【事例紹介】株式会社リコーの"元気のいい会社"をつくる⼈材マネジメントシステム

はじめに

キャリア形成の促進の取り組みがテレビ・新聞などで報道され、注目を集めている株式会社リコー様。
社員⼀⼈ひとりが⾼い目標にチャレンジする“やる気のサイクル”をまわす⼈材マネジメントシステムを構築し、これと連動した研修を推進することで、学習する職場づくり(元気のいい会社づくり)を展開中です。
そこで今回は、⼈事制度や⼈材育成に携わる株式会社リコーのヒューマンキャピタル開発部⻑である橋本知明様にお話を伺いました。
株式会社 リコー (リコービル)

  • 本編は2008年11⽉7⽇の産業能率⼤学主催の『組織変⾰を実現する⼈材育成の新たな潮流』フォーラムにてご講演いただいた内容を編集したものです。

株式会社リコー プロフィール

創 業 1936年(昭和11年)
本 社 〒104-8222 東京都中央区銀座8-13-1 リコービル
代表者 代表取締役社⻑執⾏役員 近藤 史朗
資本⾦ 1,353億円(2008年3⽉31⽇現在)
事業内容 複写機器、情報機器、光学機器、その他
従業員数 83,400⼈[連結](2008年3⽉31⽇現在)

ファイヤーの精神で「元気な会社」であり続ける

弊社は1936年、理化学研究所が発明・開発する感光紙の製造販売を担う理研感光紙株式会社としてスタートしました。およそ70年を経て、現在グループ企業318社、約8万3,000⼈の社員数です。株式会社リコー単体では約1万1,000⼈強となっています。

中期経営計画のグループビジョンとして、「21世紀の勝利者」を目指し、『元気のいい会社』というビジョンを掲げています。

「元気のいい会社」とは、ベースには企業・組織として、業績を⾼め続ける「戦う組織」であること、そして能⼒がスパイラルにアップしていく環境にある「常に学習する組織」であることの、2つの軸を設けて、組織を活性化していこうというものです。

そのためには、まず組織でビジョンの共有ができていることと、社員⼀⼈ひとりが非常に⾼い目標にチャレンジするという体質が必要であると考えています。ビジョン実現のため⾼い目標を設定し、その成果をきっちりと捉え、そして、公正な評価・処遇を⾏うことで「元気のいい会社になっていこう」ということです。

そのベースとなる⾏動様式として、桜井前社⻑(現会⻑)は、「ファイヤー」という⾔葉で伝えておりました。

ファイヤーというのは、狩り・狩猟です。要は狩猟するときに、新たな獲物をどうやって⾒つけるかというところから始まるわけです。

⾒つけるためには何か⾏動しなければならない。スピーディーに⾏動し、撃つ。獲物が⾒えたら、そこで素早く軌道修正をしてさらに次の実践をしていく。それによって、だんだん⾼い目標にチャレンジしていく⾏動⼒、実践⼒をつけていこうということです。

成⻑する「元気のいい会社」であるためには、こうした『ファイヤー⽂化』を⼤事にすることが重要であると私どもは考えております。

成⻑戦略実現に向けての課題とは

リコーグループがさらに成⻑していくために、私たちは⼈材マネジメントシステムの改⾰に取り組んできました。狙いは、⾼い目標を掲げ達成できる『元気のいい会社』をつくること。

そのためには「成⻑戦略を実現するために必要な能⼒と活⼒を備えた組織」「社員⼀⼈ひとりの“やる気のサイクル”が円滑にまわっている組織」の実現が急務となります。

“やる気のサイクル”というのは、先ほど述べたファイヤーの精神で、⾼い目標を⽴てて、それにどんどんチャレンジして成果を⽣み出していくことです。そのような競争⼒ある企業体質を構築していくための課題としては、以下の3点がありました。

1は、事業ごとの成⻑シナリオの中でキーとなる⼈材を明確にしながら、それを育てる仕組みを充実させようということ。

2は、成⻑を⽀える社員⼀⼈ひとりの徹底すべき⾏動様式を明⽰することにより⾏動⼒、実践⼒を強化してくということ。

3は、それぞれの社員が⾃律的にチャレンジし、⼀⼈ひとりが⾃⼰研鑽しながらスパイラルアップし能⼒を上げていく、そんな体質をつくりたいということです。

企業規模の拡⼤により、社員⼀⼈ひとりの仕事が細分化されていきます。⾃分の目標をいかに達成するかということに精進するあまり、⾃分の殻の中で⾃⾝の論理だけで動くという世界に陥りがちです。

それをどう打破するか。

要は、外を⾒ることが⼤切です。⾼い競争意欲を持ち、⾃ら目標を⽴てていくという意識を持ってもらうことです。

そうしてメンバー⼀⼈ひとりが活躍することによって組織は強化され、学習する組織、成⻑し続ける組織になっていくだろうと考えます。

成⻑戦略のキーとなる7つの⼈材タイプ

成⻑戦略の実現のための企業活動として、お客さまへの価値をどう⾼めていくかという顧客価値創造と、超低コスト体質などを目指した⾼効率経営という2つの⼤きなテーマがあります。

ソリューションプロバイダーへの変⾰であったり、プリンティング事業の拡⼤という側⾯と、⾼効率ということでは、より競争⼒のあるコスト体質をつくっていくという側⾯があり、その実現にはさまざまな知恵やアイデア、英知の結集が必要です。

そこで、この成⻑戦略実現のために必要な⼈材とはどういう⼈たちかを、当時のタスクフォースのメンバーが調査をして分類してみたところ、結果的に「成⻑戦略実現のキーとなる7つの⼈材タイプ」が次のようにはっきりしてきました。

  1. ビジネスリーダー(事業トップ)
  2. ビジネスリーダー(機能トップ)
  3. 新規事業創造リーダー
  4. プロフェッショナル
  5. ⾼度スペシャリスト
  6. プロジェクトマネジャー
  7. マネジャー
こうした多様な⼈材をつくるには、従来のような単⼀な制度や⼈事の仕組みでは無理であり、さまざまな⼯夫が必要になってきます。

従来より、弊社では総合職や⼀般職といった職種・職能によって分けた雇⽤はしておらず、本社スタッフも営業担当も、技術開発担当も製造担当も同じ⼀つの⼈事制度、同じ資格制度、評価制度の中で動いてきました。

そこで7つの⼈材タイプのキャリアイメージをもとに、タイプ別⼈材マネジメントシステムへの変⾰を考えてきたわけです。マネジメント志向とスペシャリスト志向の流れに分かれる複線型の⼈材マネジメントを打ち⽴てたのです。
こうした7つのタイプの⼈材をどう育てるのか、また、どう格付けし処遇していくか。そのベースに複線型の資格格付けの体系化を⾏いました。

世の中でいわれる係⻑級から課⻑級への昇格の際に、マネジャー系でいくのか、スペシャリスト系でいくのかを⾃⼰申告してもらった上で昇格審査を受けるようにしました。

昇格審査では2つの審査⽅法を設けましたが、課⻑級の格付けとしては2つには分類しません。課⻑級では、まだまだ幅広い経験が必要です。ある時はスペシャリティ分野を突き詰め、ある時はマネジメントも経験するだろうということです。

しかしながら、部⻑級への昇格時には、明らかに2つの資格に分けるようにして、明確に⾃分の役割を認識したキャリアパスを実現すべく、現在は運⽤を始めているところです。

⼈材マネジメントの新たなプログラム

この7タイプの⼈材輩出に向けては、「⽅向付け」「育成」「評価・処遇」という3つの視点からプログラムを設定しています。

「⽅向付け」ではキャリアパスの明確化を図るプログラムの充実があります。
キャリアパスを明⽰した育成計画に基づいて目標を設定し、現場のマネジャーが部下と⾃分のキャリアの⽅向付けをしていくことによって、将来の⾃分の⽅向を明確にするというものです。

会社が⾃分のキャリアを引いてくれるということではなく、⾃分がどういう⽅向に⾏きたいか、もしくはリコーの事業の中で⾃分はこういうことで貢献したいという⾃律的な意識の形成を促すことが重要と考えています。

それにより、実際にロールモデルが次々とできることによって、先輩の姿が若⼿社員の規範になっていくのが理想です。

「育成」という⾯では、⼈材タイプの特性に応じた経験や教育の場を提供することが⼤切です。

教育としては、7つの⼈材タイプごとに育成プログラムを設け、リーダー育成やマネジメント強化、スペシャリスト育成などに細分化して、セミナーやトレーニングプログラムを組んでいます。

また、キャリア開発のための⽀援プログラムを⽤意し、社員が⼈⽣の中の節目ごとにキャリア形成の意識徹底を図るということもしています。

⼈材育成に関しては、弊社でも5年ほど前から「幹部候補育成」として取り組んでいます。スタート当初は各部門から数⼗⼈を部門推薦により選んで、育成プログラムを実施する仕組みでした。

今は、各事業部ごとにもキーとなる⼈材候補を選抜し、⾃部門で教育をしたり、⾃部門の事業部の中で多様なローテーションに着⼿しています。

世代別キャリアデザイン研修で新たな刺激を感じてもらう

キャリア開発⽀援についてお話ししますと、「研修だけをやっていればいいのか」という議論になりがちです。

実は、技術者向けキャリア開発⽀援のために、キャリアデザイン研修を10年以上前にスタートしていますが、⼈事の枠組みの中で研修と育成の仕組みをセットでやることのほうが効果的だということで、現在はわれわれ⼈事部門が受け継いでいます。

毎期ごとの目標設定・評価⾯談の際に、育成を考慮した⾯談を併せて実施する。またはキャリア開発をサポートするキャリアカウンセリングを⽤意する。マネジャーに対する部下育成スキル向上の教育を⽤意するなど、⼀貫した形で取り組んでおります。

現在、研修で展開しているのは、⾃⼰ニーズ(⾃分は何をしたいのか)と組織ニーズ(組織から⾃分は何を期待されているのか)をうまく統合したキャリア目標と達成のためのアクションプランを⽴てることです。

これを30歳、40歳、50歳と各世代別に⾏っています。当然それぞれの年代でステージは違いますから研修の目的も異なります。

この研修は、同世代が1泊の宿泊研修として⾏うことで相互のコミュニケーションを⽣み出しています。

メンバーとのさまざまな違いを感じ取ってもらうことで、将来のキャリアや組織内で⾃分の存在感をどう出すかといったことを考えてもらうのも重要であると感じています。

特に50歳代の研修では、さまざまな経験を重ねた同期の集まりみたいなものなので非常に盛り上がっていますね。よい刺激になっているようです。

そうした意味では、ちょっと仕事を離れて、少し距離を置いて会社や⾃分を⾒つめるということでは意義があるのかなと思っています。

キャリア形成の⽀援など⼈材マネジメントのシステムも、企業活動の変⾰期にこそやらなければそのままになってしまいます。

こうして⼀つ⼀つを着実に仕組みとして整備することにより、少しずつですが個⼈も組織も変わるし、活性化にもつながるものと信じ取り組んでおります。

その⼀つの例として、弊社の取り組みについてお話しさせていただきました。

(2008年11⽉7⽇公開、所属・肩書きは公開当時)