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  3. 「自分で考えて」が伝わらない。新入社員の“考える力”をどう育てる?

事例・コラム

プロフィール

  • 中田 学

    中田 学

    学校法人産業能率大学
    経営管理研究所 研修プログラム開発センター
    1977年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、学校法人慶應義塾、株式会社ネットラーニングを経て、2005年に学校法人産業能率大学に入職。通信研修の基幹システム開発、集合研修の企画提案、請求書電子化のプロジェクトマネジメント等を担当し、2024年4月より現職。研修プログラムの開発を通じて、「人と組織」の課題に向き合っている。東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース修士課程修了(教育学修士)。

突然ですが、皆さんの職場の新入社員について次のような行動や振る舞いを目にしたことはありませんか?

  1. 上司や先輩が「いつでも聞きに来てね」と言っても、なかなか自分から報告・連絡・相談をしてこない。
  2. 新入社員研修での発表内容に不明な点があったので「それってどういうことかな?」と講師が突っ込んだら、「圧をかけられた」と思い込んでしまう。
  3. 「これってどう思う?」と新人に意見を聞こうとしたら、「今の質問についてチャッピー(ChatGPT)に確認したんですが・・・」と生成AIの回答結果をそのまま報告する。
  4. 入社面接時には「御社で成長したい!」と言っていたので、非定型的な業務を「試しにちょっとやってみてくれないかな」とお願いすると、「やり方がわからないですし、私だと周りに迷惑をかけるんで」と断る。

これらは、本学が実際に企業の人事担当者からお聞きした内容や、新入社員研修で観察された様子をもとにした事例です(表現や内容は一部変更しています)。これらの事例からは、「自分から報連相できない」「批判への耐性のなさ」「AIへの過度の依存」「未知の仕事への恐怖心」などがうかがえますが、実はこれらには「自分が置かれた状況を整理し、自分で考えたうえで次の行動を選ぶことへの不慣れさ」という共通点も見いだせます。

では、仕事における「自分で考える」とは、具体的にどのようなことなのでしょうか。
本記事では、Z世代と呼ばれる新入社員の行動原理を押さえたうえで、新入社員に求められる「考える力」を整理し、それを職場や研修でどのように育てていけばよいのかを考えてまいります。

Z世代の行動原理を理解する

まず押さえておきたいのは、自分から報連相できない、質問されると「圧が強い」と受け取る、生成AIの答えをそのまま上司に伝える、といった新入社員の行動や振る舞いを、「主体性がない」「打たれ弱い」、あるいは「考える力がない」といった一言で片づけないことです。

これらの行動や反応の背景には、Z世代に顕著な「正解」をいち早く知りたいという欲求が潜んでいる可能性に目を向けていただきたいと思います。
より厳密に言うと、「失敗したくない」「間違った選択をしたくない」という心理です。この「失敗したくない」という心理がZ世代の行動原理として根強くあることを前提に、この世代への接し方や育成方法を考えていきましょう。

「失敗しない」ことを最優先する世代

Z世代はデジタルネイティブであり、10代前半でスマホを持ちはじめた人も多く、リアルタイムで多種多様な情報に囲まれて育ちました。大学選びや就職活動はもちろん、映画やドラマを観る際でも、事前にネタバレサイトで結末を確認したり、1.5倍速で視聴したりして『時間やお金を無駄にしたくない』という感覚を内面化しています。
つまり、この世代の行動原理の根幹には『失敗したくない』『間違った選択をして損をしたくない』という強い防衛本能があります。一見、主体性がなかったり、他責的に見えたりする行動もこの『失敗回避マインド』を踏まえると、大変理に適っているといえます。

特に、社会人としての経験がまだ少ない新入社員にとって、仕事の優先順位や周囲への影響、相手の期待、職場の暗黙知といった判断基準が十分にない中で、『自分で考える』というのは、ある種『無理ゲー』なのかもしれません。そうした無理ゲーを強いられるくらいなら、『何もしない』ことが、むしろ合理的です。
自分から報連相をすると、上司や先輩が求めていない内容、つまり『間違った内容』を伝えるリスクがありますが、報連相をしなければそのリスクはゼロです。上司から自分の意見を求められても、『間違った内容』を伝えるぐらいなら、生成AIの答えをそのまま伝える方が、リスクが低く合理的です。ましてや、やり方もよく分からない仕事に「自分で考えて」取り組むなど、『もってのほか』としかいえません。

「失敗はしたくない」が、学ぶ意欲が低いとは限らない

しかし、Z世代の当人たちにしても、いつまでも『失敗回避マインド』のまま、周囲とのコミュニケーションを控えたり、今の自分に出来る仕事だけこなして、この先のキャリアを歩んでいけるとは思っていません。
むしろ、周囲とのコミュニケーションや、社会人になってから学び続けることの重要性は、新入社員自身が強く認識しており、そうした新入社員の『本当の思い』は、本学の調査結果にも表れています。
2026年度 新入社員の会社生活意識調査結果」では、「今後の仕事において、特に伸ばしたいと思う能力はどれですか?(当てはまるものをすべて選択)」(N=500)という設問に対して、1位が「コミュニケーション力」(31.0%)、2位が「自ら学び続ける力」(27.2%)という回答結果でした。

つまり今の新入社員は、『失敗はしたくない』という思いを抱えながらも、同時に『コミュニケーション力を高めて、自ら学ぶ力を身につけたい』という前向きな意欲も、確かに持っているのです。
新入社員の育成がなかなかうまくいかないとき、いきなり『あの手この手の施策』を講じるのではなく、まずは『失敗は嫌だが、成長はしたい』という複雑な二面性、リアルな心情を理解することから始めてみてください。

上司や先輩は「正解を丁寧に教える」よりも、新入社員とともに「課題に向き合う」

さて、『失敗したくない、でも成長はしたい』。この一見矛盾するような二面性を持つ新入社員に対して、有効なアプローチとは何でしょうか。それは『最初から正解をすべて教えること』ではありません。
実は、先ほどご紹介した本学の調査でも、新入社員が『働くうえで上司や先輩に期待すること』の第1位は『実践前にやり方や手順を細かく教えてくれること』(38.0%)です。Z世代が何よりも先に知りたいのはやはり「正解」なのです。

しかし、この「正解」こそが新入社員の中長期的な成長にとっては、むしろ厄介な罠なのです。

なぜならビジネスを取り巻く環境や、常識は刻一刻と変化するからです。上司や先輩は、確かに経験や知識は豊富かもしれません。
しかし、『昨日までの正解が、明日も正解であるとは限らない』のが今の時代です。
だからこそ、育成する側の本当の役割は、正解のテンプレートを配ることではありません。新入社員と一緒に目の前の課題に向き合い、新入社員自身が『自分なりの考え』を持てるように、粘り強く支援することにあります。答えが一つではない不確実な状況でも、周囲の背景や期待を汲み取りながら、新入社員自身が『自分の考え』を『自分の言葉』で口にする。この小さな一歩こそが、指示待ちやAI依存から脱却し、『自分で考える力』を身に着ける出発点になります。

上司や先輩から受け取ったテンプレートは、時代が変わればすぐに陳腐化するでしょう。
しかし、上司や先輩と一緒に泥臭く課題に向き合い、『自分なりの考え』を作り上げた『思考のプロセス』は、簡単には陳腐化しません。

このプロセスから得た学びこそが、新入社員がこれから着実に成長していくための、揺るぎない土台となります。

では、新入社員が「自分で考える」ための有効な支援とは具体的にはどのようなアプローチなのでしょうか。

「考える力」は、一人で正解を出す力ではない

「考える力」と言われると、誰にも頼らず、自分一人で正解を導き出すことをイメージするかもしれません。しかし、仕事における「考える力」は、必ずしも一人で正解を出す力ではありません。

実際の仕事では、最初から正解が分かっていることばかりではありません。限られた情報の中から事実を整理し、「こうではないか」と自分なりの仮説を立て、その時点でよりよいと思う判断をする。そして、新たな情報や異なる視点を得たら、必要に応じてその判断を見直していく。こうした一連のプロセスが、仕事における「考える」という行為です。

重要なのは、最初から正しい答えを出せるかどうかではなく、「なぜそう考えたのか」を自分なりに説明できることです。たとえ結果として判断が間違っていたとしても、どのような情報をもとに、どのような理由でその結論に至ったのかが分かれば、そこから次の学びにつなげることができます。

そのため、新入社員の育成においても、出した答えが「正解か、不正解か」だけを見るのではなく、その答えに至るまでに何を見て、どう考え、どう判断したのかというプロセスに目を向けることが重要です。

「正解を当てる」ことではなく、自分なりに考え、その考えを確かめながら、よりよい判断へと近づいていく。
そうした経験の積み重ねによって、「考える力」は育っていきます。

「考える力」を育むために日々の仕事においてどう支援するか

新入社員の育成現場で必要な支援は、「まずはこの通りにやってみて」と正解を先に示すことではありません。新入社員が上司や先輩に対して、「間違っていたらどうしよう?」と不安になることなく、自分の考えを安心して相談できるような環境や場を意図的に用意することです。
また、新入社員の出した考えに対して、上司や先輩がどのようなフィードバックができるかも重要です。新入社員だけではなく、上司や先輩社員自身の「考える力」が問われるといえるでしょう。

また、新入社員に必要なのは、上司や先輩が望むような正解を「探し当てる」ことではありません。事実を押さえ、自分なりの仮説を立て、上司や先輩に投げかけ、フィードバックされた内容をもとにさらに見直す。この往復を、仕事の中で繰り返せるようにすることです。
この往復が自然と成り立つには、上述の「自分の考えを安心して相談できる」環境が重要な役割を持ちます。

「どうすればいいですか?」から一歩進んだ相談へ

たとえば相談の場面でも、新入社員がただ「どうすればいいですか?」と聞くだけでは、思考はそこで止まってしまいます。大事なのは、「ここまで確認しました」「私はこう考えています」「この点で迷っています」と、自分の見立てを添えて相談するように促すことです。

それだけで、相談は「正解探しの場」ではなくなります。何が分かっていて、何が分かっていないのか。どこで判断に迷っているのか。それを自分の言葉で出すこと自体が、すでに考える行為です。

AIの回答に「自分はどう考えるか」を加える

AIの活用も同じです。検索結果や生成結果をそのまま貼り付けるだけでは、考えたことにはなりません。必要なのは、「AIはこう言っている。では、自分はどう考えるか」を付加することです。

AIを使う目的は、答えを省略することではありません。視野を広げ、論点を増やし、判断の精度を上げることにあります。つまり、AIは思考の代用品ではなく、思考を深めるためのツールなのです。上司や先輩、教育担当者には、AIの回答を起点に「自分はどう考えるか」を新入社員に促していくことが求められます。

「考えてから動く・相談する」習慣を育てる

もっとも、考える力は「まず考えろ」と言えば身につくものではありません。知識のように一度聞けば定着するものでもないからです。実際に考える。発信する。対話する。振り返る。この経験を積み重ねてはじめて、考え方は自分のものになります。

正解のない問いに向き合う経験をつくる

だからこそ必要なのが、正解のない問いに向き合う経験です。あらかじめ答えが用意された課題をこなすだけでは、考える力は育ちません。自分で判断しなければ進まない課題に向き合うこと。他者の考えとぶつかること。そこから自分の考えを見直すこと。

自分の考えを外に出す「発信」と、他者の考えを受け取る「受信」。この往復の中で、正解のない問いに向き合う姿勢が鍛えられていきます。

対話と振り返りで「考え方」を身につける

他者の考えとの違いに触れると、これまで見えていなかった論点が見えてきます。逆に、自分では正しいと思っていた前提が崩れることもあります。けれど、それは悪いことではありません。むしろ、そうやって前提を崩さない限り、簡単には自分の考え方は更新されません。新入社員であっても、これまでに20年前後の人生経験を積んできています。その中で培われた自分の考え方、ものの見方は思った以上に固定化されているものです。それをいったん崩すためには他者との対話と振り返りが有効です。

他者との対話を通じて、自分の視野を広げ、思考の枠組みを組み替え、考え方そのものを磨いていく。その繰り返しが、「考えること」を一時的な作業ではなく、仕事の土台へと変えていきます。

「考える力」を育てる研修を、体験してみませんか?

このたび、本学では、生成AIの浸透や若手層の価値観・学び方の変化を踏まえ、これからの時代に求められる「自ら考え、行動する力」を育てる「新入社員研修DIG」を開発しました。

新入社員研修DIGは、講師から「正解」を教わる研修ではなく、職場で起こりうるケースを題材に、自分で考え、他者と対話し、振り返る「考えるプロセス」そのものを体験する研修です。

たとえばあるセッションでは、「会議を活性化するにはどうすればよいか」というテーマについて、生成AIの回答も必要に応じて参考にしながら、自分なりの考えをまとめ、他者との対話によって視点を広げ、最後に学びを言語化します。

では、こうした体験によって「考える力」はどのように育っていくのでしょうか。

10月6日・11月25日に開催する体験セミナーでは、新入社員研修DIGの一部を実際に体験いただけます。新入社員に必要な「考える力」をどのように育てればよいのか、そのヒントをぜひお持ち帰りください。

参加申し込みはこちらから!

※両日程とも基本的に同一の内容です。一部、進行方法やセッション内容を変更する場合があります。
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