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  3. 【企業事例】「仲間で仕事をする」が、学び続ける組織をつくる「断つ・保つ®」の技術を支える人材育成と、グループ受講で広がる自律的な学び(ニチアス株式会社様)

事例・コラム

プロフィール

  • 宮阪 健一 氏

    宮阪 健一 氏

    1997年入社。営業部門と高機能製品事業本部を経て、2023年に人事部へ異動。
    2026年から人事部長を務める。
  • 丹羽 ときこ 氏

    丹羽 ときこ 氏

    2007年入社。入社以来、人事部で採用を中心に経験を重ねる。
    現在は研修業務や通信教育をはじめとする自己啓発支援を担当。

1896年設立のニチアス株式会社は、「断つ・保つ」の技術を核に、さまざまな産業や暮らしを支えてきました。
2026年に130周年を迎えた同社が大切にしているのは、「仲間で仕事をする」という風土です。現場主体の改善活動、若手交流会、キャリア自律を支える研修、そして通信教育のグループ受講まで。人と人とのつながりを学びの力に変える同社の人材育成について、人事部の宮阪氏、丹羽氏にお話を伺いました。

ニチアス株式会社様 概要

ニチアス株式会社は、「断つ・保つ」の技術を核に、プラント向け工事・販売、工業製品、高機能製品、自動車部品、建材の5事業を展開。断熱材やシール材、高機能材料など、産業や暮らしを支える製品・サービスを国内外で提供している。

目に見えないところで社会を支える「断つ・保つ」の技術

――まず、貴社の事業内容について教えてください。

丹羽氏イメージ

当社は1896年に設立され、社会に必要不可欠な製品を提供する“産業界の名脇役” として、「断つ・保つ」をキーワードに、日本の産業界の発展とともに歩んできました。

事業は、プラント向け工事・販売、工業製品、高機能製品、自動車部品、建材の5つです。石油プラントやインフラを支える断熱材やシール材、半導体製造装置に不可欠な高機能材料、自動車の安全性や環境性の向上に寄与する製品、建材分野の安全性や快適性を支える製品や工事など、幅広い領域で事業を展開しています。直接目には見えにくいところで産業や社会を支えていることが当社の特徴です。

――企業理念の体系を再整理されたそうですね。

宮阪氏イメージ

理念の基本的な考え方と、「断つ・保つで明るい未来へ」というスローガンはそのままに、理念文の主語を「ニチアスは」から「私たちは」に改めました。これは、従業員一人ひとりに理念を自分ごととして受け止めてほしいという思いを表したものです。

また、従来からあった「私たちの約束」も、従業員の心構えや行動指針として言葉を見直しました。「仲間とともに社会に役立つ価値を提供する」「社会の一員として責任ある行動を取る」「『ありがとう』と『笑顔』があふれる信頼の輪を築く」「従業員と会社がともに成長する」といった考え方を、仕事の中で迷ったときに立ち戻るものとして掲げています。

もう1つ、昨年見直しで、サステナビリティ方針を追加しました。これまで乱立していた各種方針やスローガンなどを、サステナビリティ方針の下に位置づける形で再整理しました。

丹羽氏イメージ

浸透に向けては、統合報告書や社内報などで発信するとともに、言葉として知るだけでなく、日々の業務で実践してもらえるよう、各所で説明会を行うなど、取り組みを進めています。

「仲間で仕事をする」を象徴する現場主体の取り組み

――人事のお立場から見た、ニチアスらしさを教えてください。

丹羽氏イメージ

当社は「働きやすい明るい会社」の実現に向けて、一人ひとりが生き生きと働ける環境づくりに取り組んでいます。社員は真面目で誠実な人が多く、困ったときにはお互いに助け合う風土があります。「仲間で仕事をする」という言葉が象徴するように、チームワークや団結力は当社の大きな強みです。

130年にわたって培ってきた技術やノウハウを大切にしながら、新しいことにも前向きにチャレンジする姿勢も根付いています。外部の方から「現場力が強い」と言っていただくこともあり、現場の人たちが支えている会社だと感じます。

宮阪氏イメージ

そうした考え方は、理念体系の中で示している逆三角形にも表れています。これは、最前線で働く現場の人たちを、経営陣が下から支えるという考え方を示したものです。現場の人が働きやすい会社であることが、「仲間で仕事をする」風土の土台になっています。

――その風土を象徴する、ニチアスの文化ともいえる「ニチアス改善活動」について教えてください。

丹羽氏イメージ

ニチアス改善活動、通称NKKは、現場主体で業務改善や新たな価値創造に取り組む活動で、開始から12年が経ちました。「やってみよう!」「育む」「ありがとう」という3原則のもと、製造部門以外にも活動を広げ、業務プロセスを自ら見直す取り組みとして定着してきました。成果を称賛し合う風土づくりにもつながっており、海外グループを含めた大会も行っています。

宮阪氏イメージ

もともとQCサークル※の考え方をベースにしながら、営業や技術開発部門なども参加しやすい形に広げたのがNKKです。「NKKをニチアスの文化にしたい」という前社長の思いを受け継ぎ、今ではグループ全体に浸透し、会社の文化になりつつあります。

※QCサークル:職場の従業員が自主的に小グループを作り、業務や品質の改善に取り組む活動。

――素晴らしい取り組みですね。そのほかに従業員同士のつながりを醸成する取り組みはありますか。

丹羽氏イメージ

もう1つは、部門や職種を超えたコミュニケーションの促進と組織の一体感向上を目的とした若手交流会です。同世代の悩みや意見を共有したり、相談したりできる場をつくることで、「働きやすい明るい会社」の実現にも寄与していきたいと思っています。

宮阪氏イメージ

この取り組みは、2022年度に本社で試行的に開始し、2023年度から全国の拠点にも展開するようになりました。コロナ禍を経験し、学生時代から対面での交流を制限されてきた若手社員に、交流の機会を提供したいという思いでスタートしました。今では5年目に入り、それぞれの拠点で半期に1回、定期的に開催しています。内容は拠点によってさまざまで、人事は側面支援という形でグループワークやチームビルディングのアイデアを提示し、現場主導で行ってもらっています。

丹羽氏イメージ

キャリア採用で入社した社員も一緒に交流できるようにしているため、さまざまな経歴を持った社員同士のつながりやネットワークの構築という効果も生まれていて、良い組織風土の醸成につながっていると感じています。

NKKとは

ものづくり、人づくりを経て、しくみづくりへ
中期経営計画「しくみ・130」

――最終年度を迎えた中期経営計画「しくみ・130」について教えてください。

宮阪氏イメージ

前々回、前回の中期経営計画では「ものづくり」「人づくり」に取り組んできました。今回はその次の段階として「しくみづくり」を掲げています。最終年度である2026年度は130周年という節目でもあるため、「しくみ・130」と名づけています。「し」は幸せ、「く」は工夫、「み」は未来を意味しています。

この計画の一番の目標は「働きやすい明るい会社の実現」です。その実現度を測る指標、いわゆるKGIとして、当社では「ニチアス幸せ価値指数(NGI)」を掲げ、収益性の向上、事業の選択と集中、効率的運営、環境対応、基盤強化という5つの重点課題に取り組んでいます。

ニチアス幸せ価値指数は、ニチアス業績指数(NPI)のほか、従業員満足度、従業員幸福度、ステークホルダー満足度という4つの評価要素から成り立っています。従業員の家族やお取引先様も含めてニチアスに対する評価をいただいており、目標点数まであと少しというところまで着実に向上しています。

「仲間とともに成長を楽しめる人」を育てる人材育成方針

――今年制定した人材育成方針について教えてください。

宮阪氏イメージ

2026年1月に、ニチアスグループ人材育成方針を制定しました。そこで求める人物像として掲げたのが、「仲間とともに成長を楽しめる人」です。

この言葉には、行動指針である「私たちの約束」との親和性に加えて、ニチアスが大切にしてきたチームワーク、そして未来に向けた成長志向を込めています。ただ仲がよいということではなく、困難があっても乗り越え、その成長を楽しめること。しかも、それを一人で孤独に進めるのではなく、仲間とともに進めていくことを大切にしています。

人材育成方針では、従業員と会社がともに成長することを支えるために、4つの指針として、ルール順守、コミュニケーション・協働力、挑戦力、未来志向を設けています。これらを実現するための教育体系として、Off-JT、OJT、自己啓発支援の3本柱を置いています。

人財育成方針:概念図

気づきを行動につなげ、キャリア自律を促す人材育成施策

――研修では、どのようなことを重視していますか。

丹羽氏イメージ

大きく3つあります。1つ目は、普段の業務から離れた環境で気づきを得ること。2つ目は、仲間とともに学ぶことで一体感を醸成すること。3つ目は、研修で学んだ後に職場で行動することです。

当社の業務は、部門をまたいだ連携やチームでの協働によって成り立っているため、研修でもグループワークやディスカッションを多く設け、他者の考えに触れながら課題を解決していく重要性を実感できる機会となるようにしています。また、研修は受けて終わりではありません。事前・事後で上司を巻き込み、目標設定や振り返りを行い、実務に落とし込む仕組みにしています。

――キャリア自律の支援にも力を入れているそうですね。

丹羽氏イメージ

はい、階層別研修の中でも、キャリアを考えるコンテンツを取り入れています。自分の将来をどう描くか、現在の自分をどう振り返るか、必要な能力は何かを棚卸しし、次のステップに向けて主体的に学ぶ意識を高めています。

また、若手や中堅社員へキャリア自律を促すだけでなく、管理職向けにも人材開発セミナーを実施しています。今期のテーマは、メンバーのキャリア自律を支援する「上司力」です。本人と上司の双方からキャリア自律を支えることを目指しています。

そして、管理職自身がキャリアについて考えることはもちろん、管理職がやりがいを持って輝いていてほしいというメッセージも込めています。魅力ある管理職として、前向きな姿勢で捉えていただけるよう、引き続き発信していきたいと思います。

――人材育成施策の成果として、どのような変化を感じていますか。

丹羽氏イメージ

人とのつながりを軸にした人材育成施策が組織全体に浸透し、上司と部下の関係性の質が向上してきていると感じています。OJTでは、個々の担当者任せにするのではなく、職場全体で新人を育てる考え方を重視しています。具体的には、育成の考え方や部下との関わり方をオンラインで学ぶOJT担当者研修を実施しています。育成に対する共通認識をつくることで、指導の質の平準化につなげています。

さらに、最近では、管理職向けのマネジャー強化研修にアサーティブコミュニケーション研修を追加しました。相手を尊重しながら率直に伝える力の向上に加え、部下との対話もより建設的になり、信頼関係の強化にもつながっていると感じています。

管理職の一歩手前で実施する独自研修では、上司との対話から始まり、3か月間の取り組みを経て、最後に部門長へ8分間のプレゼンテーションを行います。重視しているのは、課題そのものを達成したかだけではなく、その過程で自分がどう成長したかです。また、研修の振り返りを行うことで、上司も部下の成長や変化を実感しやすく、支援の質を高める仕組みになっています。

――人材育成における、今後の課題はありますか。

丹羽氏イメージ

すでに一部取り組んではいますが、キャリア自律の支援は、1つの大きなテーマです。一人ひとりがキャリアを描いて主体的に成長していくことが求められている一方で、キャリア自律を支援する管理職の育成も課題となっています。キャリア自律の支援に関する理解や意識の醸成を図ることで、一人ひとりが自分らしいキャリアを描けるような環境や、教育・研修の整備をさらに進めていきたいと考えています。

宮阪氏イメージ

もう1つは、人事制度を時代の変化に合わせて見直していくことです。教育体系を人事制度と連動させ、研修や通信教育の内容もアップデートしていくことが必要だと考えています。

また、今年の4月から、従来のゼネラリストのコースに加え、スペシャリストのコースを新設しました。対象はまだ管理職以上の等級のみで、これから要件定義や研修体系を整えていく段階ですが、キャリアの選択肢を広げられるような仕組みを整えていきたいと思います。

ニチアスの研修体系

自律的な学びを育み仲間と取り組む通信教育

――人材育成施策の中で、通信教育をどのように位置づけていますか。

丹羽氏イメージ

通信教育は、従業員の自律的な学習を支援する重要な施策の一つです。業務に直結する知識の習得だけでなく、視野を広げるきっかけとしても活用しています。

変化の激しい事業環境に対応するためには、一人ひとりが自律的に学び続けることが欠かせません。そのため、通信教育を自己啓発の柱として位置づけ、全従業員が受講できる仕組みを整えています。年間受講者数は従業員の約20%を目標に掲げています。

制度面では、2023年に受講料の支払い方法を見直し、受講開始時の自己負担をなくすことで、受講のハードルを下げました。修了後に受講料を支払う際には、受講料の6割、優秀修了の場合は7割を会社が補助しています。さらに、特定の推奨講座については8割補助とするなど、支援内容も工夫しています。

また、自己啓発としての活用にとどまらず、業務に必要なスキルの習得を目的とした業務命令による受講や、研修と連動した活用も進めています。階層別研修では、研修の前後に通信教育の受講を促すことで、体系的な知識の習得と実務への橋渡しにつなげています。個人の学びにとどまらず、研修や実務と連動させることで、継続的な成長を支える仕組みとして活用しています。

――受講者を増やすために、どのような工夫をしていますか。

宮阪氏イメージ

制度はつくっただけでは広がりません。私が人事部に配属された年に、各本部の会議体を回って、直接説明しました。パンフレットに載せるだけではなかなか見てもらえないので、まず知ってもらうことが大事だと考えました。

丹羽氏イメージ

周知の効果は大きく、その年は受講者が1.5倍に増えました。翌年は、中期経営計画に掲げた5つの課題に対応する講座の補助金額を増やしたことで、受講者の約半数が該当講座に集まりました。さらに各本部の企画管理課長におすすめ講座を選んでもらい、選定理由のメッセージも添えて発信したことで、受講者が400名を超えました。各本部の協力のもと、通信教育も育ってきていると感じています。

――グループ受講制度にも力を入れているそうですね。

丹羽氏イメージ

ニチアスのグループ受講制度は、3名以上で学ぶ仲間を結成し、メンバー全員が講座修了後に特典を支給するという制度です。開始時に「受講に向けての意気込みや講座選定理由」を記入して、グループ内で共有し、修了後に「受講後の感想」を記入・提出していただきます。受講する講座だけでなく、始めたきっかけや学びも共有できるよう、運用面でも工夫しています。

また、称賛メールやメッセージカードを送ったり、グループ受講の様子を動画で紹介したりする取り組みも行っています。世代や役職を超えて一緒に学ぶことで、「コミュニケーションが円滑になった」、「互いに適度なプレッシャーをかけ合いながら修了までやり切ることができた」、といった声も寄せられています。中には、毎月ディスカッションを実施したグループや資格試験に挑戦するグループ、受講後にランチの場で学習方法やその後の状況などを共有しているグループもあり、通信教育がここまで活用されていることを非常に嬉しく思っています。

導入初年度のグループ受講者の修了率は90%ほどでした。社員から「年に2回実施してほしい」という声もあり、今年度からは上期・下期の年2回に増やしています。

また、新入社員へは初回無料キャンペーンを実施していますが、今年度からグループ受講制度との併用も可能にしたことで、新入社員同士のグループ受講による学びの相乗効果を期待しています。最近では海外からの受講者も増えており、通信教育が個人で学ぶものから仲間とともに学び続けるものへと広がってきた実感があります。

通信研修これまでの取り組み

――通信教育で学ぶ意義をどのように考えていますか。

丹羽氏イメージ

自分のペースで、自分に合ったレベルの学びを主体的に進められることが大きな意義です。集合研修とは異なり、時間や場所にとらわれず、業務と両立しながら継続して学べます。また、単に知識をインプットするだけでなく、課題について考え、記述し、添削やフィードバックを受けるプロセスを通じて、能動的に学ぶ習慣や姿勢が身につきます。

最近では、資格取得やキャリアアップに直結する講座、DXやビジネストレンドなど時代の変化に対応した講座も取り入れています。コースラインアップの充実と運営面の工夫の両面から、学びを続けられる仕組みにしていきたいと考えています。

――通信教育を含めた人材育成について、今後の展望をお聞かせください。

宮阪氏イメージ

会社にとって一番の財産は、やはり人です。人的資本経営が重視される中で、人材を管理するのではなく、人的資本としてどう活かし、会社の持続的な成長につなげるかが問われています。

そのためには、従業員一人ひとりが成長するための教育と学ぶ場を、会社として提供し続けることが重要です。研修も通信教育も、会社の成長につながるように、経営戦略と連動する形でしっかり構築していきたいと考えています。

ポジティブサイクル

(2026年6月8日 取材・撮影)

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