~TDK株式会社の実践事例から学ぶ~ 主体的なリーダーシップ行動と学びを引き出す 中堅・プレマネジメント層の育成

~TDK株式会社の実践事例から学ぶ~ 主体的なリーダーシップ行動と学びを引き出す 中堅・プレマネジメント層の育成

「社員に主体性がない」とお困りの人事・教育担当者様は多いのではないでしょうか?
TDK株式会社様では、中堅・プレマネジメント層の人材要件を「積極的かつ主体的な行動」ができる人材と定義し、その人材要件を満たすための育成に力を入れています。今回は、学習設計に焦点を当ててお話を伺いました。E-learningやオンライン研修、職場での実践活動などを緻密に組み合わせ、実践的に意識変容・行動変容を引き出していくしかけ作りのヒントを探りたいと思います。

TDK株式会社様 概要
1935年に電子材料のフェライトを事業化する目的で設立。主力製品は、受動部品であるコンデンサーやインダクター、高周波部品、そして温度、圧力、磁気などのセンサーシステム。これらの製品は、皆様が使用するスマートフォンやPC、車のセンシング技術など、生活全般に幅広く活用されている。2023年3月期の売上は2兆1808億円、全世界での総従業員数は102,908人(2023年3月末日時点)。

プロフィール

佐伯 麻美 (Saeki Mami)

TDK株式会社 総務本部 テクニカルセンター 総務部人事課

佐伯 麻美 氏
(Saeki Mami)

2012年TDKに入社し、人財育成分野に9年携わる。
コロナの影響とオンラインツールの発展を受け、2021年に中堅・プレマネジメント層の育成プログラムを刷新。2023年度より現職。

多様性を活かし、変革を推進するTDKグループの人事戦略

――貴社の人事戦略の方向性やその背景について教えてください。

弊社の特徴の一つとして、時代の変化を見据え、主力事業のポートフォリオ転換に積極的に取り組んできた歴史があります。例えば、近年では高周波部品事業を売却し、センサー事業に注力するなど、大胆なポートフォリオの入れ替えを行っています。このような転換は、M&Aを通じて成功を収めています。実際、全従業員数の約8割がM&AによってTDKグループに参加したメンバーです。また、日本企業でありながら、日本の従業員数は全体の約1割にすぎません。私たちは、多様性にあふれたメンバーとグローバルなビジネスを展開しています。

このような背景から、多様な事業体と多様性にあふれたメンバーを如何に活用していくかは、人事機能にとって大きな課題です。そこで、2016年に人事機能の本部を日本からドイツのミュンヘンに移し、多様性という独自の強みを活かす人事戦略を策定しました。その戦略のもと20以上のキーアクションが決定され、現在も進行中です。

変化を牽引するプレマネジメント層の育成方法

――中堅・プレマネジメント層の人材像と育成プログラムの目的について教えてください。

弊社は、歴史とカルチャーを通じて、常に変化してきました。環境変化に柔軟に対応できる、そして自己アップデートが可能な人材が必要であることから、プレマネジメント層(通称:G4等級)に求める人材像を「積極的かつ主体的な行動」ができる人材と定義しています。

育成プログラムのコンセプトは、自職場のあるべき姿を設定し、周囲を巻き込み、試行錯誤しながら組織成果を上げる活動を通じて、問題解決力と主体性を育むことと掲げています。

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具体的には、自らの問題意識と環境認識に基づいて目標を設定し、多様な情報源や人々にアクセスしながら周囲を巻き込んで課題に取り組みます。このプロセスを通じて、プレマネジメント層に必要な意識や行動の変容を促していきます。この育成プログラムはプロジェクトベースドラーニング(PBL)を採用しており、受講者が自ら活動を進め、そのうえで学び・気づきを言語化する仕組みや工夫が取り入れられています。

  • (様々な学習技法を介して、学習者が能動的に学びに取り組む)アクティブ・ラーニングの手法の一つ。
    学習者自身が自ら問題を発見し、課題を設定したうえで、課題解決のためのリサーチワークや実践活動を行い、その成果を報告書や作品にまとめ上げるタイプの学習活動で、自主性や創造性を育てる。特定の知識やスキルを身につけるのではなく、答えのない課題に取り組み、自ら問題を解決する能力や実践能力を磨く学習
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この育成プログラムの期間は約1年間で、昇格の審査も兼ねています。年度末にはその過程と成果について報告する機会が設けられています。プログラムは、準備フェーズ、立案フェーズ、実践フェーズの3つのフェーズで構成され、さらに各フェーズはWeb学習、オンライン研修、グループミーティング、職場での実践活動、プレゼンテーションなど、多様な活動を行うモジュールで組み合わされています。

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このように、多くの要素が組み合わさった充実したプログラムとなっており、受講生の主体性を引き出すことを目的として設計されています。

主体性を引き出す学びの設計と運用のコツ

――主体的な学びを引き出すためのプログラム設計や運用にあたり工夫されたことはありますか?

工夫した点は3点あります。1点目は、「多様な学習手段の活用」です。先ほどもご説明したように、いくつかの異なる学習手段を組み合わせています。従来、このプログラムは3日間の集合研修で実施していました。参加者には海外拠点の社員もいたため、複数回の集合は難しく、3日間で内容を凝縮していました。

しかし、コロナの影響とオンラインツールの発展を受け、プログラムを17個のモジュールに分解し、適切なタイミングでの学習を組み合わせることが可能になりました。この点で特に注力したのは、「適切な学習手段は何か?」という問いです。受講生それぞれが進捗やバックグラウンド、求める情報が違うため、集まって一律に学ぶだけではなく、多様性を前提とした最適な手法として個別のE-learningや職場での実践活動を組み合わせました。受講生にとって、移動時間が減少し、自分の好きなタイミングで学べるという利点もあります。一方で、自分自身で学習をデザインする意識や、計画的な活動プランが必要で、こういった活動をやりきることで主体性も育まれていきます。これは、初回のオリエンテーションでしっかりと説明し、一年間継続してフォローしていきました。

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2点目は、「協働的な学びを促進する設計」についてです。オンラインの学習プラットフォームと小規模なグループミーティングを導入しました。受講生がプラットフォームで課題を提出すると、同じ受講者グループのメンバーからフィードバックやアドバイスがもらえます。また、グループ単位でのミーティングも実施し、さらに深い学びを促しています。このような形で、講師から教えてもらうのでなく、自分たちで対話し言語化する中で「自ら気づく」学びを促進しました。

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3点目は、「周囲の関わり方」についてです。昇格候補者と関わる上司も、このプログラムにおいて重要な役割を果たします。上司には「学びを引き出す」ような指導方法を強調しました。具体的には、上司用のガイドブックや学習プラットフォームも用意して、受講生がどのような学習をしているかを共有し、さらに各フェーズにおいて学びを引き出すための問いやフィードバックの観点を紹介しました。

これらの工夫によって、プログラム全体を通じて受講者が自ら考え、自ら行動し、自ら学びを言語化していく設計になっています。このプログラムでは、私自身も学習の設計や「インストラクショナルデザイン」について学び、受講生と一緒に成長できるように心がけました。

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受講生視点から見た'主体的な学び'に繋がる学習体験

――この研修に受講者としても参加されたとのことですが、主体的な学びに繋がった学習体験について教えてください。

グループメンバーと協働的に学べたことです。例えば、プログラムの終盤で作成する「学びのシート」は、各フェーズでの活動とアウトプットが上段に記載されています。そして、その活動から何が印象に残ったのか、なぜそれが印象に残ったのかを挙げ、自分自身にどのような変化があったか、考え方や行動の変化を記載します。最後には、プレマネジメント層として今後どう活躍していくべきかの教訓やポイントをまとめています。

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例えば、グループメンバーのAさんが失敗経験に基づいた発言をした際、それに対する私たちの反応は単に「なるほど、参考になる」といったものではありませんでした。むしろ、Aさんの考え方や学びに至るプロセスについてさらに深く掘り下げた質問を投げかけました。また、他のメンバーも似たような経験があった場合、その経験を共有し、皆で一つ一つの話題に対してさまざまな角度から議論を展開しました。

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このようなディスカッションを経て、グループとしての教訓やポイントが形成されていきました。一人一人の具体的な経験から抽象度を上げ、グループ全体の教訓に昇華させるプロセスを、私自身も受講生として体験しました。この教訓は教わったものではなく、自分たちで築き上げたものです。そのため、今ではそれが自分の行動の基軸となっています。これは一年間の研修期間を通じて築き上げたものであり、それが可能になったのもこの期間をしっかりと過ごしたからだと感じています。
研修のアンケートやコメントを見たところ、受講者がPBLとグループラーニングを主にしたこのプログラムから多くの学びと教訓が得られていることがわかりました。もちろん、改善すべき点や課題もまだありますが、受講者とともに今後さらにブラッシュアップしていきたいと思っています。

実際の学び(研修受講アンケートより)

Q この経験から何を学び、何を獲得した?

  • 人や時間のリソースを考慮しながら、バックキャスティングで課題設定しどうすれば達成できるかを考え実行した。プレマネジメント層としてこれらの大切さ・難しさを身をもって学んだ。
  • 一人でできることの限界を痛感し、いかに自身の想いを他者に共有するか、いかに力を借してもらえるリーダーであるかを自身に問い続けながら行動を試行錯誤した。これからも自身をアップデートしていくこと、必要に応じて視点や角度を変えてみる勇気を獲得した。
  • 「知っている」と「実践できる」は違うと学んだ。だからこそ経験すること、かつ、経験から学ぶことが大切であり、今後は部下・後輩たちにも経験の機会を提供しそこから学びを引き出せる存在でありたい。
  • これまでは上司が設定したテーマに従っていたが、顧客や市場のニーズ、将来のスケジュールに対して情報をより積極的に収集する意識が高まるようになった。自らテーマの妥当性やスケジュールなどを考える癖がついた。

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