【事例紹介】三菱UFJニコス株式会社 社内教育機関と⼈材育成プログラムを活⽤した ⼈材の育成・教育の仕組みづくり

はじめに

若⼿社員を、プロとしての責任感を持ち、⾃律的に成⻑し続ける⼈材へと育成することは、多くの組織が実践したいと願う目標ではないでしょうか。

そこで今回は、三菱UFJニコス株式会社⼈事部⼈材戦略推進室⻑の⽔野朗⼦様をお招きし、社内教育機関と⼈材育成プログラムを活⽤した若⼿社員および階層別⼈材育成の仕組みづくりについてお話をうかがいました。
  • 本編は2012年3⽉6⽇の学校法⼈産業能率⼤学主催「昇進・昇格制度と連動した通信研修の活⽤」フォーラムにてご講演いただいた内容を編集したものです。

総合カードビジネスNo.1を目指す三菱UFJニコス

三菱UFJニコスはクレジットカード会社として現在、MUFGカード、DCカード、UFJカード、ニコスカードという4つのブランドのカードを発⾏しています。

カード会社の規模、顧客基盤の規模、そのどちらも国内最⼤級を誇っており、総合カードビジネスNo.1という経営ビジョンを掲げています。このビジョンを背景に、新しく⽴ち上げました社内教育機関と、社員に対する教育プログラムについてご紹介させていただきます。

社内教育機関 MUNアカデミーについて

全社員の能⼒アップに向けた社内教育機関の設置

当社では「プロ意識、強い責任感のもと職務を全うできる⼈材」「⾃ら成⻑し続けることのできる⼈材」を、求める⼈材として定義しています。

そうした⼈材を育てるための仕組みづくりと機会の提供こそが、私たちに与えられたミッションと捉えています。

ミッションの遂⾏にあたり、2011年9⽉に全社員の能⼒アップを目的とした『MUNアカデミー』という社内教育機関を⽴ち上げました。対象社員は新⼊社員から職位者までの全社員であると同時に、教え⼿も全社員です。

会社のビジネスに関して知識を持っている⼈が持っていない⼈に教える、すなわち会社全体が⼀つの『MUNアカデミー』として機能する体制となっています。

社員の専門性・戦略性・⼈間性を重点的に開発

『MUNアカデミー』での重点開発ポイントとして、「専門性」「戦略性」「⼈間性」という3つの軸を設けています。

専門性 : 業務上必要な知識・スキルの強化

専門性とはクレジットカードビジネスのプロという意味での専門性です。
業務品質の底上げに必要な基礎知識およびスキルの強化、さらには競争⼒の源泉として特定部門に求められる知識・スキルの強化を図ります。

戦略性 : 戦略/マネジメント⼒強化

戦略思考やリーダーシップ、マネジメント、⼈材育成⼒といった能⼒の強化を図ります。 ただし、マネジャーになってから⾝に付けるのではタイミングとして遅いので、これもやはり若⼿の頃から少しずつ教えていくという形で、能⼒強化を図っています。

⼈間性 : 新たな企業風⼟の醸成

総合カードビジネスNo.1という⼤きな旗を掲げる当社にとって、社会から尊敬される企業となることは⼤きな命題です。そのためには、社員個々⼈も尊敬される⼈物でなければなりません。
そうした考えのもと、カスタマーフォーカス、全社目線、業務のプロとしての⾃覚、さらには主体性の醸成に向け、講演会・対話などを導⼊しています。

MUNアカデミーにおける⼈材育成⽅法

『MUNアカデミー』における⼈材育成⽅法は⼤きく3つに分けられます。

  1. 全社員に対して等しく⾏う全社研修で、これには年次別の研修や階層別の研修、リスクに関する研修、さらには⼈間性の教育などが含まれます。
  2. 業務研修で、こちらは階層に応じて必要な部署の⼈、必要な仕事をしている⼈を教育していくという仕組みになっています。
  3. ⾃⼰啓発として導⼊している通信教育やeラーニングです。

⼈材開発プログラムについて

若⼿社員の⾃⼰能⼒開発を目的とした育成プログラム

当社では、アカデミーを⽴ち上げる約1年前にあたる2010年10⽉より若⼿社員の⼈材育成を目的とした『⼈材開発プログラム』を導⼊しています。

⼊社1年目から13年目の能⼒開発を強化するという位置づけのもと、OFF-JTをメインとしたつくりになっています。
プログラムの導⼊にあたって、若⼿社員を対象に「どういう教育を受けたいか?」という社内アンケートを取ったところ、「⽇常業務の中で教わるには限界のあるビジネススキルを学びたい」という声が目⽴ちました。

そこで『⼈材開発プログラム』では、ビジネススキルに関するテーマを数多く取り上げることにしました。

プログラム設計の意図としては、「ビジネスモデル変⾰と成⻑戦略を担う競争⼒のある⼈材の⼟台づくり」「若⼿社員の成⻑意欲に応える育成体系の整備」「⾼いモチベーションを持った⼈材の育成」の3つを意識しています。

対象層の⼊社1年目から13年目の基準は、⼊社年次(社会⼈歴)です。
例えば、中途採⽤で⼊社したばかりの社員でも社会⼈歴20年目であれば対象外となります。
会社によっては主任や係⻑といった役職で区切られているところもありますが、当社では⼊社年次で区切って、⼊社から(あるいは社会⼈となって)3年経ったらこれくらいできるようになってほしい、5年目ならこれくらい、10年目ならこれくらい、といった目標を明⽰しています。

それにより、⾃分に与えられた1年間という時間の使い⽅と、部署や役職にかかわらず⾃⾝のキャリア開発を考えてもらうことを意図しています。

多様な習得機会の提供

もう⼀つ『⼈材開発プログラム』を導⼊する際に⼯夫したのが、多様な習得機会の提供です。

社員が置かれている環境はさまざまです。
とても忙しい拠点にいる⼈もいれば、すでに結婚してお⼦さんがいらっしゃる⽅もいる、そうしたすべての社員が⾃⾝の都合に合わせて教育が受けられるよう、⼀つのビジネススキルについて必ず集合研修、通信教育、eラーニングという3つの学習⼿法を⽤意し、⾃分が学びたい形で学べるようにしています。

目標に応じた3段階の教育プランを設定

『⼈材開発プログラム』においては、目標に応じて3段階の教育プランを⽤意しています。

第1段階は⼊社してからの3年間です。

ここでは、意識・スキル両⾯の⼟台づくりとして、すべての科目を必修として学んでもらっています。

具体的には、社会⼈基礎⼒の習得を目指す新⼊社員研修、意識・精神⼒の強化を図る2年・3年次集合研修、またCS、法務、マーケティングの基礎知識習得、論理的思考⼒や数字⼒の向上を図ります。

通信教育と集合研修をセットとした研修が繰り返し⾏われ、年間を通じたプログラムとなっています。

第2段階は4〜13年次が対象です。

すでに⼟台づくりは終わったものと⾒なし、⾃主的なスキルアップを⽀援するための機会提供に留めています。取り組むか取り組まないかは個⼈の任意ですが、履修履歴はすべてキャリアとして⼈事データに記録しています。
具体的なプログラムについては⼤きく公募研修と通信教育に分かれ、⼀部eラーニングも活⽤しています。

  • 公募研修については、マーケティング⼒・数字⼒強化、財務会計の知識習得、またセルフマネジメントなど、モチベーションアップを目的とした内容が中⼼になっています。
  • 通信教育については、産能⼤をはじめとして各社に協⼒をいただき、マーケティングや経営戦略、論理構築⼒養成など、約200講座を⽤意しています。
  • eラーニングについては、約20講座を開講。年間を通じて、いつでも好きなときに始められる状態にしています。

第3段階は、第2段階の最後の3年間と並⾏して⾏うものです。

第2段階での学習状況を⼈事部で把握し、次世代のリーダーとなり得る⼈材をピックアップして、集中的に能⼒開発を⾏います。
具体的には、中堅リーダー研修として経営幹部候補者向けの選抜教育を実施する⼀⽅、三菱UFJフィナンシャル・グループ内の銀⾏やその海外⽀店への出向、トレーニー派遣、カードビジネスで関係する異業種他社様への派遣を通じて、さまざまな経験を積む機会を設けています。

なお、選抜に関して補⾜しますと、学習履歴のみで決定するわけではありません。
基本的には、目標とした能⼒が求められる年次までに⾝に付いていれば学びの⼿段や形は問いませんし、多く受講しているとしても、それに⾒合った能⼒が発揮されているかどうかを確認のうえ、総合的に判断して選抜を⾏っています。

今後の課題

「⾃分も部下も仕事が忙しくて育成に⼿が回らない」といったマネジャー階層の声をよく聞きます。限られた時間と関わりの中、実務以外の観点で⼈を育てるというのはなかなかに難しいようです。

また、⼈を育成していく意識というのは、⾃分に余裕がないと⽣まれないものでもあります。マネジャーが育成に専念できる、あるいは無理をしなくても育成ができる仕組みづくりを進めていくことが今後の課題と考えております。

また、成⻑することが⾃分にとってどれほど楽しいことか、あるいは周りの⼈を幸せにできるかを社員⼀⼈ひとりが考え、そしてイメージできる仕組みを模索していきたいと思います。

(2012年3⽉6⽇公開、所属・肩書きは公開当時)