【SANNOエグゼクティブマガジン】調達・購買部門をどうレベルアップするか~企業の収益源"調達・購買部門"の人材育成~最近の傾向・ご支援から見えること

調達・購買部門の人材が育たない

研修やコンサルティングにて企業を訪問した際、「調達・購買部門の人材育成がなかなか思うように進まないのですがどうしたらよいのでしょう?」という質問をされることが少なからずあります。調達・購買部門は、企業活動を行う上でのインプット(原材料、素材、部品、製品、など)を外部から購入する機能を担っています。それらの扱い金額はコストの大半を占め、経営に大きな影響を与える重要な部門です。最近では、技術の高度化、専門化が進み、外部依存の傾向が強まっています。そのような状況において、調達・購買の重要性はますます高まり、各企業とも人材の育成に力を注いでいます。では、力を注いでいるにも関わらず、なぜ人材の育成が思うように進まないのでしょうか?その理由を考えてみたいと思います。

理由1 「個人の技能に頼った業務の推進」

調達・購買部門は、長年、担当者の個人の技能に頼った業務の進め方をしてきました。それは、組織の戦略が明確でなく、担当者個人に仕事のやり方を任せていたためでもあります。その結果、個人にノウハウが蓄積し、いわゆる、職人の世界となってしまいました。“技能”を身につけ職人となるには、多くの経験が必要であり、その習得には時間がかかります。それが、人材の育成がなかなか進まない要因となっています。

理由2 「技術・情報の共有化不足」

さらに、“個人の技能に頼った業務の推進”となっているため、組織として技術・情報共有ができていない企業を多く見かけます。たとえば、日常の業務の中で、こんな会話が散見されていませんか。「プレス部品のコストは○○さんに聞けばすぐわかる」、「電子部品組み立てのサプライヤーは××さんに聞けば紹介してくれる」。これでは、組織として技術・情報が共有化されてなく、個人所有になってしまっています。

理由3 「習得すべき知識・技術が広範囲におよぶ」

調達・購買部門は、自社で生産できないものや作業を外部から調達しています。その際、自社で必要なものは何か、どこから調達すればいいのか、いつ調達すればいいのか、いくらで調達するのが適切なのかを判断しなくてはなりません。そのため、調達品や外注作業についての広い知識が必要になります。しかしながら、それを学ぼうとしても、社内にはその技術や専門家が存在しない場合がほとんどです。さらに、調達品や外注作業は、多種多様な領域が存在します。調達品では、機械部品、樹脂部品、電気・電子部品、化学・薬品など、外注作業では、プレス・板金加工、機械加工、樹脂成型、塗装・メッキ、組立など実に様々です。これらの知識をすべて教育しようとしても不可能であり、またそれ以外にも必要な技術が山ほどあるのです。

人材育成をどのように進めるべきか

考えられる主な理由を3つ挙げましたが、それに対してどのように人材育成を進めればよいか、私の考えを述べたいと思います。

[1] 戦略の基本を学ぶ

理由1の“個人の技能に頼っている”要因として、戦略があいまいであり、実際の業務遂行が担当者任せになってしまっていることが挙げられます。企業にて戦略を拝見させていただくと、抽象的なものが多く、具体的なレベルにまでブレークダウンできていないところが多く見受けられます。戦略を現場で受けいれやすいような、具体的で分かりやすい言葉で表現し、担当者がどのような方向で業務を進めればよいのかを明確にすることが重要です。そうすると、組織として必要な技術や情報が明確になり、担当者もそれを認識し個人学習も促進されます。つまり、戦略をより明確にすることで、組織としての方向性を現場に浸透させ、必要な技術・情報を明らかにすることが求められます。

しかしながら、調達・購買部門の管理職の方とこのような話をすると、「自分たちは調達ばかりやってきたので戦略の立て方や具体化をどのように進めたらよいか分からない」、「戦略の立案といわれても、そのための教育を受けたことがない」といった反応が返ってきます。“戦略の基本”を学ぶ必要があると強く認識させられます。

[2] 固有技術と管理技術に分けて考える

理由2の“技術・情報の共有化不足”、理由3の“習得すべき知識・技術が広範囲におよぶ”については、経営資源を整理することがキーになります。経営資源が整理されれば、社内にどれだけの知識・技術があるのか、どこあるいは誰がもっているのかが明確になり、社内での共有化が促進します。さらに、明確になった戦略に照らし合わせれば、今不足している知識・技術は何かが明らかになります。

経営資源を整理するにあたっては、固有技術と管理技術の領域に分けて考える必要があります。固有技術は、調達品や外注作業、サプライヤーによって変わります。機械加工技術、溶接技術、電気・電子技術といった、設計や製造の専門技術になります。管理技術は、汎用的に使える技術であり、戦略の立案技術、コストの積算技術、買い方の技術、改善技術、交渉技術などになります。これらを分けて考えることにより、必要な技術や知識が特定しやすくなり、教育する対象者も絞られてきます。

[3] 固有技術は個人学習、管理技術は組織学習

では、固有技術、管理技術を分けて考えたうえで、それぞれどのように教育を進めればよいのでしょうか。基本的には、調達・購買部門においては、固有技術は個人学習、管理技術は組織学習にて行うことが効率的であると考えます。固有技術の習得には時間がかかります。また、調達・購買の担当者には、専門性を深く理解するよりも、広く知識を理解することが求められます。そのため、サプライヤーを定期的に訪問し、製造工程を見学するなど、担当領域に応じた学習方法が効果的です。

管理技術は、個人のものとするのではなく、組織のものとして共有化することが求められます。そのためには、戦略に応じてどのような技術が必要かを明確にして、体系化する必要があります。そして、計画的・継続的に調達・購買部門において担当者の役割や階層に応じた教育を実施することで個人の育成・レベルアップを図り、それが近い将来の組織力向上につながっていきます。