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  3. 哲学対話とは?対話型研修として注目される理由・効果・ルールを解説

哲学対話とは、日ごろの疑問をもとに問いを立て、他者とともに本質を探究する対話の手法です。
近年では学校教育だけでなく企業研修でも導入されるなど、ビジネスシーンで注目されています。
ここでは、哲学対話の概念と効果、基本ルールを解説します。

1. 哲学対話とは

哲学対話は、哲学者の思想を学ぶことを目的とするものではありません。
仕事や日常で生まれるモヤモヤを「問い」として取り上げ、参加者同士で語り合い、聴き合いながら理解を深めていく対話の実践方法です。知識を学ぶこと、結論や正解を出すことが目的ではないという特徴があります。

2. なぜ今哲学なのか

時代の変化を象徴する言葉として「VUCA」を耳にするようになって久しくなりました。私たちは変化の激しい時代に生きています。将来が予測しにくい、また予測を立てたとしてもその見通しが覆されるような時代にあって、誰もが不安を抱えながら生活しています。

こうしたなか、変化しない普遍的なもの、自分の中の確かな拠りどころを希求する欲求はむしろ自然なことなのかもしれません。その願いに応えるものの一つが哲学です。

コロナ禍を経てそうした傾向に拍車がかかりました。自分は何のために働くのか。はたして今のままのライフスタイルで良いのか。そもそも私にとって幸福とは何か。自分の内側を見つめ直す人が増えたように思います。

ビジネス界に目を向けると、これまでの前提を問い直し再構築しなければ打開できないような難題に直面するケースも増えています。リーダー自身が自らの哲学を内省し、周囲を力強く率いていくような新たなビジョンを言語化して打ち出す必要性に迫られています。

3. そもそも「哲学」とは

哲学(philosophy)は、ギリシャ語の philosophia に由来します。もともとは「知恵 (sophia)を愛する(philein)」という意味ですが、明治時代に西周(1829-1897)が哲学と訳してからこの言葉が広がりました。本来「哲」には「明らか」という意味があります。当たり前とされていることに対し疑問を持って問い直し、明らかにする営みが哲学です。過去の哲学者が考えたことや発表したことを研究することが哲学ではありません。それは 「哲学者研究」、「哲学史研究」であり、あくまでも哲学の一側面にすぎません。

子どもたちは問います。「なぜ勉強しなくてはならないの?」「偉くなるってどういうこと?」「普通って何?」。思春期や青春期の学生たちも哲学者です。「なぜいじめはなくならないの?」「愛が何かが分かっていないのに、どうして愛していると言うの?」「自分って何?」

哲学とは本来、専門家のものではなく市民のものです。いえ、わたしたちは既に普段から哲学しています。「どうすれば心理的安全性の高い職場を実現できるのだろう?」「メンバーに厳しく迫るのがリーダーなのか、寄り添うのがリーダーなのか?」「業務の属人化ははたして悪なのか?」。自分の中に潜む静かな疑問、心の奥に横たわるモヤモヤ、当たり前とされてきた常識に対する疑念。そうした問いに蓋をするのではなく、光を当て向き合ってみることができれば、哲学の始まりです。

4. 哲学対話が求められる背景

とはいえ、一人で正解のない問いと向き合うことは容易ではありません。忍耐や集中力が求められます。また、独りよがりな答えしか出てこない恐れもあります。迷路にはまり込んで抜け出せないこともあるでしょう。そうした問いと向き合う時間的、精神的余裕もありません。生成AIで安易な答えは得られるかもしれませんが、間違えた情報が含まれている恐れもあります。表面的に分かった気になり結局自分のものになっていない、ということにもなりかねません。

そこで他者とともに探究し、自分一人だけではたどり着けない本質に迫る活動が哲学対話です。 「問い、考え、話し、聴く」この哲学対話は、哲学の重要な営みの一つです。いま哲学対話は欧米、アジア、中南米と世界中で実践されており、日本国内でも学校教育やビジネス現場などで導入が進んでいます。

ビジネスでの実施例

  • チームビルディングを目的に企業の職場単位で実施する
  • 全社で実施し企業理念やビジョンの浸透を図る
  • 企画会議で実施し、既存にない新しい商品コンセプトを創造する
  • 自身のリーダーシップに対する定義を掘り下げるために経営幹部研修で実施する
  • 本質に向き合う姿勢や思考力を涵養するために、学生や若手社員に実施する

5. 会話・議論・対話の違い

そもそも、対話とは何でしょうか。何気ないカジュアルな会話(conversation)や、最適解はどれか意思決定をしなければならない議論(discussion)と異なり、他者とともに理解を深め新たな知恵を創造する場が対話(dialogue)です。なかでも哲学対話は、かならずしも唯一の答えや正解を導き出すことを目的とせず、答えのない問いと粘り強く向き合い限りなく本質に近づこうとする営みです。

いま企業を見渡しても、在宅勤務が増え職場の一体感が失われた、組織の成長に行き詰まりを感じている、リスク管理や内部統制が強く周囲に気を遣って自由に意見が言えない、などの閉塞感が漂っています。こうした空気を打破し、従業員同士のつながりや結びつきを取り戻す場としての対話に注目が集まっています。

6. 哲学対話に期待される効果

哲学対話は、短時間で正解や結論を出すための手法ではありません。答えのない問いに向き合う過程で、それぞれが抱く言葉の定義や価値観の違いが浮かび上がり対話の質に変化が生まれる、また思考が深まる、という特徴があります。ここでは、企業・組織で期待される主な効果を整理します。

(1)対立が“対決”ではなく“探究”に変わる

意見が対立した際に、相手を説得する/論破するのではなく、「なぜそう考えるのか」「相手は何を大切にしているのか」を扱えるようになります。結果として、葛藤が起きても関係性が崩れにくく、建設的なコミュニケーションへ発展しやすくなります。

(2)「問いを立てる力」「考え続ける力」が育つ

変化が激しい環境においては、時として過去のセオリーが通用しないケースに直面します。哲学対話は、すぐに結論を出すのではなく問いに対して粘り強く探究する営みです。そのため、SNSや生成AIなどの外側の情報に安易に依存しない思考の土台が育ちます。

(3)理念・ビジョンが“自分の言葉”になり実践につながる

企業理念やパーパスは、掲げるだけでは浸透しません。「理念を実現する上で具体的にできることは何か」といった問いを通じて、抽象的な言葉の意味を経験と結びつけて捉え直すことができ、実践的な行動へとつながりやすくなります。

7. 哲学対話のルール

実施する目的によってルールもさまざまです。東京大学教授の梶谷真司氏は、以下のルールを提唱しています。

  1. 何を言ってもいい。
  2. 人の言うことに対して否定的な態度をとらない。
  3. 発言せず、ただ聞いているだけでもいい。
  4. お互いに問いかけるようにする。
  5. 知識ではなく、自分の経験にそくして話す。
  6. 話がまとまらなくてもいい。
  7. 意見が変わってもいい。
  8. 分からなくなってもいい。

引用:梶谷真司著『考えるとはどういうことか』2018年9月刊/幻冬舎新書

ポイントは、哲学対話は話すよりも聴くことを重視している点です。
他者の話を表面的に理解するのではなく、その背景や真意にアンテナを立て「深く聴く」、そして「質問する」ことを大切にして実施します。

8. まとめ

今回は、哲学対話の概念やルールなどの基本的事項について解説しました。
次回は、この哲学対話がわたしたちのビジネスシーンでどう活用できるのか、その可能性や具体的な実施方法について解説します。

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