【SANNOエグゼクティブマガジン】戦略近視眼~最近の傾向・ご支援から見えること

戦略のはずが戦術に

「戦略を期待したのに戦術しか出てこない…」。これは以前からよく、経営トップや幹部の方から聞かされていたこと。最近はそれが以前に増して増えているような気がしています。実際にアウトプットを見せていただくと、確かにそこにあるのは戦術(施策)の山。ただそれは、仕方がないことであるように思えるケースも少なくありません。上層部から出される指示は「○○事業で今期の目標を達成するには?」というような“ お題”。指示を受けた側は多くの場合、自ずと「既存の○○事業で目標ʻ値ʼを達成するには?」と理解し、検討を進めてしまう。

この検討の前提として、「成長のために」「生き残るために」などの“ 目的” はあるにはあります。たとえば、図1のような展開が考えられるわけですが、同図「多角化」はそのハードルの高さもあってか(?)、○○という既存事業の既存資産(ヒト、モノ<製品、技術>、顧客・市場など)の枠組み内で予算達成の“ 手段” である戦術を考えることに終始してしまう傾向があるようです。

市場開拓と市場開発

図1は比較的よく知られているものですが、ここにちょっとした盲点があるように思っています。
というのは、図1の縦軸は「市場」。そのため、「新しい市場・顧客≒新興国」といった図式が出がちです。これはこれで検討として成立するのですが…古い書籍で恐縮ながら、たとえば『最新・戦略経営-戦略作成・実行の展開とプロセス』(H.I. アンゾフ、中村元一/黒田哲彦訳、産能大学出版部 第3 版、P.147)での縦軸は「使命」。したがって、左下の象限は「市場開発」。「市場開拓」ではありません。似たような言葉で同じ意味にもとれますが、この「市場開発」は「市場(顧客)を創造すること」という、マーケティングやイノベーション理論などで重要とされることそのものに該当すると考えるべきでしょう。

戦略立案の前に事業の再定義を

このように考えてみると、戦略を考えるために最初にしなければならないのは、やはり「我々の事業は何か︖」ということ。「最初に」と書きましたが、このことを考えて決めることが戦略策定そのものともいえるのではないでしょうか。

「我々の事業は何か︖」を考えるためには、図2が知られています。
「誰に、何を、どのように(独自能力によるアプローチ方法を含む)」を再定義/再認識することになります。これによって、市場の長期的なニーズを反映し、同時に、自社が競争上の差別的優位性を発揮できる分野を特定化しようということです。図2の①と②によって「戦略ターゲット」を決める。②と③によって市場戦略(製品や技術開発戦略も含む)を定め、①と③によって流通・営業戦略を決める…という“ つながりが担保された戦略” を策定していくことが可能になるはずです。

①~③を決める過程で、①と②にも各種課題は存在するのですが、特に最近気になるのは③に関すること。「いきなりSWOT 分析をしたのではないか?」と感じられてしまうような③が多いように思われます。独自の「強み」というよりは、既存事業や保有技術の中だけ、かつ、これまでの事業活動において「相対的に得意なこと」に閉じてしまっているような場合です。弱電系の大手電機製造業の敗因の1つとして、考えることができるのではないでしょうか。(※「いきなりSWOT」については、また別の機会に書かせていただきます。)

改めて言うまでもなく、戦略は「これからのこと、これからのために」を考えるものです。極端にいえば、③は「これから新たに身につけていくべきもの」でなければならない場合もあるでしょう。③ について既に確固たるものをもっている、あるいは事業利益創出のドライバーとして認識している企業は、その部分について積極的な投資をしています。

国内でいえば、アマゾン・ドット・コムを筆頭に、楽天やネット以外も含む通販事業者の勢いを増す物流関連投資、従来は物流事業者を活用していた小売事業者の物流機能の取り込みなどがわかりやすい事例でしょう。反対に、中間財を扱う製造業などで気になるのは、従来の②、③のまま、①を「国内顧客が海外にシフトしているため付いていく…」というようなパターン。海外売上高比率が高くても、「顧客は日系企業ばかり…」という企業も少なくないようです。「ホームで勝てずにアウェーで勝てるのか…」が心配になる場合があります。

「戦略を考えるためにはまず事業の定義、その目的から」という月並みな結論のため、読者のみなさんには、「アンゾフではなく、エイベル(ドメイン)だな」という印象が残ってしまうかもしれません。そこでアンゾフのフォローを。

上述で紹介した本の中には「市場ニーズ×製品/サービス技術×市場地域」(それぞれを「現在」と「新規」に区分)の3 次元マトリックス図も紹介されています。このマトリックスの観点は、ドメインのそれと重なるものであり、より「先のこと」を意識して思考することを補完してくれることでしょう。