【SANNOエグゼクティブマガジン】マネジメントの意味をいまいちど問う~メンバーの「業績貢献行動」を促すしくみづくり~最近の傾向・ご支援から見えること

財務業績をあげることは、企業の永遠のテーマです。最近マクロ的には景気回復の兆しが見えてきた感じもありますが、企業の大半が業績改善を十分実感するまでにはいたっていないようです。私は、「業績貢献力」というキーワードを強調して、研修やコンサルティング業務に取り組んでいます。業績貢献力を高めるための要件は「人材育成」と「しくみづくり」です。前者については、2012年5月において、「戦略的ミドルマネジャー」という考え方をご紹介しました。

今回は、後者のしくみづくりについてお伝えしたいと思います。

マネジメントする上で必要な「業績志向のしくみ」

マネジメントには、「人をつかって事をなす(Getting things done through other people)」という代表的な定義があります。意訳すれば「任せて、任せ放しにせず、成果を出す」という意味合いになりますが、そのためには「しくみ」が必要になります。メンバー各自が好きなように行動して組織としての成果が出るならしくみは不要ですが、現実にはそうはいきません。また、一部の優秀な人材に委ねることで何とかやっているケースも多く見受けられますが、その人が職場からいなくなる(たとえば、海外赴任による異動等)とうまくいかなくなるのでは、しくみができていることにはなりません。組織のメカニズムとして、しくみをつくり上げなくてはなりません。その際、「業績志向のしくみ(POS : Performance Oriented System)」を構築するという観点が重要です。

「業績評価システム」と「モニタリングシステム」

「業績志向のしくみ」は、メンバーの業績貢献行動を導くしくみでなければなりません。その意味で最もわかりやすいものは、業績評価システムです。人は、他から評価されるものを重視して行動する性質を持っています。そのため、業績評価システムにおいて設定される評価項目(たとえば、売上、営業利益等)が適切であれば、組織として望ましい行動を導くことができます。行動の結果として表れる財務業績を評価項目とすることは不可避ですが、財務業績が過重視されてしまうと、顧客対応が不十分になる、将来への種まきが手薄になる等、中長期的な業績に悪影響をおよぼすリスクもあります。

一方、財務業績の原因であるメンバーの日々の行動もまた、しくみによってマネジメントする必要があります。では、メンバーの行動レベルの詳細な項目について(人事評価とは別に)通信簿をつけるべきでしょうか?答えはノーです。上位概念である特定の財務項目につながる(貢献する)ような、キーポイントとなる行動を「見える化」することが有益です。この見える化できるしくみを「モニタリングシステム」と呼ぶことにしますが、特に重視したいしくみです。

実情に応じた「業績志向のしくみ」の構築

業績志向のしくみは、自社の実情に応じて構築する必要があります。「人材としくみのマトリックス」という図表をご覧ください。縦軸に人材の質の高低、横軸にしくみによるコントロールの強弱をとることにより、4つの象限が描かれています。御社の現状と将来像はどの象限にポジショニングされるでしょうか?
象限Ⅰは、人材の質が低く、しくみによるコントロールがしっかりおこなわれている状態です。この象限には、ビジネスモデルが確立しており、ローコストオペレーションを完成させていて、(一定のアウトプットを最小のインプットでという視点である)効率化が進んでいる組織が多く該当します。このような、出すべきアウトプットの内容と水準が明確な組織の場合、効率化を徹底できるしくみを構築すべきです。効率化のレベルが上がってくると時間的な余裕が生まれ、より建設的、すなわち効果性(インプットを増やしてでも〔競争要因については〕より大きなアウトプットを出すという視点)重視の思考ができるようになります。

一方、Ⅳは危険な状態といえます。人材の質が低く、経験値も不十分にもかかわらず、しくみによるコントロールが十分におこなわれていない場合、そのままでは組織が衰退していくことは容易に予想できます。

私が個人的に理想としているのはⅢの象限です。つまり、多くの優れた人材が育成されており、経営トップやマネジャーは、大きな方向だけ示し行動レベルはメンバーに任せきるという意味で、しくみによるコントロールをほとんど必要としない状態です。組織を象限Ⅲに成長させていくためにも、上述のモニタリングシステムの活用が有効です。

ちなみに、Ⅱに多く該当するのは、官僚的な組織です。優れた人材が豊富であるにもかかわらず、しくみによるコントロールが徹底されています。このような組織では、クリエイティブな発想が生まれにくく、経営環境が変化して自社のビジネスの見直しが迫られるような状況においては、競争に負ける可能性が高くなります。

自社にとって相応しいしくみを構築するためには、上述のポジションの認識を誤ってはなりません。

なおこのマトリックスの観点は会社全体のみでなく、部門、さらに職場レベルまで細分化したサブシステム単位で用いて、実情に応じた業績志向のしくみを構築すべきです。

マネジャー任せでは、実現不可能

業績志向のしくみをあらためて構築しようとする場合、マネジャー各自に任せていては、実現は不可能です。また、サブシステムレベルのしくみと全社レベルのしくみとで整合性がとれているのか、あるいはサブシステムレベルのしくみ同士で整合性がとれているのかを検証することも大切です。そのため、社内にプロジェクトを発足して、組織的に推進すべきです。場合によっては外部コンサルタントを指南役に据えることは有益ですが、あくまでも自分たちが主人公であるという意識で臨む必要があります。そのためには、経営トップ層のコミットメントも必要不可欠になります。