シニアのリスキリング ~PythonとAIでシニアの暗黙知を形式知化~

シニアのリスキリング~PythonとAIでシニアの暗黙知を形式知化~

労働人口の高齢化が進む中、シニア社員のポテンシャルを最大限に活用することが企業の重要な課題になっています。

本記事では、本学が推進する「Pythonによる業務効率化プロジェクト」を取り上げ、リスキリングに取り組むシニア職員を紹介します。プログラミング未経験から、どのようにして業務効率化が実現されたのか、その背後にあった問題意識やモチベーションの源泉などについて、リスキリングを実践された当人である樋口泰浩さんにインタビューしました。

プロフィール

樋口 泰浩 (Higuchi Yasuhiro)

学校法人産業能率大学 総合研究所 研修管理部 講師管理課

樋口 泰浩
(Higuchi Yasuhiro)

教育・研修のアドバイザー業務を経験した後、現職。20年以上にわたり契約講師の育成と管理業務に携わる。プログラミングは未経験からのスタート。プロジェクト参加をきっかけにPythonとAIを学び、業務効率化を実現。

発端は、自身の経験や暗黙知を後続にどう引き継ぐかという問題意識から

――リスキリングしようと思った目的やモチベーションについて教えてください。

私が約1年後に退職を控えている中で、自身が保有する暗黙知や経験を後続にどう伝えるかという問題意識がありました。そのような中、今回のプロジェクトに参加して、テクノロジーを活用することでこの問題が解決できることを知りました。それがリスキリングの目的であり、モチベーションとなりました。また、退職後も何かしらの仕事をしたいと考えており、キャリアの幅を広げておくこともモチベーションの一つでした。

――暗黙知や経験を要する対象業務について具体的に教えてくれますか?

現在、私は、本学が開発した研修プログラムを契約講師に伝達するためのレッスンプラン作成を担当しています。従来の伝達方法は、各研修プログラムを契約講師の皆さんに受講していただく方法が中心でしたが、伝達の精度を今まで以上に高めるためには、トレーニングツールを再整備する必要がありました。その一つが、精緻なレッスンプランの作成です。当初は、マスター講師が実際に該当の研修を実施したものを録画し、その録画データをもとにレッスンプランを作成する予定でした。しかし、録画データを視聴しながらのレッスンプランの作成には、かなりの工数を要します。さらに、ある程度講師育成の経験が無いと内容の品質を担保できないといった課題もありました。

――その問題をテクノロジーで解決したのですね?

そうです。当プロジェクトリーダーである藤原さんにこの問題を相談し、解決し得るテクノロジーを提案してもらいました。具体的には、OpenAIが開発した音声認識モデルの「Whisper」と大規模言語モデルの「ChatGPT」のAPIを活用することで、研修インストラクションの録画データ(あるいは録音データ)からレッスンプランを自動で作成する(下図)というものです。これらは、Pythonによるプログラミングで実行する必要があったので、プログラミング未経験者である私は必然的にリスキリングに取り組むことになりました。

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大事なのはテクノロジーで「何ができるか」を知り、使ってみること

――リスキリングの過程で苦労した点などあれば教えてください。

苦労した点はほとんどありませんでした。プロジェクトリーダーの藤原さんがマニュアルを作成し、複数回にわたり勉強会を開催してくれたことや、躓いたときにはフォローもしてくれたおかげで、比較的円滑にリスキリングに取組めたと思います。ただ、個人的には、リスキリングをしているという意識はあまりなくて、どちらかと言うと自身がやっている業務を新たなプラットフォームに載せ替えていくイメージでした。そのなかで大事だと思ったのが2点あって、一点目は、テクノロジーで「何ができるか」を知ることですね。そもそも、OpenAIのWhisperやChatGPTの技術で「何ができるか」を知らなければ、先述の問題を解決しようという発想には至らなかった。次に大事な点は、知ることで留めず、実際に手を動かして使ってみることです。当たり前のことを言っているようですが、これがベテラン、特にシニアにとってはハードルが高いと思います。そういう私もプロジェクトにアサインされたときは、「一体、何をやらされるんだろう、プログラム言語なんて全く分からないし・・・」と不安でした。でも、当プロジェクトのキックオフミーティングでリーダーの藤原さんが「全然難しくないですよ。初心者でも簡単にできます」と言ってくれたのが、今思えばリスキリングに取り組む大きな後押しになったと思います。

マニュアルを確認しながら、Pythonでプログラムを実行する樋口氏

ChatGPTへのプロンプトは引継ぎ材料にもなる

――リスキリングを経て、業務にどのような変化がありましたか?また、今後の展望も教えてください。

一番の変化は生成型AIによる業務活用の可能性を考えられるようになったことですね。今回、ChatGPTを活用して分かったのが、自身の経験や暗黙知を言語化したものをプロンプトとして入力すれば、6~7割程度の品質でアウトプットしてくれることです。当プロジェクトの取り組みを通じて、私自身の観点や判断基準を言語化する良い機会になりましたし、言語化したプロンプトは後続への引継ぎ材料になりました。今はさらに精度を高めることや他のトレーニングツール作成への適用など、さまざまな業務への活用可能性を模索しています。在籍期間も残すところあと1年少しですが、ChatGPTを始めとするテクノロジーを使い倒し、自身の経験や暗黙知をできるだけ組織に残していきたいと思います。

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