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【新春特別号】 グローバル競争で生き残る術~世界から取り残されないために~

SANNOエグゼクティブマガジン

好むと好まざるとにかかわらず、多くの日本企業がグローバル展開をせざるを得ない状況にあるといわれて久しい。では、実際に日本企業のグローバル化はどの程度進んでいるのか、更なる成長を遂げるために日本企業が抱えている課題とは何か。学校法人産業能率大学 グローバルマネジメント研究所長 平田 譲二教授に話を聞いた。

心理的なバリアが阻む日本企業のグローバル化

―日本企業のグローバル化についてどのように捉えていますか

グローバル化は、端的にいうと輸出と対外直接投資の2つで捉えることができます。より広く捉えるのであれば、日本企業で働く外国人の増加もグローバル化の1つの側面ではあります。ただし、それは日本国内の労働力が外国人に置き換わっただけのことです。ここでは、製品やサービスを海外に売っているか(輸出)、海外に拠点をもっているか(対外直接投資)でグローバル化を捉えたいと思います。

このように捉えるのであれば、大企業の多くは既にグローバル化しているといえるでしょう。今後、中堅・中小企業のうちどの程度がそのような形態をとれるかということが、日本の課題といえます。

図表1は、主要国のGDPに対する対外直接投資残高と輸出額の比率です。日本の対外直接投資残高は16.4%、輸出額は14.0%。一方、ドイツは、それぞれ40.4%、41.3%とずいぶん比率が異なります。

また、中国のように発展途中の国が、対外直接投資残高が5.0%というのはわかりますが、輸出にいたっては、日本をすでに上回っています。韓国は、対外直接投資残高は14.3%と少ないものの、輸出額は49.9%。これは、サムスンやLGの元気さを見てもわかります。これらは非常にざっくりした数値ではありますが、日本企業のグローバル化がいかに遅れているかということを示していると思います。

―日本企業のグローバル化が進まないのはなぜなのでしょうか

通商白書2012(p.291)に非常におもしろいデータが載っています。『国内一般、取引先、自社、のそれぞれで、空洞化が起きているかどうかについて聞いたところ、「国内一般で」は7割弱の企業、「取引先で」は5割弱の企業が、それぞれ空洞化が「起きている」と回答しています。一方、「自社で」空洞化が「起きている」とした企業の割合(2割強)よりも、「起きていない」とした企業(5割強)が2倍以上になっている』。つまり、世間一般に起きているといわれている空洞化は、実際にはそれほど多くはないことがわかります。こういう認識ギャップのせいで、「うちも空洞化するのではないか」となかなか出て行けないのでしょう。

同じく通商白書2012に『海外と国内の業績(売上高)の関係をみると、海外での売上高が増加している企業のうち、約5割が国内の売上高も増加しており、海外での売上高が減少している企業のうち、約6割が国内の売上高も減少している。即ち、海外売上高と国内売上高はトレードオフの関係というより、同じ方向に動く傾向が高いことが分かる(p.297)』とあります。こうした事実があるにもかかわらず、海外に対する見えないバリアに恐怖心を抱いているというのが、日本の中堅・中小企業の経営者の心理なのではないでしょうか。

国内でビジネスをしている経営者は、同じような環境の経営者同士で固まってしまうものです。そのままでは、既に海外で成功している企業からの情報が入ってきづらいでしょうから、なかなか海外に出て行けない状況が続くと思われます。商工会議所や商工会、あるいはJETROなどが、経営者に情報を提供するといった支援が必要でしょうね。

空洞化回避のポイントは国際分業体制の作り込み

―実際に海外に進出する場面では、なにが課題になるでしょうか

空洞化を避けるために、自社のバリューチェーンの国際的な分業化をいかにうまく行うかということです。何を国内に残して何を海外でやるのかをうまく切り分ける。たとえば、「素材を海外から買ってくる⇒国内で中間財を作る⇒中間財を海外に輸出して、海外の拠点で完成品にする⇒日本に輸入して売る」という国際分業ができれば、国内は空洞化しないわけです。

日本企業が得意なのは、「擦り合わせ」です。丁寧にものを作るとか、組織としてのチームワークが求められる領域です。分野は限定されるかもしれませんが、高い技術力を必要とする仕事は、国内に置いておくべきでしょう。比較的汎用的な中間財などは、海外で作ってもらう。大きなバリューチェーンの中で国際分業をいかに位置づけるかということです。

また、経営学者の伊丹敬之教授は、「これから日本は電気代が非常に高い国になる。電気代が高い産業は海外にもっていき、海外で安い電力を利用するよう国際分業をすべき」と主張されています。産業として電力供給が欠かせないような業種は、電力供給のインフラができていて、しかも電気代が安い地域に出て行きましょう、日本には電力をあまり使わないような産業を置いておきましょうと。それゆえにこれからは、省電力でなおかつ付加価値の高い産業の比率を高めなくてはなりません。極端にいうと、クズ鉄を電気炉で溶かしてまた製品としての鉄に再生するような産業は、今後国内に置いておく必要はない。一般機械とか化学、食品といった比較的電力消費量が少なく、なおかつ付加価値が高い産業の比率を高めれば、日本は元気になるし、海外直接投資や輸出額が増えてくる。なおかつ国際分業する中で、海外の仕事が増えれば国内の仕事も自ずと増えるといった、連動性のある国際分業の形をきちっと作っていけば、空洞化にはつながらないでしょう。海外が忙しくなればなるほど国内の仕事も忙しくなる、そんな構造を作っていくのです。

―そうした国際分業がうまくいっているのは、どのような企業でしょうか

大企業はやはり多いですね、昔からそういうことを行っていますから。まずは自動車関連企業。あとは、建設重機のコマツ。同社の海外販売では、コア技術を必要とするエンジン本体や駆動部分は日本で作り、海外で組み立てて販売する。日本での販売は、海外で製造した付加価値の低い部材を輸入して日本で組み立てて売ります。そうすることで、コア技術を日本に残したままで、理想的な国際分業ができるわけです。

また、ユニクロのヒートテックは東レの繊維を使っていますが、それを中国やベトナムに輸出して現地で縫製して、それをまた日本に輸入しています。輸出と輸入の両方を行っているわけです。そういうことを面倒くさがらず地道にやる、システムとして成立させる。IT技術で全てのバリューチェーンを管理した上で、国際分業体制を丁寧に作り込む。こういう取り組みが、今後必要になってきます。

―大きなバリューチェーンの一部を担う、中堅・中小企業はどうでしょうか

中堅・中小企業といってもバリューチェーンの広い部分を担っている企業もあります。そういう企業はやはり国際分業を考えていかなくてはならない。しかし、一部しか担っていないのであれば、国内でやっていくのか海外でやっていくのかの見極めをつける必要があるでしょう。国内を畳んで海外だけで事業展開する、というのも1つの選択です。

日本国内ではあまり知られていないですが、中国で大成功を収めている味千ラーメン(重光産業株式会社)という企業があります。日本国内には、コストを掛けたすごいスープを出すお店が沢山あるわけですよ。そういうお店と競争するのではなく、日本風のラーメンを中国で売って何が悪いと。割り切りですよね、1つの。

「人材がいない」は単なる言い訳

―多くの中堅・中小企業の経営者が、意思決定に悩んでいる状況なのでしょうね

そうだと思います。きちんと世界を見ている経営者は、海外に出て行っているけれど。通商白書2013によると、『非海外進出企業のうち、自社の製品・サービスが海外市場で通用すると「思う」「まあ思う」と考えている中堅・中小企業は50.2%、また非製造業に限定すると44.8%と、いずれも約半数が自社製品・サービスに自信を持っていることがわかる(p.30)』とあります。つまり、海外に出ていない企業のうちの半数は、自社のビジネスが海外で通用すると考えているのです。こういう会社が「海外に出ましょう」となれば、日本はこれから海外との取引が多い構造の国になれるでしょう。

韓国は、1997年のIMF危機を経て産業内の企業統合が進み、国内産業内での競争が軽減されました。そうすると、海外に積極的に出て行けるわけですよ。でも、日本は国内で過当競争を繰り返しているから外に出て行けない。2012年に新日本製鐵と住友金属が統合しましたが、あれは正解ですね。国内で競争している場合ではない、中国やインドに負けてしまうと。今後、賢明な経営者がそのような意思決定をしていけば、日本の市場も良くなっていくでしょうね。これが、ポーターが言っている「業界内の対抗度」が低くなるということです。国内の競争が激しくなくなれば、その分余力を海外に振り向けることができるようになる。日本のマーケットはある程度大きいから、国内で競争するのが仕事だと思っている経営者が比較的多い。それぞれの産業で、国内の競争はまぁ適当でいいじゃない、海外でもっと競争しましょうと、そういう構造になればいいのです。

―海外に出ることのリスクを考えて慎重になっている面もあるのでは

本当に「国内事業だけでは危ない」という経験をすると「海外に行こう」となるでしょうが、今日は昨日の延長、明日は今日の延長という気持ちで仕事していると、なかなかそうした危機感は生まれませんね。

中堅・中小企業は大企業に比べて、経営者の色が濃く出るわけです。経営者が海外を志向するか否かで企業行動が全く変わってきます。日本人の多くは、中堅・中小企業に勤めています。だから、そういう企業が頑張らないと。大企業は、うまくいっているかどうかはともかくとして、国際分業体制が既にできあがっているところがほとんど。やはり、それを支えるような中堅・中小企業がしっかりやっていけるかどうか、というのが大きいのです。

高圧洗浄機のケルヒャーという会社をご存知ですか?今では世界各国に販路をもっていますが、もともとはドイツの中堅企業です。わざわざ日本に出てきてうまく販路を切り開いてきたのです。今後、我々が知らないようなドイツ名の企業がじわじわと出てきますよ。そんな感覚で日本企業も海外に出て行けばいいのです。付加価値が高くて単価の高いものであれば先進国へ、そうでないものであれば発展途上国へもって行く。そのためには、地元に密着したマーケティングが重要になってきます。地元の人が何を求めているのかということをしっかり把握して製品化していく。

―マーケティング能力が、海外市場で成功する鍵を握るということですね

非常に難しいことですが、海外で成功している自動車メーカーでは当たり前のようにやっていることです。かつては日本市場向けの車をそのまま海外に輸出して、アメリカで馬力がないと酷評された。モーターウェイに入っていくときの加速が全然つかないから運転者が怖いというわけです。ヨーロッパでは、日本車はよく錆びるといわれた。そういう経験を踏まえて、自動車メーカーは現地でマーケティングすることがいかに大切であるかということを学んできたわけです。だから、日本の自動車メーカーは国際分業ができています。ただ、このような考え方ができるようになるには時間がかかります。だから、国内だけで事業をしている企業は、国内向けに作った品質とスペックでもいいから、海外にとりあえず出す。その後さまざまに学習すればいいのです。

海外市場との接点が生まれると、知らなかった情報がどんどん入ってきます。中にはイノベーションにつながる情報もあるでしょう。そこで初めて、自分たちのビジネスが最適であるのかどうかという学習効果が生まれてきます。そこで学習ができた企業は、今度は直接投資してみよう、国際分業してみようとグローバル化が進むのです。

―学習効果が出るまで耐えられるだけの体力が必要ですね

それはそうですね。国内できちんと企業としての利益基盤ができているのが望ましいですね。ただ、国内で行き詰まったので出るという企業もあるでしょう。そういう考え方ももちろん正しい判断です。例えば昔のホンダがはじめて4輪を作った1960年代には、日本の販売網はトヨタ、日産など既存の4輪メーカーにおさえられていた。そこでいち早くアメリカに出て、市場ニーズに合うように努力した結果、アメリカでのシェアをぐんと高めました。そこからホンダの規模が大きくなっていくのです。当時のホンダは、いわゆる中堅企業です。それが今や世界的に名だたる企業になった。海外へ飛び出すことで学習効果を蓄積してきたのです。だから、今の中堅・中小企業もそういうことをやっていけば、10年20年たったときにそれなりの成果が得られるはずです。

―海外進出が進まない理由として「人材がいない」という言葉をよく聞きますが

私が自動車会社に勤務していた頃、ヨーロッパのディーラーの社長に会うと、売れているディーラーの社長からは前向きな発言がドンドン出てきました。地方の小さな商圏でも、お店でパーティーなどを企画して顧客の信頼を得て、アフターセールスやサービスで儲けていました。一方、大都市の大きな商圏にもかかわらず、売れないディーラーの社長は、これが悪いあれが悪い、と全てのことを商売がうまくいかない言い訳に使います。同じように、「人がいない」という社長は、それを海外進出しない理由にしているのです。進出したい社長はなんとかして人材を見つけてきますから。中途採用だっていいし、仕事できる人を海外へ放り出したっていいわけです。結局、グローバル化するかしないかは、トップの意識次第ということなのです。


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