【事例紹介】⽇本オーチス・エレベータにおける「サービス・エクセレンス」実現を⽀える⼈材育成の取り組み

はじめに

オーチスの創設者であり、エレベーターの開発者である、エリシャ・グレーブス・オーチス⽒によって1850年代のニューヨークで創業したオーチス。約160年後の今、オーチス・エレベーター・カンパニーは200以上の国・地域に60,000⼈以上の従業員を抱え、世界のエレベーター会社のリーダーとして年間売上116億ドルの企業に成⻑しました。
その⽇本法⼈である⽇本オーチス・エレベータ株式会社の創業は1932年。同社はかねてよリ⼈材育成に⼒を⼊れてきましたが、近年、本社理念の浸透と社員の主体性の向上を図るため、ますます⼈材育成に注⼒。技術的な研修や階層別研修に加え、通信教育を活⽤することで、社員の能⼒を向上させようと努⼒を続けています。
この取り組みについて、⽇本オーチス・エレベータ株式会社 研修センター所⻑の太⽥光⼆⽒と、⼟屋千絵⼦⽒のおふたりにお話を伺いました。

世界屈指のテストタワーをもつ芝⼭⼯場

⽇本オーチス・エレベータ株式会社は、世界最⼤のエレベーター・エスカレーターメーカーである、オーチス・エレベーター・カンパニーの⽇本法⼈です。約2400名の従業員が、東京の本社をはじめ北海道から沖縄まで全国各地で働いています。業務の内容は、製造(開発)・販売(営業)・保守(点検)の領域に分けられます。
そして⼈材を育成するにあたり、OJT以外の研修を担っているのが、千葉県⼭武郡芝⼭町にある研修センターです。芝⼭⼯場は地上154m、地下27mの⾼層テストタワーをもち、その規模はオーチスグループ内でも最⼤級です。
このテストタワーを含む⼯場の⼀角に、研修センターはあります。ここは、同社の⼈材育成に⽋かせない⾼度かつ専門的な技術研修を⾏うだけでなく、⼈材開発や⾃⼰啓発、倫理研修といった、多岐にわたる研修を担う機関となっています。

⽇本オーチス・エレベータ株式会社における研修の進化

顧客ロイヤリティを築くための⾼い理念と、3つの“絶対”

同社の理念を表す考え⽅に「サービス・エクセレンス」があります。

これは、全世界で200以上の国と地域に事業展開するオーチスが、約6万名の全従業員に向け、2003年に発信したビジョンです。下表の12項目の約束を社員が実⾏することが望まれています。

そして、ビジョンの導⼊と同じ時期に、同社に⼊社したのが太⽥光⼆⽒。外資系のIT企業や製薬会社に⻑く勤め、社員教育に携わってきたキャリアを買われ、研修センター所⻑に任命されました。
「当時の社⻑から、社内研修体系を構築して欲しいというリクエストをいただいて、それを徐々に進めていくことで現在のような階層別研修の形ができました。 また、それとは別に⾃⼰啓発にも⼒を⼊れており、社会⼈としてどう成⻑していくか、社員⼀⼈ひとりのビジョン、ミッションをしっかり問いかけるようにして います」(太⽥⽒)
また、サービス・エクセレンスとは別に約3年前から、オーチスには、世界中の従業員に対して課せられた「3つの絶対」があります。

それは下記の3つです。
1.安全
2.倫理
3.内部統制
「安全と倫理に関してはとても厳しいですね。⽇本の企業の中でも⼀番厳しい部類に⼊ると思います。私どもが掲げているグローバルビジョン、サービス・エク セレンスの実現には絶対に不可⽋ですね。安全、倫理なくしてサービス・エクセレンスな企業にはなりえませんから」(太⽥⽒)

UTCの傘下企業として厳しい倫理基準に準拠

オーチスは、航空機のエンジンから宇宙産業、へリコプター、その他⼯業製品など多くの分野で研究開発、製造を⾏っているユナイテッド・テクノロジーズ(United Technologies Corporation;UTC)の傘下企業です。
UTCは独⾃の倫理規範「UTC倫理規範」を持っており、その社員は、このUTCの倫理プログラムを受けることが義務付けられています。そして、こうしたプログラム⾃体は通常、英語であることが多いのですが、同社の場合は、この倫理プログラムが、⽇本語はもちろんあらゆるローカル⾔語にまで訳されています。厳しい倫理基準を徹底的に浸透させるという、意思の現れといえるでしょう。
「⽇本オーチスではUTCが持つ最⾼⽔準の倫理基準に従い、守るべく努⼒しています。だからこそ、従業員は細⼼の注意と責任をもって業務にあたっていま す。特に、安全については、本当に厳しいと思いますが、⼈の命に代えられるかと問われれば、厳しくならざるを得ません。こうした意識も社内にだんだんと浸 透してきていると思います」(太⽥⽒)
太⽥⽒が熱⼼に取り組んだのは、サービス・エクセレンスや、3つの絶対といった、会社のビジョンやミッションを社員⼀⼈ひとりにしっかリ理解してもらうこと。
そして、同社にとって最も⼤切な「安全」を担保するのは倫理であり、倫理を浸透させるために、⾃⼰啓発を効果的に活⽤されています。

通信教育受講率アップのための取り組み

エレベーターの保守・点検の、国家資格というものはなく、各メーカーは独⾃に社員を育成し、資格を認定しています。⽇本オーチス・エレベータも同様に、社内で筆記試験と技術試験を受け、認定された社員だけが、実際の現場で働くことができる規定となっています。

また、専門スキルとは別に、ヒューマンスキルをはじめビジネススキルに関する研修も⽋かせません。
そうした能⼒をアップさせるために⼤切なのは、社員⼀⼈ひとりの「主体性」であると太⽥⽒は考えます。
その主体性を向上させる⽅法のひとつが通信教育です。

同社はかねてよリ通信教育を含む研修制度を取り⼊れてきましたが、受講者数は思うようには伸びませんでした。そこで、1998年から下記のような取組みを⾏ってきました。これらの積み重ねにより、通信教育の受講者数は⼤きくアップし、特に2004年からは、それまでの倍以上の社員が受講するに⾄りました。この流れに⼤きな弾みをつけたのは、この年から導⼊された目標管理制度とパンフレットの⼤幅改訂にあります。この改訂には2004年に⾏った全社員アンケートの結果が活かされています。

目標管理制度を通じて会社の経営⽅針や⾃分のキャリアを踏まえながら、⾃ら目標を⽴てることで、社員⼀⼈ひとりが意欲的に努⼒することに期待しています。目標達成に向け、通信教育は⼤きな武器となりえます。
また、年に1度全社員に配布されるパンフレットも⼤きな役割を果たしました。それまでのパンフレットは『通信教育』と題された、受講できるプログラムのカタログのような冊⼦でしたが、産業能率⼤学の働きかけもあリ2005年4⽉から『能⼒開発ガイドブック』にリニューアルされ、新たに発⾜した目標管理制度の分かりやすい解説や、キャリアアップに向けた意欲向上のためのメッセージなどを載せ、より読みやすく、充実したものとなりました。
さらに2005年10⽉からは⽀店別通信教育受講率ランキングを掲載し、受講率の⾼い⽀店の通信教育担当者からのコメントを載せるなど、受講率アップに向けた取り組みを強化する内容となりました。

全ては同社の理念「サービス・エクセレンス」につながる

さらにグループ受講制度を取り⼊れたことも受講率のアップに繋がったと、通信教育担当の⼟屋⽒は語ります。これは部課単位、あるいは同期の仲間などで3~10⼈のチームを組み、チーム全員が修了すると通常の奨学⾦のほかに図書券がもらえるという仕組みです。
「開始した当初はメジャーな制度ではなく申し込みも少なかったのですが、最近は特に増えました。2004年は34グループでしたが、2010年には66組にまで増え、2011年はさらに増える⾒込みです。”学ぶ”という風⼟が社内に根付いているのでしょう」(⼟屋⽒)
これらに加え、目標管理制度の中で⾏われる⾯談と通信教育開講の時期をリンクさせたことも、受講率のアップに繋がりました。こうした取組みを通じて学習する風⼟が根づいてきたことにより、修了率も2005年以降上昇傾向にあります。さらに通信教育の学習がサービス・エクセレンスの向上につながっているケースもあります。
「2011年にはじめて、全国の⽀店から代表を集めて、社⻑の前でお客様に対する点検報告をロールプレイングするコンテストを⾏いました。私は普段、点検 報告書を⾒ることはないのですが、このとき⾒た報告書の印象は、みなさん本当に字がきれいということでした。⾃主的に通信教育のペン習字などを受けている 成果だと思います。字がきれいということは、お客様からよい印象をもたれるわけですから、サービス・エクセレンスともリンクしています。こうした取り組みは本当に地味ですが、⼤切です。⾃⼰啓発・⼈材育成のコアの部分を、通信教育は担っていると思っていいでしょう」(太⽥⽒)
さらに太⽥⽒は続けます。
「正確な統計を取ったわけではありませんが、通信教育の受講率の⾼い⽀店は、従業員満⾜度が⾼いという傾向もあります。」(太⽥⽒)

2020年に向けて掲げた⻑期目標を達成するために

2011年度から、同社は「DESTINATION2020」という⻑期目標を⽴てました。
アメリカ本社からのものではなく、2020年に向けて⽇本法⼈である同社が独⾃に打ち⽴てたものです。この目標が書かれた⼩さなカードを社員はみな携帯し、意思の統⼀を図っています。ここで掲げられた7つある目標の中⼼「2020年までに従業員満⾜度を80%に上げる」というものがあります。
「変化の激しい時代に企業が⽣き残り、成⻑するには社員⼀⼈ひとりの成⻑とやる気が不可⽋です。そしてその継続のためには、楽しく仕事をする⼯夫がとても ⼤切だと考えます。私が⼊社した頃、従業員満⾜度は30%くらいで、現在は60%くらい。今後は80%を目指しています」(太⽥⽒)
さらにオーチスが掲げるサービス・エクセレンスは、2010年から「フェーズ2」に⼊りました。 これまで以上に「顧客ロイヤリティ」を築いていくステージに変わったのです。太⽥⽒は、このサービス・エクセレンスと従業員満⾜度、そして従業員各⾃の主体性は密接に関係していると考えています。
「世界中でさまざまな変化が起こっているこの時代に、なぜこのタイミングで顧客ロイヤリティを築いていくことを追求していくのかを社員の⼀⼈ひとりが考 え、アクションに落としていってもらいたいですね。個々⼈のこうした活動が職場の活気や笑顔につながっていき、組織が進化していくことが必要です。しかし 今、このままの延⻑線上では、DESTINATION2020の達成は難しいと思います。そのことを明確なメッセージとして発信し、研修センターも、営業 所も、⼀⼈ひとりの社員も、それぞれが進化していかないと2020にはたどり着かないということを伝えていこうと思っています」(太⽥⽒)

社是とも⾔うべき「サービス・エクセレンス」
そして企業の命題である「3つの絶対」
これに加え「DESTINATION2020」という⻑期目標。
これら全てを実践するには、社員⼀⼈ひとりの主体性がキーワードとなります。

その⼀翼を、通信教育という⼿段が担っていると⾔えるでしょう。