【SANNOエグゼクティブマガジン】⽬標による管理・⼈事評価制度を定着化させる運⽤ ノウハウ抽出・共有化アプローチ 「⾮正規社員の評価を育成に結びつける"⽇々評価"の マネジメント術」

前回に続き、「⽬標による管理・⼈事評価制度を定着化させる運⽤ノウハウ抽出・共有化アプローチ」の4つ⽬として、「⾮正規社員の評価を育成に結びつける“⽇々評価”のマネジメント術」を紹介いたします。

1.⾮正規社員の評価育成の課題は、処遇改善だけでは解決しない

職場における⾮正規社員の存在価値は、年々⾼まっています。ちなみに、厚⽣労働省のデータでは、我が国全体の⾮正規雇⽤労働者の役員を除く雇⽤者全体の割合は37.5%(平成28年平均)です。ある⼤⼿スーパーでは、パートタイマーの店員さん達が売り場づくりを任され、売上を向上させた様⼦がメディアで紹介されていました。まさに⾼い存在価値を証明した実例と⾔えるでしょう。⾮正規社員の定着率を⾼めるため、パフォーマンスを公正に評価し、正規社員への登⽤を⾏ったり、昇給率にメリハリをつけている組織もあると聞きます。しかし、そのような⼯夫にもかかわらず、職場の⼈間関係や収⼊アップを理由にした退職が絶えません。処遇改善だけでは定着率は上がらず、よい知恵はないものかと多くの⼈事担当者は頭を抱えているのではないでしょうか。

同様の悩みを抱えながらも、⾮正規社員の評価に⼒を⼊れ、育成に結びつけている会社があります。

2.学⽣アルバイトを⼀⼈前に育てる“⽇々評価”のマネジメント

ポケモン、ハローキティー、ミッキーマウス、くまモン、ふなっしー等のグッズ。どれか好きなキャラクターを⼀つ思いうかべてみましょう。そして、あなたはキャラクターショップの店員です。お客様は、⼤⼈の腰にも届かない背丈の⼦どもたち。腰をかがめ、⽚ひざをつき、⽬線を合わせ、優しく声をかけている姿をイメージしてください。そこで働く店員のほとんどは、⾮正規社員の学⽣です。
主婦や元OLもいます。とはいえ、お客様は、正規・⾮正規の働き⽅は問いません。親は、⼦どもがショッピングを楽しみ、欲しいキャラクターグッズを⼿に⼊れられればよいのです。⼀⽅、責任者の店⻑は、⽉次、週次、⽇々の販売⽬標達成を⾮正規社員に求めています。⾮正規社員はまさに戦⼒なのです。

ではどのように戦⼒化を図っているのでしょうか。30歳になったばかりの⼥性店⻑Aさんにマネジメントの⼼がけをうかがいました。この企業では、販売⽬標、⽇々の⾏動⽬標を体系化し、定期的に評価しているそうです。Aさんは評価の仕組みに魂をこめて運⽤しており、Aさんの元で働く店員はモチベーションが⾼いと評判です。

「このお店のスタッフは10名。私と店⻑代理を除き、全員が⾮正規です。7名が学⽣アルバイトです。ですから、学⽣を1⽇でも早く⼀⼈前にすること。いずれは離れていきますが、⼀⽇でも⻑く勤務してもらうことが私のモットーです」。

A店⻑が⼼がけているマネジメントは4つです。事前教育、“⽇々評価”のコミュニケーション、閉店後の職場教育、朝礼での⾏動⽬標徹底です。(図表参照)
まず、事前の教育についてうかがいました。

「採⽤が決まっても、すぐには接客させません。まずは、接客の基本を教育します。学⽣ですので、厳しい指導に抵抗がありますが、厳しくしないと早く⼀⼈前に育ちません。ですから、初⽇、バックヤードで新⼈店員にこう伝えます。『あなたが⼀⼈前に接客できるようになるまで現場で厳しく指導します。あなたにとっては、しんどい時もあるかもしれませんが、仕事に対しプロ意識を持ち、⾔葉遣いやお客様への応対を⾝につけておけば、どんな会社に就職しても、その後の苦労は柔らぎます。
そのトレーニングをお⾦をもらってやれると思えば得だよね︕』と。つまり、これからの指導の厳しさを諭すだけでなく、メリットもあることを伝え、動機づけておくのです。最初が肝⼼です」。

A店⻑は、本学がマネジメント研修で奨励する状況説明スキル、仕事の意味づけスキルをまさに実践されています。「2つ⽬は、“⽇々評価”のコミュニケーションです。頭で理解するのと実際にできるのとは別です。本⼈も、やってみたけれど、これで良いのかどうかわかりません。周囲が何も⾔わなければ、これで良いと誤解します。そのため、接客の良し悪しに気付いてもらえるよう、その場で、『笑顔がないです。お客様には笑顔で接してください。私の接客を⾒てください』とその都度指摘し、⾏動の改善指導をします。3つ⽬は閉店後の教育で、勉強会のようなものです、学⽣・主婦を問わず宿題も出します。とにかく1⽇でも早く、⼀⼈前にしたいのです」。A店⻑の熱⼼な指導には、頭が下がります。

「4つ⽬は、朝礼での⾏動⽬標の徹底です。うちは、⼩売業ですから、毎⽇お店の売上⽬標を設定しています。ですが、売上⽬標を伝えても、店員⼀⼈ひとりの売上⽬標ではないので、他⼈事になりがちです。そこで、売上⽬標に代わる⾏動⽬標を全員に⽴てさせています。たとえば【⾃分に会いに来るお⼦さんを10⼈つくる】【1⽇に50⼈以上にお声がけする】というものです。この⾏動⽬標を毎⽇朝礼で、全員が発表するのです」。

店員のわかる⾔葉で⾏動できる⽬標を設定している点は、部下の特性に合わせた上⼿なマネジメントと⾔えるでしょう。

図表. A店⻑のコミュニケーション&マネジメント活動体系表

3.学⽣アルバイトへの“⽇々評価”のマネジメントの積み重ねは、社会貢献となる

A店⻑は、最後に、ある学⽣アルバイトの退職挨拶の話を語ってくれました。「『店⻑の指導のおかげで、私は希望の会社に就職できました。ここでのアルバイト経験レポートによって無事書類審査を通過し、役員⾯接でも好評でした。⽬標と責任感を持って取り組んだことが評価されました。ここで働けて本当によかったです』と挨拶されたときは、うれしさ半分、淋しさ半分でした」。

⽣産年齢⼈⼝が減少し、働き⼿不⾜が今後も続く中、A店⻑の学⽣アルバイトの戦⼒化は、注⽬に値します。やがては、お店を離れ、社会⼈として就職したとき、早い段階で戦⼒になる社員を社会に送り出すことは、社会貢献にもなるのです。