【事例紹介】NTTドコモ 消費⽣活アドバイザーの視点を⽤いたCSマインドの活性化と浸透

はじめに

消費者からの苦情相談などに迅速かつ適切に対応できる⼈材の育成を目的とした消費⽣活アドバイザー制度。
CS経営の強化が重要視される中、さまざまな企業における消費⽣活アドバイザーを活⽤した消費者視点での事業展開・改善活動が注目されています。
今回は消費⽣活アドバイザー活動の充実化・活性化に取り組む、株式会社NTTドコモ CS推進部の⻄村久美⼦様にお話をうかがいます。

  • 本編は2013年2⽉13⽇の学校法⼈産業能率⼤学主催「経営に活かす!『消費⽣活アドバイザー制度』の取り組み 〜先進企業による事例紹介と通信講座の活⽤〜」フォーラムにてご講演いただいた内容を編集したものです。

会社主導による有資格者拡⼤施策の導⼊

2000年代頃は、各企業でCS経営の強化が重要視され始めた時期でした。通信業界では、携帯電話を皆様に次々に購⼊いただけた時期を経て、1⼈1台の時代と⾔われるまでになりました。
また、携帯電話番号が変わることなく、他の携帯電話会社へ契約を変えることが出来る「番号持ち運び制度(MNP)」が2006年から始まることを契機に、ドコモでは本格的なお客様の獲得競争の時代に⼊るという強い危機感がありました。
そして、お客様の気持ちや求めているものにしっかり向き合いながら、社員⼀⼈ひとりが「お客様視点」を持って各⾃の担当業務にあたっていかねばならないという意識の⾼まりと共に、社内では様々な取組みを検討・開始しました。
その中の⼀つが「消費⽣活アドバイザー資格をもつ社員の育成とその活⽤の取組み」です。

「消費⽣活アドバイザー」は消費者と企業の“かけ橋”として期待される役割を持ちます。その役割は消費者の動向・意⾒・要望を的確に捉え、お客様視点で業務を⾏える⼈材の育成に有効な資格であると考え、まずは有資格者の拡⼤を目的とした「消費⽣活アドバイザー資格取得研修」を開始しました。ドコモには従来より「通信教育」(完了により会社負担とする)と、独学で資格取得した者に対して奨励⾦を授与する制度がありました。
この研修は、独⾃の研修メニューを設けて⼀⼈あたり年間10⽇程、受講を⾏ってもらうものです。
また、併せて通信教育にも取り組んでもらいました。
5年実施し、取り組み前に8名だった有資格者が2010年には290名まで増えました。

有資格者が250名を超えたころ、有資格者数が企業全体で5位、通信業界で1位となったことを契機に、有資格者の活動に注⼒するため、会社主導での有資格者の拡⼤施策は終え、以降は各社員の⾃主性に任せることにしました。なお、通信教育への補助と合格後の奨励⾦制度は現在も継続しています。

なお、本年度は20名ほどが受験し、現在把握しているところでは5名が合格(注︓最終合格者数8名)、退職等による⾃然減などもあり、現在は290名ほどで推移しています。

消費⽣活アドバイザーによる広告や冊⼦類チェックの実施

有資格者に、その⼒を会社業務で実際に⽣かしてもらうための各活動は2008年から開始しています。
その代表的なものは「広告類のチェック活動」です。
2006年より「番号持ち運び制度(MNP)」の導⼊などにより携帯業界全体での競争が激化、お客様の取り合いから広告の⾏き過ぎた表現が発⽣し、問題となりました。そのため、これらを公開前にチェックすることにしました。
この取り組みは現在も継続されており、消費⽣活アドバイザーの活動の中核になっています。

本来は広告物すべてに目を通せればよいのですが、スケジュールの関係等で難しいので、お客様が目にする機会の多いリーフレットやチラシを含むパンフレット類を中⼼にチェックを⾏っています。また、可能な限り全国のアドバイザーに⾒てもらうよう努めています。

チェック⽅法については、「こういう視点で⾒るといいかな」というチェック項目を作り、それを社内で共有しています。
確認する内容は、まず全体に分かりやすいか、⾒づらくないか、誤解を招く表現はないかを⾒ていきます。
また、⻘少年保護や環境への配慮がされているか、社会情勢をきちんと踏まえた形になっているかなども⾒ています。

その広告類を目にする対象者に配慮した表現になっているかも重視するポイントです。特に対象者がシニア層のパンフレットでは、「⽂字が⼤きく、読みやすくなっているか」「最低限、知っておいていただきたい内容が記載されているか」なども確認します。
携帯電話はあらゆるニーズに応えるようにしていった結果、料⾦が複雑になってしまっており、広告・パンフレット類の対象者によって、内容や表現を精査し“お客様に誤認されないように、また、少しでも分かりやすくする”ことを⼼がけています。
また細かいことですが、原稿が制作途中の段階では、誤字・脱字や⽇本語の使い⽅が正しくない可能性がある表現が含まれることもあります。
そうした記述上の誤りや、企画・構成⾃体に関わるアイデアベースの指摘まで、思いつく限りのフィードバックを出すことで、制作部門での修正作業と今後の制作にも役⽴てています。

お客様にお渡しするパンフレット類以外にも、株主・個⼈投資家の皆さまを対象とした『ドコモ通信』、消費者⾏政機関に提供する『ケータイQ&A』などについてもアドバイザーが「よりわかりやすく」「より効果的に伝わるか」を目指した内容チェックを⾏っています。
なお『ケータイQ&A』については、発⾏のタイミングで消費⽣活センター等、消費者⾏政機関への提供する際に、時にはアドバイザーが同⾏してその場でいただくご意⾒やご要望、ご質問に対するフォローも⾏っています。

お客様視点を重視した社内提⾔制度

広告・パンフレット類のチェック以外にも、消費⽣活アドバイザーの活躍の場を⽤意しています。
そのひとつが「気づきの声」を活⽤した社内提⾔制度。これはドコモの各商品、サービスについて、「こう改善したらいいのではないか」「この問題は根本的にこうしなければ」といった提⾔を各社員が社内のシステムに登録し、各商品やサービスを主管する部門などで改善につなげるというものです。
CS推進部では社内提⾔のほか、年間600万件に上るお客様からのご意⾒やご要望を収集分析して関係部門に報告していますが、その際にアドバイザーから出た提⾔だと分かるようにしています。

また、同じ仕組みを使って、発売後の携帯端末やスマートフォンを消費者視点でチェックしています。
例えば「このボタンはこうした⽅がよかったのではないか」「仕組みはこうした⽅がよかったのではないか」といった提⾔を開発部門に対して⾏っています。

各⽀社が独⾃に⾏う地域活動例

各⽀社が独⾃に⾏っている活動もあります。その中から東海⽀社の例を紹介します。
1点目は、東海地域に勤務している消費⽣活アドバイザーが年4回名古屋に集合して、交換会やテーマを決めたディスカッションを⾏う情報連絡会の開催です。これにより、アドバイザー⾃⾝のスキルアップや最新情報の交換などを⾏っています。
2点目は、社外団体が主催する携帯電話に関わる勉強会への協⼒です。学校関係やNACS(公益社団法⼈ ⽇本消費⽣活アドバイザー・コンサルタント協会)などから勉強会への講師派遣の依頼を受けることがあります。
その際にアドバイザーが当⽇使⽤する資料作成や、当⽇の講師を担当するなどの協⼒をしています。
3点目が、『消費⽣活アドバイザーだより』の発⾏です。毎⽉1回、地域のアドバイザーが持ち回りで『消費⽣活アドバイザーだより』を作成し、消費者問題のトピックスや担当業務を通じた視点から⾒た各種情報を社内ホームページで発信しています。
最新号では、「⼦供にも急速に普及するスマートフォン」というテーマで、背景となる社会情勢やドコモではこういった製品・サービスが使えるといった説明を⾏っています。
このようにひとつのテーマを深く掘り下げるためには、作成に関わるアドバイザー⾃⾝もかなり勉強する必要があるので、作成を通じてスキルアップできるというメリットもあります。

消費⽣活アドバイザーへの各種⽀援施策

社内外の活動紹介

社内報やイントラネットなどを使って社員にアドバイザーの活動を紹介することで、アドバイザーの役割やお客様視点の⼤切さをアピールしています。
また社外からアドバイザーの活動についての講演依頼や取材依頼をいただいた際は積極的にお受けするようにしています。今回の本講演もそのひとつとなりますし、先⽇はトヨタ⾃動⾞様からのお招きで意⾒交換会に参加し情報交換を⾏いました。

有資格者名⼀覧のホームページ掲載

ドコモグループには有資格者が約300名おりますが、その名前を社内のホームページに掲載しています。
これにより受験を希望する⽅にとって⾝近な有資格者が分かるようになり、アドバイスを受けることなどが容易になります。

名刺への肩書き記載

アドバイザーは、名刺に「消費⽣活アドバイザー」の肩書きを記載しています。
新しく出会ったお客様と会話が弾んだり、会社全体の取り組みについて紹介する機会を得ることで、PRにつながると考えています。

活動の⾒える化によるCSマインドの浸透

2011年からは消費⽣活アドバイザー活動の活性化・⾒える化促進のため「活動ポイント・表彰制度」を導⼊しました。
これは、消費⽣活アドバイザーとしての活動をした社員に、内容に応じたポイントを付与し、優れた提案をしたり、積極的に活動した社員を社内表彰するというものです。会社が企画した活動のほか、社外での講演やアドバイザーとしての活動といった⾃主的な取り組みもポイント対象としています。
2012年5⽉には初の表彰式が⾏われ、5名が「消費⽣活アドバイザーの活動優秀賞」を受賞しました。
社内表彰を消費⽣活アドバイザーが受賞することで「消費⽣活アドバイザー」の各取組みを社内に広く周知するとともに、CS活動に対するモチベーションの向上とCSマインドのさらなる浸透につながると期待が持たれています。

今後の課題

約300名の消費⽣活アドバイザーのうち、実質4分の1ほどしか活動に参加しておらず、有資格者皆の⼒を⼗分に⽣かしているとは⾔えない状況にあります。
企画する活動の考え⽅は「可能な限り、勤務地や所属部門・業務内容にとらわれず、有資格者が活動しやすい内容を⽤意し、⾃発的な活動を促すこと」としており、この考え⽅に沿って各活動を企画し、実施してまいりました。
また「活動ポイント・表彰制度」の開始により、活動全体としての活性化は進みました。しかしながら、全員が参加するのは、業務内容や勤務時間の関係などで現実には難しい⾯が⾒えています。
現在は活動開始から数年が経過したことより、今後の取組⽅針や内容の再検討を進めています。

今後も引き続き活躍の場を継続して提供し、社員のCSマインドの浸透とお客様を起点とした取組みの促進への貢献を進めていきます。

(2013年2⽉13⽇公開、所属・肩書きは公開当時)