ビジネススキルとは?ビジネスパーソンと人事に役立つ基本を徹底解説

ビジネススキルとは?ビジネスパーソンと人事に役立つ基本を徹底解説

ビジネスの現場では、それぞれが成果を出すことが求められます。それを支える能力として重要な「ビジネススキル」について、基本知識から身につけるべきスキルの考え方、さらに階層別・熟達度別のスキルの伸ばし方まで、わかりやすく解説します。

筆者プロフィール

金田 良子 (Kaneda Yoshiko)

学校法人産業能率大学 経営管理研究所
技術経営&コミュニケーション研究センター 主幹研究員

金田 良子
(Kaneda Yoshiko)

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※所属・肩書きは掲載当時のものです。

ビジネススキルとは

ビジネススキルとは、仕事において成果を出すために必要な知識・スキルのことを指します。ビジネスパーソンとしての基本的なスキルから、エキスパートや管理職・経営幹部に求められるスキルまで、その種類とレベルは多岐にわたります。

ビジネススキルの獲得・強化は、成果を出すために必要なものです。このビジネススキルは実践的なもの、いわゆる「実践知」であり、言語で表現できる客観的な「形式知」と、明確に言語化できない「暗黙知」の両方から構成されます。

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なぜビジネススキルが重要なのか?

ゴーイングコンサーンの前提を持つ組織は、その存続のためには成果を出し続けなければいけません。一方でビジネスパーソンのキャリア開発や生活は、組織の存続に依存しています。このように考えると、組織と個人が共に存続・発展していくためには成果を出し続けることが不可欠であり、その実現を支えるのがビジネススキルなのです。

今後は、社会・ビジネス環境の変化が激しく、変化も非連続性が高まることが指摘されており、そういった変化に伴って求められるビジネススキルも変わってくるはずです。組織と個人の成果を支えるビジネススキルの獲得・強化は、今後ますます重要になっていくでしょう。

  • ゴーイングコンサーン・・・企業などの組織が将来にわたって事業を継続していくという前提のこと

ビジネススキルの主な分類

仕事で成果を出すために必要なビジネススキルの種類は様々なものがありますが、今回は「カッツモデル(カッツ理論)」を紹介します。カッツモデルでは、ビジネススキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類しています。

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テクニカルスキル

テクニカルスキルは「業務遂行能力」と訳され、担当する業務を効果的・効率的に進めるための知識・スキルを指します。専門的な知識・スキルのみならず、それらを管理するためのタスク管理スキルも含まれます。

営業職であれば「商品知識」や「商談を進めるためのノウハウ」、事務職であれば「事務処理のための手続き」や「関連する法律知識」、技術研究職であれば「技術的なノウハウ」「担当領域の技術的メカニズムに関する知識」「研究開発の知識・スキル」などが該当します。

ヒューマンスキル

ヒューマンスキルは「対人関係能力」と訳され、他者と協働していくために必要な能力全般のことを指します。そこには、仕事で関わる相手のことを理解し、よい関係を築き維持するためのコミュニケーション力のほか、自分の言動をコントロールするといった能力も含みます。具体的には、ビジネスマナー、基本的コミュニケーション力やプレゼンテーション力、交渉・調整力、ファシリテーション力やリーダーシップ力などが該当します。

コンセプチュアルスキル

コンセプチュアルスキルは「概念化能力」と訳され、複雑な状況を把握しその本質を見抜き、そこから問題・課題を形成しアプローチしていく能力を指します。いわゆる、ビジネスにおける問題・課題を発見・解決することに関連する能力です。具体的な能力としては、状況把握力や情報分析力、構想力や問題解決力などがあります。

なお、それらのスキル発揮を支える土台となる能力として、論理的思考や批判的思考、創造的思考などがあります。

あなたに求められるビジネススキルとは?

カッツモデルの3つのスキルは役職やキャリアによって変わります。

職位・役職別

カッツモデルとは、マネジャーに求められる基本的なスキルを整理したものです。マネジャーの職位・役職を、ロワー・ミドル・トップの3種類に分け、それぞれの職位・役職に必要な機能(役割)の違いから、求められるスキルを示しています。

ロワーマネジメント(監督者層)

ロワーマネジメントは、係長・主任など、現場で一般職層を指揮する立場を指します。この職位・役職ではテクニカルスキルが最も重要で、同程度にヒューマンスキルも必要です。なぜならロワーマネジメントは、職場のメンバーに対する直接的業務支援と職場のメンバーの協力を獲得することが中心的機能となるからです。

もちろんメンバーや現場で発生した問題解決をすることも必要ですが、その内容は基本的にテクニカルスキルを活用して行われるものです。したがって、コンセプチュアルスキルももちろん必要ではありますが、他のミドルマネジメントやトップマネジメントと比較すると、その割合は小さくなります。

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ミドルマネジメント(管理職層)

ミドルマネジメントは、部長や課長などの中間管理職を指します。この階層は、経営職層が示す組織全体の方針や目標を、管掌する部門の方針・目標へと展開し現場に浸透させる役割があります。それと同時に、メンバー個々人のモチベーションの維持・向上とチームとしての協力体制を構築・統率し、さらには職場間の連携・経営層と一般職層の橋渡しといった、組織内の縦横斜めの連携を図る機能も求められます。

したがって、最も必要とされるのはヒューマンスキルです。ただし、管掌部門の業務方針・目標を策定したり課題形成・解決を図ったりするため、テクニカルスキルとコンセプチュアルスキルも必要となります。カッツモデルを見ると、ミドルが3つのスキルをバランスよく保持することが求められることが分かります。

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トップマネジメント(経営職層)

トップマネジメントは、CEOや取締役、執行役員が該当します。この階層ではコンセプチュアルスキルが最も重要で、次にヒューマンスキルが求められます。なぜならトップの機能が、全社の方針・戦略の策定、重大な経営判断、事業変革の推進など、組織全体に関わる施策の決定に紐づいており、かつ組織全体に対するリーダーシップが不可欠となるためです。

もちろん事業変革においては自組織の事業に関わる専門的知識も必要となることはありますが、経営判断に必要なレベルで構いませんし、そもそも専門性を補う存在を配置することで対応可能です。以上のことから、最もコンセプチュアルスキルが重要であり、次いでヒューマンスキルも必要であるといえるのです。

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このように見てくると、現場に近いほどテクニカルスキルが重要で、上位階層・職位に行くほどコンセプチュアルスキルが重要であることが分かります。

ヒューマンスキルについては、マネジメントが「他の人の行動を指揮することで組織目標の達成をめざす」存在であることを考えると、いずれの階層・職位にも求められますが、その対象とレベルは大きく異なります。

監督者層のヒューマンスキルは「現場で作業するメンバーに対するもの」です。管理職層は、監督者層の対象者に加え、経営と現場・各部門間の意志疎通へと対象が拡大し、対象者の立場と関心が複雑化します。トップマネジメントの場合には、集団の関心と行動を一つにまとめるレベルであり、明らかに監督者層や管理職層とは異なることが分かります。

キャリア別

カッツモデルは1955年に提唱されたものです。半世紀以上経過した現在の社会・ビジネス環境においては、一般職であっても3つのビジネススキル領域が求められるようになりました。ただし、求められるスキルは業務の熟達レベルによって変わります。

ここでは、仕事などの経験を通して能力を獲得し高いレベルのパフォーマンスを発揮できるようになる「熟達化」という考え方を利用し、Dreyfus(1983)の示した「初心者」「上級ビギナー(見習い)」「一人前」「上級者(中堅者)」「エキスパート(熟達者)」の5段階を参考に、代表的なビジネススキルを紹介します。

新人(熟達段階;初心者)

新入社員の段階で身につけるべきスキルは、テクニカルスキルです。具体的には、定型業務の基本手順と方法を習得すること、さらに、与えられた仕事を確実に遂行するためのタスク管理スキルの確立が重要となります。また、仕事で関わる人たちと良い関係を築くためのビジネスマナー、指導を受け止めるための傾聴力や他者と連携を図るためのホウレンソウといった、基本的なビジネスコミュニケーションスキルの確立も不可欠です。このように、テクニカルとヒューマンスキルの土台作りが大切ではありますが、併せて、先々のコンセプチュアルスキルの土台として論理的思考と目的探索思考といったスキルを磨いておくと良いでしょう。

若手(熟達段階;上級ビギナー)

2年~3年目の若手社員は、基本的な手順・方法は理解し定型的状況であれば業務を自律的に遂行できます。しかし複合的状況・イレギュラーな状況への対応には上司・先輩の支援が必要な上級ビギナーの段階です。この段階ではイレギュラー対応のためにテクニカルスキルの知識・スキルに磨きをかけること、そして複数の仕事を管理するマルチタスクの管理スキルが求められます。さらに、自分の考えを的確に伝えるためのプレゼンテーション力やアサーティブコミュニケーション力なども求められます。なお、コンセプチュアルスキルのベースであり相手にあわせたコミュニケーションの実践を支える批判的思考のスキルも、この段階から求められます。

中堅初期(熟達段階;一人前)

4年~5年目以降の社員は、これまでの経験からテクニカルな知識・スキルは実践知として一定レベル保有した中堅初期段階といえます。予測的対応や処置など、発生型問題の適切な処置が求められます。したがって、テクニカルスキルは当然のことながら、担当業務の問題構造を分析するコンセプチュアル系のスキルが求められます。また、後輩の指導・育成への関与も期待されることから、ヒューマンスキルに該当する人材育成スキル、自分がどのように見えるか把握しコントロールするためのメタ認知スキル、上司・同僚に提案をするための企画提案力も必要となります。

中堅(熟達段階;上級者)

職場業務の中核を担う中堅社員は、イレギュラー対応も含め担当する業務を遂行するのみならず、後輩の業務支援と上司の補佐的役割も求められます。この段階では、職場の全体的状況からタスクをマネジメントするスキルと、他部門との関連などの組織全体の動きから担当業務を見つめ適切な対応を行うスキルも求められます。また、問題を自ら発見し解決を図るといったコンセプチュアル系のスキルも必要となります。ヒューマンスキルとしては、交渉・折衝力や、周囲へのプラスの影響を与えるために自身のモチベーションや能力を前向きにコントロールする自己管理スキル、上位者へのフォロワーシップのスキルなども必要となります。なお、自分の業務遂行や他者関与のあり方を内省し新たなやり方を検討・受容するアンラーニングのスキルも必要となります。

エキスパート(熟達段階;熟達者)

業務に関わる膨大かつ高度な知識・スキルを持ち、状況から問題の兆候をいち早く・直感的に把握し、創造的に解決を図ることができる段階です。この段階では、自身の専門領域に対する高度な知識・スキルは当然のこと、周辺技術の知識・スキルも求められ、専門性の深化と拡大のために学び続けるスキルも求められます。ヒューマンスキルの面においては、組織や業界を超えた人脈を形成するスキルと、ポジションに頼らず上下左右に影響を与えるリーダーシップ力も求められます。コンセプチュアルスキルの側面でいうと、ものごとの本質をその高い専門性をベースに素早く見抜く思考スキルと、これまでにない解決策を考える創造的思考のスキルが求められます。

ビジネススキル向上のためのヒント

求められるビジネススキルを向上させるためには、以下の見極め3つの行動を心がけると良いでしょう。

まずは、求められるスキルと保有スキルの見極めをしましょう。
「自身の役割では、どのようなスキルが必要なのか」
「自分はどのレベルになっているのか」
「何ができて、何が課題なのか」

これらを見極めること、それがスタートです。

行動①さまざまな仕事に挑戦する

実践知であるビジネススキルを磨くには「経験」が絶対に不可欠です。もちろん、慣れていないことは時間もかかるし失敗するリスクもあります。しかしそれでも、新たな仕事経験を求めて挑戦し、その経験を省察し、自分なりの前向きなノウハウを作り上げましょう。そしてそれを意識的に実践し続けること、そうすることで確実にビジネススキルはアップします。

行動②他者から学ぶ

仕事で活躍する人材の真似をしてみること、さらに他者からのフィードバックを積極的に求めましょう。他者からのフィードバックは時に、ネガティブな内容もあります。しかしそこには、自身のスキル上の課題があります。自分本位の姿勢を捨てフィードバックを求め、改善を図ると良いでしょう。なお、ここでいう「他者」とは、職場・組織外の人も含みます。さまざまな人と積極的に関わりをもつようにし、彼らからも学んでいきましょう。

行動③体系的な知識を得る

ビジネススキル向上のためには、体系的な知識を得ようとすることも大切です。私たちの時間は有限、必然的に経験も限定的となります。その結果、ビジネススキルが部分的・主観的になりすぎる可能性もあります。また、経営学などの社会科学の分野もこれまで以上に研究が進んでおり、より実践的な知見を体系的に見出すことができます。したがって、実用・専門書を読んだり研修を受けたり、また、大学や大学院などに通い、ビジネススキルに関連する知識を最新化・体系化することも重要です。

まとめ

ビジネススキルは、仕事で成果を出し続けるために不可欠な実践知です。テクニカル・ヒューマン・コンセプチュアルの3つがありますが、必要なレベルは階層やキャリア、そして時代によって変化していきます。自分自身の未来のためにも、仕事経験と体系的学習によって自ら積極的に獲得・更新していくことが重要です。

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