テレワーク時代に求められるOJTのあり方

「テレワーク時代に求められるOJTのあり方

毎年新入社員を迎え入れる職場では、今年度の新入社員育成を振り返り、次年度に備えたいところであろう。コロナ禍の対応の一環として企業・組織におけるテレワークが導入されて2年目の春を控える今、各社における新入社員育成の考え方や実施方法は、テレワーク仕様へシフトチェンジできているだろうか。

そこで今回は、テレワーク時代に求められる新入社員育成・OJTについて取り上げる。『新入社員育成のめざすべき“照準”の変革』、『OJTの再定義と実施方法の再検討』、『「自分育てができる人材」を育成するために職場で共有したい“3つの事柄”』の3本柱で論じたい。新入社員の立場に立った効果的な新入社員育成・OJTを再考する材料になれば幸いである。

新入社員育成の照準は「自律型人材」から「自分育てができる人材」へ

かねてより、人材育成において「自律型人材」つまり「自ら考え、行動できる人材」を育てる必要性が声高にいわれてきた。テレワークでは、常に上司や先輩が傍にいるわけではないため、自ずと「自ら考え、行動」せざるを得ない。さらに、大企業をはじめとして「メンバーシップ型」から「Job型」への移行や副業容認・推進等、働く“個”の実力が問われる時代に突入し、各人が自分の強みや弱みを認識し、実力を磨き続けることが求められている。

こうした状況を踏まえると、新入社員育成もその“照準”から変えていく必要があるだろう。これまで新入社員育成のねらいとされた「自律型人材」では十分といえず、自ら学び、成長させようとする人材、つまり「自分育てができる人材」の育成へと拡げることが必要ではないだろうか。この「自分育てができる人材」とは筆者の表現だが、「自律型人材」の要素に加え、「自分でもできそう」という“自己効力感”と自分を成長させようとする“成長意欲”を持ち合わせた人材を指している。テレワーク時代にはこうした自己完結できる人材の育成が急務であり、テレワークによるOJTのプロセスそのものを、「自分育て」の機会とする必要がある。

“自分育てができる人材はあらゆる仕事経験を自分の成長の糧にできる”

OJTを再定義するための3つの視点

新入社員の入社に備え、OJTを再考するならば、自社の人材育成方針を再確認し、自職場のOJTは「何をめざし、何をするものなのか」を再定義した上で、テレワーク環境を活かした実施方法を考えてみていただくことを提案したい。OJTを再定義するには、OJTで新入社員の何を支援するかを確認することが有用である。下記に参考情報としてOJTで支援する3つの観点を例示する。いずれも新入社員がテレワーク環境下で抱く迷いや不安を払拭するのに外せないポイントといえよう。

OJTの3つの支援の観点※1

1.「業務」の支援:新入社員が迷わず、悩まず、業務遂行できるための支援

  • 担当業務に関する情報の共有:業務の目的、組織全体における位置づけ・重要性、判断基準、業務遂行の手順等
  • メンバーシップ支援:組織・職場の役割分担、情報共有のルール等
  • 視野・視座拡大支援:経営方針・戦略とのつながり、他部署・取引先との関係等

2.「動機づけ」支援:非対面状況だからこそ配慮すべき、新入社員それぞれに合った精神的な支援

  • 心理的安全性への配慮と環境づくり:新入社員の“存在価値”の職場内共有、相談相手の複数配置等
  • やる気支援:新入社員のやる気スイッチ、新入社員の発想・アイデアの職場内共有等
  • 成長実感支援:事実ベースでの承認・賞賛、成長度合いの共有等

3.「振り返り」支援:テレワークでも実施可能な、新入社員を主体とした経験学習を促す支援

  • 振り返りの重要性に対する共通認識:振り返りの意味・価値、ポイントの共有等
  • 振り返りのしくみづくり:「アクションプランシート※2」等の活用、職場内共有等
  • 振り返りの習慣化支援:定期面談等、定期的に振り返る場づくり等

※1 OJTの3つの支援の観点は、中原淳著『職場学習論-仕事の学びを科学する』(東京大学出版会)等に、人材育成に有効な職場の原動力およびビジネスパーソンに必要な3つのキーワードとして記載されている「業務支援」「内省支援」「精神支援」をもとに筆者が加筆・整理したものです。

※2 「アクションプランシート」とは、新入社員がPDCAを整理し振り返り、定期面談の材料にするもの(例としては2週間ペース)。

「自分育てができる人材」を育成するために職場で共有したい“3つの事柄”

「自分育てができる人材」の育成には、まず、上司、OJTリーダーが育成の方向性を擦り合わせた上で、職場全体でその方向性を共有していくことが有用といえる。下記に職場全体で特に共有したい事柄を挙げたので、ぜひ、新入社員の目線でこれらの事柄を共有する有用性を考えてみていただきたい。

  • 存在価値・強み:新入社員の “自己効力感(できそう感)” や “居場所感” の醸成が狙い。
  • 組織のビジョンと担当業務とのつながり:組織の中の自分の立ち位置の認識、組織ビジョンに基づいた判断基準の醸成が狙い。
  • 進捗状況・成長感覚:他メンバーとの協働感覚、成長感覚の醸成が狙い。

テレワーク前提の今後の働く環境を考えると、新入社員育成の“照準”を「自律型人材」から「自分育てができる人材」の育成に拡大させていくべきだと考える。「自分育てができる人材」の育成を推進するには、自職場のOJTを再定義し、導入・継続可能な方法を、新入社員にもアイデアを求めながら試行錯誤していくことをお勧めする。
ぜひ、コロナ禍による環境変化を前向きに捉え、「自分育てができる人材」の育成を念頭に置いた、新しい時代の新入社員育成に取り組んでいただきたい。

執筆者プロフィール

学校法人産業能率大学 総合研究所
経営管理研究所
研究員 井出 久美

※筆者は主に、コミュニケーション研修、チーム力強化の人材育成研修などを担当。
※所属・肩書は掲載当時のものです

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