哲学対話とは、日ごろの疑問をもとに問いを立て、他者とともに本質を探究する対話の手法です。
近年では学校教育だけでなく企業研修でも導入されるなど、ビジネスシーンで注目されています。
ここでは、哲学対話を職場や研修など企業で実施する具体的な方法について解説します。
哲学対話の概念やルールなど基本的事項については以下をご覧ください。
1. 哲学対話の進め方
①車座になる
5~10名が適していますが、それ以上に少ない、あるいは多いケースもありさまざまです。またコロナ禍以降はオンライン形式で実施するケースも増えています。
②問いを設定する
主催者があらかじめ設定し提示するケースと、参加者で持ち寄って決めるケースがあります。後者の場合は、最初に一人ずつ日ごろの素朴な疑問やモヤモヤを話し、そのうえで一つの問いを決定します。この「問いを決めるプロセス」そのものが哲学です。胸にしまい込んでいた問いと向き合う、当たり前に思っていたことを一度疑ってみる、他の人の疑問に耳を傾ける。こうした工程を通じて、対話に専念する準備を整えていきます。
問いの例
- 企業とは誰のものか?
- われわれの事業のミッションは何か?
- 何をもって優秀と言えるのか?
- 心理的安全性が高い状態とは?
- HOW型よりもWHAT型やWHY型で問うと対話が深まります。
③哲学対話を実施する
哲学対話ファシリテーターなど、対話全体を俯瞰して中立に関わる人の存在があると安心です。
話し合いの様子をホワイトボードに可視化しながら進行することもあります。また、クッシュボールやぬいぐるみなどを用意し発言者に持たせることで、他の参加者は自然と耳を傾ける姿勢になります。次に発言したい人がいれば手渡しすることで、バトンを繋ぎながらともに探究しているという共同体空間へと変化します。
参加者の集中力を考えて、実施時間は45分から60分で設定するといいでしょう。もう少し話し合いたいという声があれば、ブレイクを挟んでもう一ラウンド実施することもあります。
④哲学対話を振り返る
対話全体を振り返り、感想や新たな疑問を参加者全体で共有します。一度の対話で自分の疑問が綺麗に解消されるとは限りません。むしろ対話に参加する前よりも疑問が深まることはめずらしくありません。しかしそれは後退ではなく進歩です。探究が進めば進むほど「分からないことが増える」、「自分がいかに分かっていたつもりになっていたかに気づく」からです。(哲学対話は時として参加者を謙虚にします。)
これまでも、晴れやかな表情、伸びやかな姿勢、どこかスッキリとした爽やかな様子で会場を後にする参加者を幾度となく目撃してきました。知らず知らずのうちに囚われていた自分自身の観念から解放されたのかもしれません。哲学対話の不思議な魅力です。
2. 哲学対話を深める大切なポイント
哲学対話を深める大切なポイントは、話すことよりも聴くことを重視していることです。他者の話を表面的に理解するのではなく、また安易に分かったつもりになるのでもなく、その背景や真意にアンテナを立て「深く聴く」こと、そのためにも「質問する」ことが求められます。
哲学対話ファシリテーターは、参加者が迷子にならないよう対話内容をうまく整理して深める手助けをするのですが、それと同時に、質問することを参加者に粘り強く促します。「今の発言内容は理解できましたか?」、「疑問を持った人、異なる視点の人はいますか?」、「皆さんは今出された考えをどのように受け止めましたか?」。
すると、哲学対話ファシリテーターの求めに応じるように、参加者からおのずと深い、時に鋭い問いかけが出てくるようになります。「具体例はありますか?」、「どうしてそう考えたの?」、「そういうことって他にもある?」、「(あえて問いますが)本当にそうと言えるかしら?」。哲学対話を経験して、聴き上手、質問上手になったと答える参加者は少なくありません。
もちろん、質問することが発言者への攻撃となってはいけません。あくまで質問は本質を探究するうえでの手段です。そのためにも、心理的安全性や知的安全性が担保された雰囲気づくりが大切であり、お互いに「問いかけるように」質問を繰り出すことが求められます。
(こちらの記事で述べましたが、もし対話のエチケットを守らない参加者がいたら哲学対話ルールを再確認するといいでしょう。)
逆に言えば、相手を攻撃することでなければ立場や年齢に依らず自由に発言できる、また専門的な知識や素養を前提とせず自分の経験や実感をもとに無邪気に考えが述べられる、ということです。そうした場としての哲学対話は、企業や組織が直面する閉塞感を打破し活性化していくうえで大きな可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。
3. 哲学対話の実施場所
哲学というと思考活動が重視されると思われがちですが、哲学対話は、五感を鋭敏にして静かに問いと向き合う身体感覚を伴った活動です。手に汗握る、冷や汗をかく、心拍数が上がる、呼吸が早まる、頭に血が上る、目の前の視界が開ける。こうした生理現象は自分の信じてきた考え方が変化する際に見られる自然な反応です。哲学対話ファシリテーターは、参加者の表情や姿勢、呼吸の変化などを肌で感じ取り反応することが求められます。
4. 哲学対話の注意点
哲学対話で陥りがちな落とし穴は「結局のところ考え方はみなそれぞれ」という安易な着地に留まってしまう点です。多様性が溢れる世の中にあって、それぞれに価値観が異なるというのは大前提ですが、そのなかで「この点は皆が共通に認められる」という「共通了解」をめざすことが哲学です。
5. ビジネスシーンでの活用例
この哲学対話を実際のビジネスシーンで活用するのはどういった場面でしょうか。
(1)社員研修の1セッションに導入する
これには実にさまざまなパターンが存在します。「若手社員の粘り強い思考力を涵養する」、「リーダークラスのビジョン構築力を強化する」、「経営幹部が戦略立案の前工程で事業の意義を問い直す」、など、教育目的に応じて哲学対話が活用できます。
また、既存の研修プログラムとの親和性もあります。例えば、新任管理職研修において、研修の冒頭と終盤で「マネジメントとは?」、「人を育てるとは?」をテーマに哲学対話すると、研修前後で内容や深みに変化が生まれます。受講者自身が学びを言語化することで、学習内容の整理にもなります。
(2)従業員エンゲージメントを高めるために全社会議やタウンミーティングで導入する
職場ミーティングや全社会議で分科会を取り入れ、同じテーマや問いのもと小集団に分かれて哲学対話をすることで全体の一体感を高めることができます。特に、企業理念や全社方針を素材にした問いを設定すると、従業員に自社が目指す姿を主体的に考えてもらう良い機会とすることができます。
(3)新規事業開発の一環として導入する
新規事業立案や商品開発において新たなコンセプトを生み出すために取り入れることもできます。「お客様はなぜこれにお金を出すのか?」、「ひとびとが自社商品〇〇に求めているものは?」、「そもそも豊かさとは何か?」など、既存の枠組みから抜け出して思考することで新たな価値創造の可能性が芽生えます。
以上はあくまで一例です。皆さんの職場や組織が直面する課題に応じてカスタムして取り入れることが可能です。また、既存の活動内容にスパイスを加えたい、一味違った深みを持たせたい、マンネリを打破したいなど、困難な状況を打開するきっかけになる可能性を秘めています。
6. まとめ
2回(前回記事はこちら)にわたって哲学対話の基本的な概念と具体的な進め方を見てまいりました。いかがでしたでしょうか。
難しそうなどとあまり構えずに、身近な人たちと問いを持ち寄って小さく始める、取り組みながら修正していく、というスタンスで、ぜひ肩に力を入れずに思い切ってチャレンジいただきたいと思います。
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