理想を求めて“⼈類の幸福”に近づこうとするならば、国境をなくして均⼀化を図るのではなく、垣根を越えて協調を⽬指すことこそが好ましいと考えます。均⼀化は継続的な発展を阻害し、経済⾯で格差を拡⼤する⽅向に作⽤します。開かれたナショナリズムによって国家の尊厳と独⾃⽂化を保ちつつ、平等な⽴場で協調し、平和を⽬指す⼯夫ができないものでしょうか。

グローバリズムとナショナリズムの思考モデルを図2に⽰します。

働き⽅改⾰と思考モデル

今、働き⽅改⾰が⽇本の課題となっています。多様な働き⽅を受容するという意味ではダイバーシティに繋がる動きです。ここでは⽇本経済の発展の経緯の側⾯から掘り起こしてみましょう。

戦後、⽇本は加⼯貿易により発展を遂げました。つまり製造業が柱となったわけです。今⽇も科学技術⽴国、モノづくり⼤国への志向は強く、⽇本⼈の気質に合っているようにも感じられます。しかし、モノづくりの思考モデルはそれなりの特性を有しています。モノづくりは⾃然の摂理に則することで可能になります。この姿勢はビジネスにおいても⾃分を取り巻く環境動向に則する⽅向へと思考を向かわせることになります。それは、製品開発にはプラスに働きますが、⾃⼰の意志に信をおいて、突き抜けたビジョンを創造するにはむしろマイナスに作⽤します。筆者も、社内で優秀とされる技術者が、創造の壁を前にしてたたずむ姿を多く⾒てきました。

さらに、⽇本はこれまで第⼆の経済⼤国として相応の市場規模を有していました。そのためにまず⽇本で⽣産・販売し、⽇本が⼀杯になったら海外へ販路を延ばすという思考順序が⽀配的でした。そのため、BtoBビジネスでは顧客にとことん寄り添い、要求されたことは何でも叶える姿勢こそが好ましいとする⾵⼟をもつ企業は少なくありません。⾃社の標準品と異なる顧客要求を拒否するなどは⾔語道断という下請け体質が根強く残っています。取引企業が垂直に強く連携している構造です。これは、イノベーションにより主体的に世界に打って出て、⾃社の標準規格を展開し、顧客とパートナーの関係を築こうとする姿勢とは真逆です。今その対応策として、⼤⼿企業がベンチャー企業をパートナーに新事業の展開を図るような、⽔平的な連携がなされつつあります。

⾃社のビジネスを主体的に交通整理できないまま現場の社員に⾃主管理を求め、時短を奨励し、さらに⾼い創造性を求めるのは酷かもしれません。

働き⽅改⾰に関わる思考モデルを図-3に⽰します。
3つの出来事を、⼀つの思考モデルによって説明してきました。ただし、それぞれの出来事は同⼀ではなく多様な特⾊を有しています。その点は⼗分考慮する必要があります。そのうえで、時代の⼀定期間において、相似した思考モデルが⼤きな出来事から⾝の回りの出来事に⾄るまで浸透していることを認識することは重要です。多様な現象に含まれるそれぞれの思考モデルを⽐較することにより、それぞれの現象にどのように対応すべきかについての教訓を得ることができるからです。

最後に、筆者が考えるに、今⽇、世界を覆いつつある思考モデルを理解することは簡単ではありません。なぜならば、環境構造⾃体がその環境構造に従わないように思考モデルに働きかけてくるからです。環境におもねることなく個⼈の主体的な意志により将来を築く時代が到来しています。⼀⽅で、だからこそ並⾏して現実の環境構造を踏まえたセーフティーネットやリスクマネジメントが重要性を増していることも否定できません。今は、⼆つの思考モデルが調和する組み合わせのあり⽅を模索する時代に⼊っていると考えられます。