【事例紹介】萩原電気株式会社 ポイント制度を基幹とする通信教育と昇格制度の連動

はじめに

昨今、通信教育を昇進・昇格制度と連動させることで、⾃⼰啓発意識の定着と受講率の向上を図っている企業が増えています。

そして、萩原電気株式会社 ⼈事部⼈材開発グループの森嶋伸幸様より、通信教育と昇格制度の連動、さらには制度を円滑に機能させる仕組みづくりについてお話を伺いました。
萩原電気株式会社 ⼈事部⼈材開発グループ 森嶋 伸幸 様
  • 本編は2011年11⽉22⽇の学校法⼈産業能率⼤学主催「昇進・昇格制度と連動した通信研修の活⽤」フォーラムにてご講演いただいた内容を編集したものです。

業務内容と⼈材育成の位置付け

当社の事業は、⾃動⾞⽤をはじめとする各種電⼦デバイスの販売・開発を⾏うデバイス事業、コンピュータを中⼼とした電⼦機器の販売・各種システムインテグレーションを⾏うソリューション事業、⾃社製品(産業⽤コンピュータ)の開発・製造を⾏う開発⽣産事業の3つに⼤きく分かれています。エレクトロニクスという括りでは同じですが、業務内容が異なるため、教育ニーズも幅広いものになっているのが特徴です。

当社では⼈材育成を経営の重要課題と位置付けています。特に若⼿社員の定着と⾃⽴に主眼を置き、⼊社から6年間を育成期間とし、実務を通じた計画的な育成を⾏っています。
具体的には⼊社から3年間を定着期、次の3年間を⾃⽴期と捉え、先輩社員や管理職によるOJTを実施。その際、先輩社員にはOJTトレーナー、管理職にはOJT責任者という役割を与えることで、若⼿育成を⾃分の役割として認識させています。
なお、若⼿育成にあたっては、その⼿法を学ぶためのOJTトレーナーおよびOJT責任者研修を実施しています。

⼈事制度との連動に⾄る通信講座制度の変遷

当社が通信教育を導⼊したのは1991年でした。通信教育の有益さを知ってほしい、そのためにはともかく受講してみてほしい、という思いから始めたので、講座もマネジメントやビジネススキルなどのほか、旅⾏や書道といった仕事とは直接関係のないものも多く取り⼊れ、受講料も全額会社負担としていました。

それでも受講する社員は少なく、数⼗名からのスタートでした。その後、受講者をもっと増やしたいと、1999年に社内での聞き取り調査を⾏いました。
その結果、“受けたい講座がない”といった声が多く寄せられたのをきっかけに講座の⾒直しを実施。技術系や⽣産・物流系に関わる講座を加え、より幅広い選択肢を⽤意しました。さらに費⽤⾯も⾒直し、業務関連のみ全額負担、そうでないものは少しずつ会社の負担割合を減らしていきました。

そして⼈事制度との連動を開始したのが2001年です。受講率を上げたいという思いもありましたが、⼀番の目的は“⾃ら学び成⻑することを企業⽂化として根付かせる”ことでした。

ただし、社員に「会社から強制されてやる」と感じてほしくありませんでした。
そのため「受講を強制しない」「社員の負担感を抑える」「継続して学習する風⼟をつくる」という3つの課題を設けたうえで、制度づくりに取り組みました。

【制度設計1】ポイント制度の導⼊

当社は非管理職に職能資格制度を導⼊しており、制度設計では、まず⾃⼰啓発によるポイントの取得を昇格の必要要件としました。

例えば等級が2級の社員の場合、3級に上がるためには3ポイントを取得しなければなりません。ただし滞留年数を3年と設定していますので、1年に1ポイント取れればよく、負担は⼤きくないようにしています。ちなみに3年間で4ポイント、5ポイントと取っても等級が上がればリセットされてしまうので、等級を上げるためには継続してポイントを取っていかなければならない仕組みになっています。

【制度設計2】ポイント取得⽅法

では、ポイントは何をすれば取得できるのかということですが、これには少し幅を持たせて3つの⽅法を⽤意しました。必須でどれかを受講させるわけではなく、負荷などを⾃分で考慮して選べるよう、ポイント取得⽅法を多様化することで、社員が⾃由に選択できるようにしたものです。

(1)通信講座の修了

認定コースとして282コースを⽤意。
各コースを修了することでポイントを付与しますが、受講期間により取得ポイント数に差をつけています。コースの受講期間によって1~3ポイントとなっています。

(2)資格の取得

当社では業務の性格上、情報処理系の資格が不可⽋になります。 “いろいろな資格を持っていないと仕事ができない”という実情を踏まえ、ポイント取得の対象としています。なお、ポイント数は資格の難易度によって1~4ポイントとしています。

(3)実務論⽂の提出

当社では毎年、実務論⽂⼤会の募集を⾏います。
優秀論⽂には表彰を⾏っていますが、まずは実務によって得られた経験を論⽂にまとめて応募することに対してポイントを付加しています。
(1)~(3)の組み合わせで社員はポイントを取得します。
モデルケースとしては、通信教育を受講し知識を習得のうえ、資格を取得、さらにそれを実務に活⽤し、論⽂を提出して、必要なポイントを計画的に取得します。

【制度設計3】現状のフィードバックによる動機付け

制度の設計にあたっては“強制しない”という課題を設定したと前述しました。
通信教育は毎⽉申し込むことができ、資格もどの季節に受験するものでも申し込みは⾃由で、通年、いつポイントを取ってもかまわないことになっています。そのうえで、どのように社員のモチベーションアップを図っているかについて紹介します。

⼀つには、年2回の⼈事考課結果フィードバック時に、その時点での取得ポイント数を上司から本⼈に通知するようにしています。その際、ポイント取得状況の話や、今後受講を考えているものについての話をしてもらっています。

もう⼀つ、通信教育修了時に発⾏する修了証を、朝礼の場などで上司が⼿渡しするというルールを設けています。そうすることで、本⼈は「やった︕」と思いますし、周りは「⾃分もやらなきゃ」という動機付けにつながります。

通信教育を活⽤した管理職登⽤制度

当社では、基本的には受講するコースは⾃由ですが、管理職への昇進要件の⼀つとして、1コースだけ受講講座を指定しています。管理職という⽴場になると、仕事の質や内容が⼤きく変わるからです。

管理職として必要な知識に「経営戦略」「マーケティング」「財務・会計」「⼈材マネジメント」を挙げ、産業能率⼤学さんにこれらを4ヵ⽉で学べるオリジナルコースをつくっていただきました。

通信教育の活性化に向けた取り組み

毎年のコース⾒直し

コースの⾒直しにあたっては、⼤きく「経営⽅針・事業戦略」「社員からの要望」「新コース」「社員の受講状況」という4つの視点で⾏っています。

その中で特に重視しているのが「経営⽅針・事業戦略」です。
経営環境が激しく変化しており、経営⽅針の基本となる中期経営計画も毎年⾒直しされています。
そこに⽰される事業戦略に応じたコースの⾒直しは各職場でも好評です。

使いやすいガイドブックの作成

コースを選択しやすいよう、階層別にマッチするコースがひと目でわかるような⼯夫をしています。

他の教育制度と連動した受講促進

若⼿育成のためOJT研修を実施している先輩社員へのフォローとして、研修修了者を対象としたコーチング⼊門講座を⽤意しています。

毎年、研修後に講座の案内をするのですが、モチベーションが⾼まっている状態なので、そのまま受講する社員が⼤勢います。

また当社ではTOEICの受験を推奨しており、受験者のためにTOEICの対策講座も⽤意しています。

申し込みの簡素化(Webを使ったエントリーシステム)

今年度からWebを使った申込システムを導⼊しました。
これには申し込みが簡単になる、各コースの詳細内容を容易に閲覧できる、ガイドブックの作成・配布が不要になる、といったメリットがあります。
しかし⼀⽅で、ガイドブックが社員の⼿元にないことから、⾃⼰啓発意識が薄れるというデメリットが⽣じます。その対策として、イントラネットを活⽤した定期的な情報提供により、⾃⼰啓発意識が薄れないようにしています。

内定者教育への通信講座活⽤例

当社では内定者教育にも通信教育を活⽤しています。ビジネスマナーや「働くとはどういうことか」などについて学んでもらい、「私はこう思う」といった⼼構えのようなものを提出してもらいます。

特徴としては、提出物を教育機関ではなく直接当社に送ってもらい、⼈事担当者⾃らフィードバックを⾏っています。内定者にとっては、仕事をする・社会⼈になることに対する意識向上につながり、会社側としては、合格から⼊社までの期間に内定者が抱える不安の払拭と帰属意識の形成に役⽴つと考えています。

通信教育と⼈事制度連動の段階別アドバイス

最後にまとめとして、通信教育と⼈事制度の連動に⾄るさまざまな段階にある企業様へ、私どもが各段階で注意したこと、うまくいったことをお伝えしたいと思います。

まず、これから通信教育を導⼊される企業様には、受講を強制するよりも“とりあえずやってみようかな”と思わせるような緩やかな導⼊をおすすめします。

次に、⼈事制度との連動を検討されている企業様には、通信教育を必須にするより、選択肢の⼀つとして社員が⾃分に合った⾃⼰啓発を選べる仕組みづくりをおすすめします。

結果的には、そのほうが通信教育への関⼼が⾼まるように感じています。

最後に、活性化や風⼟として根付かせる⽅法を模索している企業様へ。基本的には⾔い続けるという形しかないかなと思っています。ただ、⼈事部から⾔うばかりではなかなかうまくいきませんので、⼈事考課⾯談やOJT⾯談などの場を利⽤して上司や先輩から指導・アドバイスするなど、職場内でうまく機能させることで良い効果がもたらされると思います。

以上、何か⼀つでもニつでも皆さまのお役に⽴つところがあれば幸いです。

(2011年11⽉22⽇公開、所属・肩書きは公開当時)